色々とバラす
「聖女様は、皇太子に「主婦が聖女になれる訳がない」と言われ、右も左も解らない異世界に放り出されたそうですが……元の職業は関係なく、異世界から召喚された方は皆、浄化能力を持つのです。魔族でも知っていることを何故、召喚技術を持つ皇国の方が知らないのでしょう?」
老執事がそう言っている間も、池や周囲の浄化は進んでいく。けれど、半分くらいまで完了したところで老執事は小さな魔王を抱いた聖女を池から離れさせ、代わりに懐から水晶が連なるネックレスを取り出した。
「ですが……一方で、今回の聖女様は母親でもあるのです。魔王様と意気投合したのも、同じくらいのお子様がいるからで……そこで、我々魔族は考えました。瘴気をこうして『封印』し、取り除いていけば聖女様をお子様の元に『戻す』ことも出来ますし、今後も聖女を召喚する必要はないと」
そんな老執事の言葉と共に、黒い影がいくつも泥池からダリスへと向かって渦巻き、そのネックレスに吸い込まれていった。そして、透明だった水晶の一部が黒く染まった代わりに、残り半分の泥池は綺麗に澄んだ池へと変わった。それだけではない。あれだけ暗かった森なのに、今は目に見えて明るくなっている。瘴気の影響恐るべしだ。
「魔王様が、瘴気の原因だという『誤った認識』を持つ方もいるでしょう。しかし皆様、こんなに小さく愛らしい魔王様に、そんなことが出来るとお思いですか? ……瘴気は『生きとし生ける者全て』の負の感情が淀んで凝って、瘴気になるのです。勿論、魔王様が現れることで不安が増すのかもしれませんが……その瘴気のせいで暴走した獣が魔物になったり、病人が増えたりするのはご存じですよね?」
老執事が、映像を見ている者達の疑問に答えるように言った。『人間』を『生きとし生ける者全て』と変えたのは、人族からの反発を和らげる為である。
そして一旦、言葉を切って水晶のペンダントを懐へとしまった。
「魔族は、人族の何倍もの魔力を持っています。それ故、幼子の暴走を防ぐ為にこうやって道具を使って吸い取り、封じるのです。聖女様と違って無料での奉仕という訳には参りませんが、逆にお金さえ払って頂ければ皇国以外からの依頼も引き受けます……聖女様? これで安心して、元の世界に戻れますでしょうか?」
そう話を締め括り、老執事はそのまま敬意を示すように手を胸に当てて聖女達へと頭を下げた。そんな老執事に聖女が目を潤ませ、小さな魔王が気遣うようにぷくぷくの手をその頬に伸ばす。
「ありがとうございます……いきなり追い出され、途方にくれていた私を受け入れてくれただけでもありがたいのに我が子や、これからの聖女のことまで考えくれるなんて……魔王様や魔族の方々の、何と慈悲深いこと……」
「せいじょさま、なかないで! あとはジブンたちにまかせてね!」
「魔王様……」
健気な魔王の言葉に、見ている者達の大部分はほっこりと癒され――召喚しておいて、聖女を追放したとバラされた皇国の面々は青ざめることになる。
元々、先にプロットを考えたのがこちらで。ただ、我ながら(ヒロインが主婦とか)趣味に走ったので、もうちょっと解りやすくしたのが別作品『ドアマットヒロインは魔王のお気に入りになる』でした。その為、ヒロインや展開など違うところもありますが、世界観などは同じです。




