自己紹介
天ぷらのレシピをダリスに渡し、王宮で一泊して朝食をご馳走になった次の日。
「抱っこさせて頂きますね、魔王様」
「うんっ!」
元の世界に帰るので、今までの荷物とセバエへのお礼の手紙は魔王城に置いていくことになった。そして、いつものワンピース姿になった舞はラルヴァを抱いて、その姿を姿見に映してみた。
「……魔王様、小さくてかわいいですね」
「マイさまのほうが、かわいいよ? でもこれなら、じんちくむがいにみえるかなぁ?」
「難しい言葉を知ってますね……でも、ええ、そうです。『人畜無害』で、それこそ無力な母子に見える組み合わせですよ。ダリスさんが加わっても、これなら視覚や心情に訴えられると思います」
強いとのことなので、もしかしたら着痩せしているのかもしれないが――執事姿のダリスも一見、細身の老人だ。魔力を感じられるならその限りではないかもだが、舞のようにそういうものが感じられない
一般人には髪の色が同じこともありか弱い母子と、二人を守る健気な老執事にしか見えないと思う。
「これから魔法で国中、いえ、皇国を含めた他国にも我々の姿を発信します……そちらの世界では、テレビと呼ばれるものに近いらしいですね」
「魔道具もだけど本当、この世界って便利ですね」
とは言え、魔道具は荷物になるのもだがそもそも持って帰っても使えるか解らないので、置いていくことにした。欲張ってはいけない。今の舞は、こうしてラルヴァ一人だけ抱っこ出来れば十分だ。そして無事に戻って、また息子の工を抱っこするのだ。
「では、参りましょう」
「うんっ」
「はい」
固く決意した舞に、ダリルがそう声をかけ――次の瞬間には、舞達は夜かと思うくらいに暗い森の中におり、目の前には泥かと思うくらいに濁った池があった。
※
その日、世界中にある映像が発信された。
華奢な女性と、その腕にすっぽり収まるくらいに小さな子供。そして、そんな二人を守るように寄り添う老人。格好からすると、執事だろうか?
本来、こうした映像は国王や貴族の慶事に使われる。けれど今、映っている三人はそれにはあてはまらず――戸惑う面々は、女性から告げられた内容にギョッとすることになる。
「初めまして。私は、異世界から召喚され……けれど主婦だからと、すぐに無一文で放り出された聖女です」
「ジブンは、せいじょさまをたすけたまおうですっ」
「我々魔族は、何も教えられずにただ役立たずと罵られた聖女様を保護し、元の世界に戻すことにしました……とは言え、口だけでは信じられない方もいるでしょうから。聖女様の力と、魔王様からの提案を示させて頂きます。聖女様? 直接、触れなくても良いのでもう少しだけ、この池に近付いて下さい」
そう老執事が言ったのに、聖女と呼ばれた女性は魔王と名乗った男の子を抱っこしたまま、泥池に近付き――刹那、足元が光り輝いて泥が消え、澄んだ水が現れたのに見ていた一同の目が奪われた。




