奪われた日常
「は、はこっちだ。この役立たず!」
「「「殿下!」」」
状況についていけず舞が声を上げると、いきなり罵倒された。
見ると二十歳くらいの、王子コスプレ(流石にかぼちゃパンツではないが、王子と言われれば納得出来る格好)をした美青年が、長い赤毛を靡かせながら大股の足取りで舞に向かって歩いてくる。
そんな美青年に、周囲の外国人コスプレ集団がざわついた。
(殿下って、王族とかのことよね? アトラクションとかの設定? どう見ても、外国人だけど……皆、日本語、上手……って、あれ、違う?)
最初、舞は随分と日本語の上手な外国人だと思った。
だが、よく見ると周りも含めて唇の動きと聞こえる台詞が合っていない。洋画の吹き替え版を観ているようだと言えば、伝わるだろうか?
そんな彼女に、殿下と呼ばれた美青年は尚も舞に向かって暴言を吐いてくる。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
召喚、と言うことは舞はこの美……いや、こんな暴言野郎は敵だ、敵。この敵に、舞は勝手に連れてこられたらしい。腹立たしいが、口に出して更に逆上させたくないので舞は心の中だけでそう思った。
もっとも敵は先程の、舞のもっともなツッコミすら気に食わなかったらしい。
「出ていけ! 二度と我々の前に、その平たい顔を見せるな!」
「えっ?」
「チッ、愚図が……目障りだ、連れていけ!」
「「「かしこまりました、殿下」」」
敵の命令により、兵士らしい格好をした男達が左右から舞の腕を掴み、引きずるように石造りの部屋から連れ出した。
そして状況についていけ――ない訳ではないが、下手に抵抗して怪我などしたくないので大人しくしていた舞を洋館、いや、城を出て大きな扉の向こう、つまり城壁の外へと突き飛ばした。
よろけこそしたが、何とか転ぶのは堪えて振り向くとここまで連れてきた男達が、しっしと犬でも追い払うように手を振って舞に言った。
「さっさと行け!」
「もう戻ってくるなよ!」
「……っ」
あんまりな対応に、舞は目を見開いて絶句した。
先程もだが、どうして初めて会ったばかりの面々に、自分がここまで馬鹿にされなくてはいけないのか。
悔しくて悲しくて泣きそうになったが、何とか舞は堪えた――こんな失礼な奴らの前で泣くなんて、冗談ではないと思ったからだ。