母と子と
「魔王は魔国で一番強い者がなり、執事は魔王を守れるよう二番目に強い者がなります」
「……あの、魔王様はおいくつなんですか……?」
「六歳です」
「え」
六歳。息子である工と同じくらいかと思っていたが、本当に一歳上なだけだ。しかも日本人は外国目線だと幼く見えるのに、そんな息子と同じか、下手すると年下にも見える。
(人間じゃないから、長命の代わりに成長が遅いとか?)
以上、SNS広告からの広くて浅い知識である。
しかし、そんな小さい子が国で一番強いと言うのはどういうことなのか。確かに、ラルヴァを見た魔族の面々が「凄まじい魔力」だと言っていたが、そういうのを感じられない舞からすると信じられない。
だが、ダリスが続けた言葉を聞いて舞は思わず息を呑んだ。
「魔族は長命ですが、十歳くらいまではむしろ早いのです。小さいままだと、満足に動けませんから……けれど、坊ちゃまは己の強大な魔力を制したことで年相応、いえ、むしろ年よりも幼く見えるくらいです」
「魔力を制する……? あの、広場で魔王様の魔力が凄まじいと言われていましたが……」
「ああ、人族の方ですと我々の魔力は解りませんよね? 坊ちゃまは、魔力を抑えても次点の私と同じくらい強いですから……話を戻しますが、坊ちゃまが魔力を制したのはお母上と会う為です」
「……お母様、に?」
「ええ。次期魔王として生まれると赤ん坊の頃から魔力が強く、しかも幼いのでコントロールが下手なのですぐ執事に預けられます……けれど、物心ついた頃に坊ちゃまからある質問を受けました」
「……何て、ですか?」
そこでダリスが、ラルヴァを見る。するとダリスの代わりに、ラルヴァが舞の疑問に答えてくれた。
「まおうになればおかあさんに会えるのか、きいたんだ」
「っ!」
「私は、そうだと答えました……ただ、即位されれば城に入るのでどちらにしても一緒には暮らせないと言いました」
「それでもねんになんかいかはあえるってきいたし、そのとおりいまあえてる……ジブンとちがって、マイさまがかえればそのこはおかあさんにあえるでしょ?」
そう言って健気にラルヴァが笑うのに、舞は目頭が熱くなった。母親に会いたいと思い、頑張ったラルヴァの姿と息子の面影が重なったからだ。
(日本とここで、時間の流れ方がどれくらい違うか解らないけど……いなくなって、心配かけてるわよね……それもこれも!)
しかし、すぐに息子や夫と離れ離れになった元凶――リュカオン達を思い出し、怒りで目の前が真っ赤になる。
そして瘴気について真実を隠し、責任逃れどころか自分の失態を押し付けている人間側について、舞はあることを提案した。
「……正論で、ぶっ叩きましょう」




