気合いと潤いをチャージ
こうして、舞は無事に魔国へ到着した。
悪目立ちするので控えていたが商隊の面子が一同、こっそり「おぉ」「やった」と声を上げていたので、今回の旅は本当に幸運だったし嬉しかったんだろう。お役に立てて何よりである。
「ここまでありがとうございました」
「こちらこそ……さて、無事に魔国に着きました。落ち着き先が決まるまで、これから我らが行く魔国支店に泊まることも出来ますが?」
「売り上げが出なかったら、甘えますね……ご迷惑でなければ、宿を教えて貰えませんか? あと、明日から露店を出すんで皇国に帰る前にでも寄って下さいね」
「……ええ、解りました」
恩に感じたのか、セバエがそんな提案をしてくるが――そこまでお世話になるのは申し訳ないし、これからやることがどう転ぶか解らない。だから舞は、ひとまず宿に泊まって様子を見ることにしたのである。
こうして舞はセバエに宿と、あと魔国で露店を出す為の商人ギルドを教えて貰った。そして市場の一角を借りる手続きをし、宿泊の手続きを取ると舞は露店用の折り畳み机や特製竈、そして鍋を部屋に持ち込んだ。
それから安全だったとは言え、旅の疲れを取る為に風呂に行くことにした。何とこの魔国、公衆浴場があるのである。
皇国では貴族宅や高級宿じゃないと風呂はなく、盥にお湯を入れて髪や体を洗うくらいのものだ。実は、ミゲルの家がそうだったので大きいお風呂に入れるのは嬉しい。
日本の銭湯のように、お金を払う時に体を洗う用の小さい石鹸と、シャンプーもどき(これも皇国にはなかった。両方、同じ石鹸を使った)で全身を洗った後、舞は大浴場に入った。
「あー……」
途端にお湯の熱さが染み渡り、疲れがお湯に溶けるような感覚に思わず声が出てしまう。
(とりあえず、三日分露店の場所と部屋を取ったけど……どれくらい目立てば、魔王から声がかかるかしら?)
正直、売り上げが読めないので今のところだと三日が限界だ。売り上げが出ず、惨敗したらセバエに甘えることにしよう。一週間くらいは、魔国にいるのだと聞いている。
聖女ということを王宮に連絡しようかとセバエに言われたが、それだとただ利用される可能性がある。対等とまで言わなくても利用、いや、悪用されないようにするにはこちらの価値を出来るだけ示すべきだと思う。
(まあ、風呂に入れるのは解ったし、頑張ろう……大樹さん、たっくん。絶対に、帰るからね)
誓うように、祈るように夫と息子に声に出さずに語りかけた。そしてお湯を掬い、舞は不安から浮かんだ涙を洗い流した。
こうして気合いと潤いをチャージした舞は、宿にあった食事処でパンとスープ、あとローストポークを美味しく頂き、ベッドで爆睡したのだった。




