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第89話「護衛と巫女姫、煌都の呪詛を祓う(5)」

 ──零視点──




 空を飛ぶのは難しくなかった。

軽身功(けいしんこう)』で体重を軽くして、ジャンプした。それから風の精霊の力を借りて、上昇した。

 あとは天狗の魔獣『アオヤミテンコウ』を足場にして、前に進んだ。それだけだ。


 俺は杏樹や『四尾霊狐(しびれいこ)』と生命の誓いをしたことで、より強力な霊力を得た。

 それは『四尾霊狐』の眷属(けんぞく)である精霊たちにも影響を与えた。

 俺と杏樹と『四尾霊狐』の繋がりが強くなったことで、精霊たちも力を増したのだ。


 強い邪気の中でも、恐れずに動けるようになり──

 より強い光や風、水をあつかえるようになり──

 言葉はなくても、俺の願いに応えてくれるようになったのだった。


「ありがとう。ここまで来れば大丈夫だ」


 俺がたどりついたのは、【禍神】の正面。

 目の前には巨大な巫女の姿をした、邪気の(かたまり)がある。

 大量に飛ばしてくる(つぶて)を切り払いながら、俺は風の精霊たちとともに、巨大な【禍神】を見下ろしていた。


 女性型の【禍神】だった。

 全身真っ黒で、まるで影絵のようにも見える。

 姿かたちは──巫女服を着た少女、という感じだ。『清らかな巫女』たちに似せたようにも見える。


【禍神】の肩に、烏帽子(えぼし)をかぶった男性が立っている。

 年齢は、俺や駒木師乃葉(こまきしのは)と同程度。

 直感的にわかる。あれが皇弟(おうてい)流葉(りゅうよう)だろう。

 奴は憎しみがこもったような目で、こっちを見て、声をあげる。



「──皇帝陛下の名のもとに、巫女の魂を宿した【禍貴姫(まがきひ)】に命ずる」

「──国を乱す奸賊(かんぞく)を討ち果たせ」

「──この地の新たな【禍神(かしん)】となり、煌都を守るがいい! 皇太子殿下のために!!」



 ──と。



「あいつは……まだ同じことを続けるつもりなのか」


 俺は霊刀『龍爪(りゅうそう)』を構え直す。

 巫女の魂を宿した【禍神】──【禍貴姫(まがきひ)】が俺を見る。


『────巫女は、煌都(こうと)のために力を尽くした』


 声が、響いた。


『────だから煌都のために、これからも──』

「終わらせる」


 俺は風の精霊が生み出す気流を足場に、空中で停止。

禍貴姫(まがきひ)】を作り出している呪符(じゅふ)を探す。

 けれど──


「無駄だ。下賤(げせん)の者よ」


禍貴姫(まがきひ)】の肩で、皇弟が言った。


「【禍貴姫(まがきひ)】はこれまでの【禍神】とは違う。(はら)うことは不可能だ」

「別物なのはわかる」


 俺は言った。


「前世の世界の神の名を(かん)してないからな。あんたが作ったオリジナルの【禍神】ってところか。敵方に転生者がいるのがわかったから、異世界の神を()ぶのをやめたんだろ? すぐに対処されるからな。違うか?」

「……下賤の者が」


 皇弟が口をゆがめて、吐き捨てる。


「私のように高貴な種に生まれなかったハズレ者が! 政治のことなどなにもわからぬ者が! よくここまで邪魔をしてくれた!!」

「世の中に迷惑をかけてるのはあんただろ」

「だから政治のことがわからぬと言っているのだ!」

「は?」

「老いた皇帝陛下と、病弱で幼き皇太子殿下のことを考えよ!!」


 皇弟は叫んだ。


「おふたりが安らかに過ごされるためには、力が必要なのだ! 煌都の安定と、平穏を生み出すための力が! 皇帝陛下の名の下に命ずる! 下賤の者は頭を垂れ、立ち去るがいい!!」

「あんたが力を求めるのは勝手だ。だけど、他州に迷惑をかけるな」

「高貴なるおふたりのためだ!!」

「皇帝と皇太子が、あんたにそれを命じたのか?」

「高貴な方の意を察するのは配下の勤め。皇帝殿下と皇太子の平穏を妨げる敵を排除して、国に安定をもたらすのは当然のことだ!」

「……ひとつだけ、聞く」


 同じ世界から来た人間だから、多少は話が通じると思っていた。

 でも、違った。


 この世界のどんな人間と比較しても、こいつは決定的に話が通じない。

 身勝手すぎる理屈に、吐き気がする。


「皇帝と皇太子が安らかに過ごすことが大切だと言ったな」

「それがどうした」

「安らかに過ごすことを優先するなら、皇帝は帝位から降りればいいんじゃないのか? 老齢(ろうれい)なんだろ。帝位を降りて、のんびり暮らせばいい」

「政治がわからぬ者の言うことだ。皇帝不在で、国をどう動かすというのだ!?」

「皇太子が成人するまでの間、あんたが帝位に()けばいい」


 俺は続ける。


「あんたが皇帝として、国の全責任を負えばいい。皇太子が成人したら帝位は(ゆず)ると約束して、老齢の皇帝のために国を動かせばいいんだ。そうすれば今回の件だって、自分の責任で行うことができた。違うか?」

「私は転生者だ。そのようなものが帝位については、民が不安に思うだけだ!」

「転生者だって知ってるのは、一部の者だけだろ」

「皇宮の者は皆知っておる! むろん陛下も、皇太子殿下も!」

「どうして話した? 言わなければ、誰も知りようもないことなのに」


 俺が転生者であることを知っているのは、杏樹や、身近な者だけだ。

 他の者は知らないし、教えるつもりもない。


 駒木師乃葉だってそうだ。彼女が転生者だと知っているのは一部の者だけ。

 彼女は転生者としての能力を活かして仕事をしているから、教える必要があったらしい。


 なのに、皇弟は自分が転生者だということを、まわりに伝えている。

 本人が言わない限り、転生なんてものは証明できないのに。

 右大臣も知っていた。確認したら、陰陽師の蓬莱(ほうらい)も知っていた。


 皇弟は自分が転生者であることを、周囲に広めていた可能性がある。

 その目的を、ずっと考えていた。


 そうして出した結論は──


「あんたは、責任を取りたくなかったんじゃないのか?」

「────!?」

「だからわざわざまわりに、転生者だと告げた。そうすることで、自分が責任を取る地位に()けないようにしたんだ。違うか?」

「────な、な!?」

「いや、それでも帝位に()くという選択肢はあったはずだ。なのにお前はそれを拒否している。それどころか、馬鹿のひとつ覚えのように『皇帝の名において』『皇帝陛下のために』と口にしてる。皇弟の名において、流葉の名においてとは言っていない。それは、責任を取りたくないからだろう?」

「──────き、貴様!」

「あんたはただ、自分がかわいいだけだ。責任は取りたくない。だけど力は使いたい。転生者としての力も振るいたい。本当は、皇帝や皇太子のことなんかどうでもいいんだ。違うか!?」

「き、き、きさまぁあああああああああ!」

『オオオオオオオオオオォ!!』


 皇弟と【禍貴姫(まがきひ)】が、吠えた。


「こいつを殺せ! 【禍貴姫(まがきひ)】!!」

『ォアアアアアアアアアアアアア!!』

「皇帝陛下と皇太子殿下のために! 歴代の巫女が煌都に尽くしてきたことを無駄にしようとする者を潰せ! 我らから『天一金剛狼(てんいちこんごうろう)』を奪った者を殺すのだ!!」



「──利用され、使い(つぶ)された巫女の魂に告げる!!」



 俺は霊刀『龍爪(りゅうそう)』を手に、声をあげた。


 ここで、巫女の魂にかけられた術を()く。

『天一金剛狼』も(しず)めることができた。

 たぶん、同じやりかたで、巫女の魂も解放できるはず。


 杏樹は言葉で、わかりあうことを望んでいる。

 俺は護衛として、主君の方針に従おう。まぁ、できる範囲で。


「霊獣『四尾霊狐(しびれいこ)』および『九尾紫炎陽狐(きゅうびしえんようこ)』の友であり、土地神『九曜神那龍神くようかんなりゅうじん』の加護を受けた者、月潟零(つきがたれい)が告げる! 社に封じられていた巫女の魂よ。お前たちは、この先も巫女が使い潰される未来を望むか!? (いな)か!?」

『──────オォ、ォ』


禍貴姫(まがきひ)】の動きが一瞬、止まった。

 俺は続ける。


「紫州はすでに『清らかな巫女』を2名。巫女の血脈である副堂沙緒里を保護している。彼女たちはこれから、人としてあつかわれる。誰にも利用されることなく、ひとりの人間として生きるだろう。その未来は、巫女として()むべきものか!? それとも望むべきものか!?」

『──────ォア』

「聞くな【禍貴姫(まがきひ)】!! 聞くなァ──────っ!!」


 皇弟が絶叫する。


「『邪気より生まれし姫君。【禍貴姫(まがきひ)】よ。降り注ぐ礫により、速やかに外敵を滅ぼされんことを。急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう!!』」

『アアアアアアアァ!!』


 邪気の巨人の指から、黒い礫が発射される。

 俺はそれを切り払いながら、続ける。


「これが望みか! 巫女よ!! 術で操られ、道具とされることをこれからも続けるのか!?」

『…………ガァ、ァ』

「『天一金剛狼(てんいちこんごうろう)』の魂は(しず)まった。皇帝陵を守る巫女の役目は終わった。【禍貴姫(まがきひ)】の中にいる無数の巫女の魂の中で、解放を求めている者がいるなら、答えよ! ()まわしき術の中枢(ちゅうすう)を俺に教えろ!!」

『────アア、アアアアアアアアアァ!!』

「聞くな【禍貴姫(まがきひ)】! その者の言葉を聞くなあああああ!!」


 皇弟の叫びが響く中で、【禍貴姫(まがきひ)】の額が……割れた。

 巨大な顔の表面から、無数の巫女の姿が浮かび上がる。

 解放を望む巫女の魂──それらが、血染(ちぞ)めの呪符(じゅふ)を浮かび上がらせる。


「『軽身功(けいしんこう)』──3連!!」


 俺は風の精霊を足場に、宙を飛んだ。

 直後、皇弟の周囲に黒い鳥が発生する。一斉に、俺に向かって飛んでくる。

 あの鳥は霊力で作った疑似生命だ。

 そういうものを作り出すのが皇弟の、転生者としての能力なのだろう。


 でも、意味はない。

 押し寄せる疑似生命を、俺は太刀で切り捨てていく。

 それだけじゃない。【禍貴姫(まがきひ)】の表面に浮かび上がった巫女たちが腕を伸ばし、皇弟の作り出す疑似生命を受け止めてくれる。彼女たちは祈るような顔をしている。生前、道具のようにあつかわれた魂たちが、解放を望んでいる。


 終わらせる。

 呪詛(じゅそ)も恨みも、次の世代には持ち越さない。

 いにしえから続く呪いは、ここで終わりだ。


「皇弟の私が、ここで終わるのか!? 私は完璧な策を練った。転生者としての力も使った。なのに私は、私は私は私は──」

「悪い。俺はあんたのことなんてどうでもいいんだ」


 俺が望むのは平穏な生活だ。

 健康で暮らして、老後は小粋な小料理屋でもできればいい。

 煌都のことも、皇弟のことも興味がない。


 ただ、人を利用して道具にする連中は排除する。

 みんな健康で平穏に生きたいはずなのに、わざわざ病の元を作り出す奴は許さない。

 自分の平和のために邪気をまき散らして、まわりの人間全部を不健康にするなんて、後味が悪すぎる。


 そういう術は、切り捨てる。

 俺のしたいことなんて、それだけだ。


「土地神の加護を受けた霊刀『龍爪(りゅうそう)』により、()まわしき呪符(じゅふ)を断ち切る」


 俺は【禍貴姫(まがきひ)】の内部に入り込む。

 血染めの呪符に、たどりつく。


「『虚炉流(うつろりゅう)邪道(じゃどう)』──『神斬(かみき)り』!!」


 霊刀『龍爪』に触れた呪符が、消滅した。

 同時に、【禍貴姫(まがきひ)】を形作っていた巫女の魂たちが、ほどけていく。

 100人──200人……もっと多い。

 二代目皇帝の時代から、どれほどの巫女が使い捨てにされてきたのだろう。


 そんな巫女たちの魂は、穏やかな笑みを浮かべながら、消えていく。

 恨みも怒りもなく、ただ、静かに。

 そうして、最後に──


『────生き残った子どもたちを、よろしくおねがいします』


 ──そんなことを、言い残して。


 押し寄せていた魔獣たちも、去って行く。

 まわりから、邪気が消えたからだ。

 弱いものは消え去り、強いものは、住処へと帰って行く。


『柏木隊』も錬州兵も、それを追撃する力は残っていない。

 だから今は、これでいい。

 魔獣は煌都の方から来たものだ。逃げた奴は、煌都で処理してもらおう。



 そして──


「ぎぃあああああああああああああっ!!」


 ──皇弟の流葉は全身をかきむしって、絶叫した。


 呪詛返(じゅそがえ)しを受けているのだろう。


 こいつは巫女の魂を利用して、【禍貴姫(まがきひ)】を作り出した。

 巨大な呪詛で、紫州や錬州を呪った。

 それに応じた呪詛返しを受けているわけだ。


「がぁっ! 殺せ……私を……殺せ!! 私を殺してくれ…………頼む……」

「やなこった」


 地上に落ちて行く皇弟を、俺は腕をつかんで引き留める。

 放置してもいいんだけど、こいつには責任を取ってもらわなきゃいけないからな。

 すべてが落ち着くまでは、生きていてもらおう。


「────零さま!!」


 声がして振り返ると、杏樹の姿が見えた。

 魔獣の消えた平原を、まっすぐこっちに向かって走ってくる……って、速っ!?

 杏樹って、こんなに足が速かったっけ。


 あ……『四尾霊狐』と合体してるからか。

 俺と杏樹と『四尾霊狐』の『生命の誓い』によって繋がりが強化されているから、合体した杏樹は、身体能力が狐に近いものになってる。

 だから、いつもより足が速いわけで──


「零さま。零さま。零さま──っ!」


 ──杏樹はまっすぐ、俺に飛びついてきた。


「し、心配しました。いえ、零さまのことですから、大丈夫だとは思っていました。でも、心配で……すごく心配で」

「大丈夫です。怪我はまったくしていません」

「は、はい……よかったです」


 杏樹はうるんだ目で、俺を見て、


「さすが零さまです。【禍神】を、祓ってしまわれたのですね」

「杏樹さまのやり方を真似しただけです」


 俺は【禍貴姫(まがきひ)】を祓った手順について説明した。


「つまり、杏樹さまの『理解してわかりあう』というやり方を真似しただけなんです」

「…… (ぽーっ)」

「【禍貴姫(まがきひ)】は利用されてきた巫女の魂の集合体ですから、沙緖里さまや『清らかな巫女』の未来を保証すれば鎮まってくれると思ったんです。『清らかな巫女』たちも、幸せな未来が見たいでしょうから」

「…… (ぽーっ)」

「もちろん、約束は守らなきゃいけません。煌都(こうと)にいる巫女衆が、これから利用されることのないようにしないと。そのあたりは右大臣の泰山(たいざん)さまにお願いすればいいと思います……って、あの、杏樹さま」

「い、いえ。失礼しました」


 杏樹は真っ赤になった頬を押さえて、


「そ、その……零さまがわたくしを真似したとおっしゃったとき、急に……どきどきしてしまいまして」

「そうなんですか?」

「はい。零さまは……わたくしをちゃんと見ていて、理解してくださるんだなぁと思ったら、鼓動が早くなって。ぼーっとしてしまって。あの……これはなにかの病気でしょうか」

「同じ症状になったことはありますか?」

「いえ、零さまがはじめてです。わたくしのはじめては、零さまです」

「……えっと」


 どうしよう。

 俺は前世で病弱だったから、女性と付き合ったことはない。

 今世でも修行と、趣味の料理で忙しかったから同じだ。

 女の子の心理とか反応については、よくわからない。

 だから──


「桔梗さんか茜に聞いてみましょう」


 とりあえず、丸投げすることにした。


「そ、そういたしましょう!」


 それから俺と杏樹は……なんとなく手を繋いで、歩き出す。


 皇弟の流葉は、すでに『柏木隊』によって拘束されている。

 あいつはもう、なにもできない。

二重追儺(ふたえついな)】を返された副堂沙緖里(ふくどうさおり)と同じだ。霊脈は破壊されたはず。

 いや、巨大な【禍貴姫(まがきひ)】を祓われたんだから、ダメージはもっと大きいだろう。


 これから奴は、その罪を裁かれることになる。

 不安定さを嫌い、有害なものを他人に押しつけることで安心を得ようとした転生者、皇弟。

 あいつと会うことはもう、ないかもしれない。


 煌都にまつわる事件は、終わった。

 いにしえから続く呪詛も祓った。俺たちにできることは、もうない。

 あとは錬州と打ち合わせをして、紫州に帰るだけだ。


 紫州を出てから、大分時間が経っている。

 杏樹のお父さん……紫堂暦一(しどうれきいち)さまも、もう紫州に戻っているかもしれない。

 帰ったら、どんな話をしよう。


九尾紫炎陽狐(きゅうびしえんようこ)』の話か、それとも『隠された霊域』の話か。

 一連の事件のことか。副堂沙緖里(ふくどうさおり)と、副堂勇作(ふくどうゆうさく)のことか……。


 いや、それよりもまず、俺と杏樹が子どもを作ることの許可をもらわないと。

 ……暦一さま。許可をくれるよな。

 許可してもらえなかったら、どうしよう。

 そのときは──


「──『隠された霊域』がある山で、静かに暮らしましょうか」

「杏樹さま?」

「あ、も、申し訳ありません。その……父に、零さまとのことを許可してもらえなかったらどうしようと、つい、考えてしまって……」

「俺も、同じことを考えてました」

「そ、そうだったのですか」

「はい」

「そうなのですか……」

「そうなんです……」

「でも、なんとかなりますよ。きっと」


 そう言って杏樹は、笑った。


「わたくしたちは二代目皇帝の時代から続く問題を解決したのです。それに比べれば、なんでもありません」

「……そうですね」

「はい。それに『四尾霊狐』さまがおっしゃっています。『れいとあんじゅのために、全力で応援する』と」

「『四尾霊狐』さまが?」

「はい。『れきいちがぐだぐだ言うなら実力行使する』……って、『四尾霊狐』さま。それは最後の手段です。え? 『さきにきせいじじつを作る』? そ、それもできれば、最後の手段に──」


 繋いだ手から、杏樹の体温が伝わってくる。

 どんどん熱くなる温度に、なんだか、俺の鼓動も早くなる。

 それに気づいたのか、杏樹はふと、俺を見て、


「でも……父に認めていただく以上に、難しい問題がありました」


 そんなことを、言った。


「それは、零さまに呼び捨てにしていただくことです」

「こだわりますね……」

「ふたりきりのときは敬語はいらないと、何度も申し上げているではありませんか。なのに零さまは、いつまでも『杏樹さま』で」

「わかりました。えっと……」

「はい」


 杏樹は答えを待つように、俺をじっと見てる。

 狐耳を、ぴん、と立てて。ふさふさの尻尾を振りながら。

『四尾霊狐』と合体した姿を人に見られることに、もう抵抗はないようだ。


 思えば杏樹はずっとそうだった。

 人の視線なんか気にせず、マイペースで、自分のしたいことをしてきた。

 そんな杏樹だから、俺は、一緒にいたいと思うのかもしれない。


「家に帰ろう。杏樹」

「はい。零さま!」


 そんなふうに名前を呼び合ったあと、俺たちは並んで歩き出したのだった。











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