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第82話「護衛、転生者と話をする」

 杏樹たちと話をしてから、約2時間後。

 俺は蒼錬将呉(そうれんしょうご)から、会談の準備ができたという連絡を受けた。




「君が本当に、異世界からの転生者かどうか確認させてもらう」


 窓のない部屋で、蒼錬将呉は言った。

 部屋にいるのは俺と蒼錬将呉。駒木(こまき)師乃葉(しのは)の3人。


 ここで俺は自分が転生者だということを証明して、錬州側(れんしゅうがわ)に協力要請をすることになる。

 杏樹はこの場にいないけれど、彼女とは離れていても話はできる。

 蒼錬将呉が敵対行動を取った場合は、すぐに動いてもらえるはずだ。


「最初に、君に聞きたいことがある」


 椅子に座ったまま、蒼錬将呉は言った。


「君はどうして、錬州側に転生者の情報があると思ったのだ?」

「そこにいる駒木師乃葉(こまきしのは)さまが、俺と同じ転生者だと考えたからです」


 蒼錬将呉の隣に立っている駒木師乃葉の肩が、びくりと震えた。

 俺は続ける。


「俺は駒木師乃葉さまが、川の屋敷を破壊するのを見ました。あのような能力は、この世界には存在しません。あれは転生者独自の能力ではないかと考えたのです」

「それは……君も同じ能力を持っているということか?」

「霊獣を暴走させるような能力はありません。俺の能力は……ひとよりちょっと、健康になるくらいです。邪気に包まれた山の中でも、自由に行動動ける程度に」

「だから邪気に包まれた『狼牢山(ろうろうさん)』に入れたわけか……」

「そうです」


 俺はうなずいた。


「ですが、俺と駒木師乃葉さまの能力は、どちらも『生命』に関わっています。俺は自分の生命力を強める力で、駒木師乃葉さまの能力は他者の生命を暴走させる力ですね。だから俺たちは同類だと思ったのです」

「師乃葉が転生者……か」


 蒼錬将呉は肩をすくめた。


「……君がそう考えるのは自由だ」

「腹を割って話しませんか?」


 俺は駒木師乃葉に向けて、告げた。


「すでに右大臣さまの情報により、皇弟殿下が転生者であることはわかっています。あの方が異界より【禍神(かしん)】を呼び出したことも周知の事実です。異世界があることも、この世界に転生者がいることも、みんな知ってるんですよ」


 もちろん、駒木師乃葉が転生者だということは末姫さん──蒼錬真名香から聞いている。

 ただ、それは教えない方がいい。末姫さんは紫州の味方だからな。

 彼女の立場が悪くならないようにしておきたいんだ。


「だから俺は『霊獣昇華』を使った駒木師乃葉さまが転生者だと考えたんです。同じようなことを思う人は、他にもいると思いますよ?」

「本当に君は、師乃葉の力を見て、彼女が転生者だと判断したのか?」

「その通りです」

「そうか。私は真名香が、なにか伝えたのだと思ったのだがね」

「それは蒼錬将呉さまの勘違(かんちが)いですね」

「………………紫州(ししゅう)の者は私の妹を、大切にしてくれているようだ」


 そう言って蒼錬将呉は、駒木師乃葉の方を見た。


「師乃葉。彼に話しても構わないか?」

「将呉さまのお心のままに」


 駒木師乃葉が一礼して、前に出た。

 彼女はじっと、俺の方を見て、


「紫州の方に申し上げます。お察しの通り、私は異世界からの転生者です」

「前世で住んでいたのは、21世紀の日本ですか?」

「どうしてそう思うのですか?」

「俺がそうだからですよ。そして、皇弟もおそらくそうだ。【禍神・酒呑童子(しゅてんどうじ)】も【禍神・八岐大蛇(やまたのおろち)】も日本の伝承(でんしょう)のものですからね。【禍神・斉天大聖(せいてんたいせい)】は別の国のものですけど……あのお話は日本でも有名です。俺と皇弟が同じ場所から来ているのに、あなただけ別のところから来たというのは不自然でしょう?」

「……あなたのおっしゃる通りです」

「あなたは自分を転生させたもののことを知っていますか?」

「いいえ。気がついたら、前世の記憶を持ったまま、この世界に」

「なるほど。俺と同じですね。それであなたの能力は──」


「待て。月潟零(つきがたれい)


 不意に、蒼錬将呉が俺の言葉をさえぎった。


「ここは君が転生者かどうかを確認するための場だ。君の質問に答える場ではない」

「失礼いたしました」


 俺は蒼錬将呉に向けて一礼した。


「では、駒木師乃葉さま。質問をどうぞ」

「は、はい。それでは──」


 それから駒木師乃葉は、いくつかの質問をしてきた。

 もっとも、質問の数は少なかった。


 ──俺が住んでいた時代のこと。文化のこと。

 ──生年月日。学校。職場のこと。

 ──1日の過ごし方。食事。娯楽について。


 一通り質問をしたあと、彼女は──


「将呉さまに申し上げます。この方、月潟零は、私と同じ世界の、同じ国から来た方で間違いありません」

「そうか。ならば話が早い」


 そう言って蒼錬将呉は、俺を見た。


月潟零(つきがたれい)。君も我々の仲間にならないか?」

「……はい?」

「君も師乃葉と同じように、霊獣も魔獣もいない世界から来たのだろう? あんなものがいなくても、普通に発展した世界から。ならば私や師乃葉の気持ちがわかるはずだ」

「そういえば蒼錬将呉さまは『霊獣も魔獣もいない世界』を目指しているのでしたね」


 以前、杏樹との会談の中で言っていたことだ。

『霊獣も魔獣も、術も存在しない世界を目指す』と。


「その手段が駒木さまの『霊獣昇華(れいじゅうしょうか)』ですか」

「そうだ。あの力なら、一気に大量の魔獣を駆逐(くちく)することもできる。煌都(こうと)に力を示すことで、陰陽寮(おんみょうりょう)や巫女衆に圧力をかけることも可能だ」

「ひとつ、うかがってもいいですか?」

「なにかな」

「皇弟殿下は、この不安定な世界を嫌っていました。もしかして、駒木さまもそうなんですか?」

「師乃葉。答えてやるといい」

「──はい。将呉さま」


 駒木師乃葉は、静かに、俺を見ていた。

 冷たい目だった。

 同じ転生者である俺を、さげすんでいるようにも見えた。


「おっしゃる通り、私はこの不安定な世界を嫌っています。いえ……憎んでいると言ってもいいでしょう。魔獣がうろつき……人を害する世界を。霊獣や術などが存在して、予想外の力がふるわれる世界を。こんなおかしな世界を、好きになる方が無理です」


 駒木師乃葉は、ため息をついた。


「私がこうして生きていられるのは、将呉さまと巡り会えたからです。理解者であるこの方がいなければ……私はとっくの昔に、命を絶っていたかもしれません」

「……そうなんですか」

「むしろ、私はあなたが平気な顔をして、この世界で生きていることが信じられません」

「俺は、この世界が嫌いじゃないですから」

「……あなたはとても幸せに暮らしてきたのですね」


 駒木師乃葉はじっと、俺を見て、


州候(しゅうこう)親戚(しんせき)の家にでも生まれましたか。そこで貴族のような生活をしてきたのですか? それならば、この世界に不満はないでしょうね……」

「いえ、俺は武術家の村でスパルタ教育を受けてきました」

「……え」

「ちなみに祖父は飲んだくれで、父は仕事中に事故死しています。母親は、俺が生まれてすぐに死んでますね。村長は俺を嫌っている祖父でした。そのせいで、村に友だちはいませんでした。せいぜい……幼なじみの萌黄(もえぎ)がいたくらいですね」

「────ほ、本当に?」

「嘘だと思うなら、杏樹さまに確認してください」

「だったら、どうして。どうしてですか!?」


 駒木師乃葉は目を見開いた。


「そんな子ども時代を送ってきたのに……あなたはどうして、この世界を憎まずにいられるのですか!?」

「それはたぶん……俺が前世で病弱だったからですね」

「病弱?」

「俺にとっては前世も今も、不安定なのは同じなんです。慣れちゃってるんです。明日をも知れない生き方ってやつに」

「…………はぁ」

「他の人より身体が弱くて、すぐに体調不良でぶっ倒れてました。でも、職を失ったら生きていけないと思って、死ぬ気で仕事にしがみついてました。俺にとって死ぬとか生きるとかいうのは身近な問題だったんです。前世でも不安定な世界に生きてたんですよ。俺は」


 だから、この世界が不安定でも気にならない。

 とりあえず生きて、健康な老後が過ごせれば、それでいいんだ。


「それに、俺はこの世界の人たちが好きなんです」


 俺は話を続ける。


 駒木師乃葉は呆然(ぼうぜん)としてるけど、まぁいいや。

 言うべきことは言っておこう。


「俺の主君は、俺が転生者であっても普通に受け入れてくれます。他の人たちもそうです。みんな霊獣を友として、霊力や術のある世界で生きてるんです。この世界が不安定と言うならそうなんでしょう。だったら俺は手の届く範囲で、大切な人たちを守ります。俺のしたいことなんて、それくらいです」

「ならば君は『霊獣や魔獣がいない世界』を作ることについて、どう考えているのだ?」


 駒木師乃葉の代わりに、蒼錬将呉が口を開いた。


「君たちの世界は、霊獣や術がなくても発展したそうだな」

「おっしゃる通りです」

師乃葉(しのは)にはその世界の歴史や技術についての知識がある。彼女の力で霊獣や魔獣を駆逐すれば、この世界は君たちの世界と、同じような道をたどることができるかもしれない!」


 蒼錬将呉は胸を張って宣言した。


「もちろん、時間はかかるだろう。私が生きているうちには不可能かもしれない。だが、君たちの世界のように、この世界を安定した場所にすることは可能なんだ」

「確かに……不可能じゃないかもしれません」

「そうだろう?」

「だけど……それはこの世界の人たちにとって、とてつもなく不安定な場所じゃないんですか?」


 俺は言った。

 蒼錬将呉と駒木師乃葉が、ぽかん、とした顔になる。


「霊獣や術は、この世界の人たちにとって当たり前のものです。いわば、手足のようなものです。それを取り上げるということは、人々をおそろしく不安定な状態にしてしまうということじゃないんですか?」

「だ、だが、代わりに安定した世界が──」

「その安定した世界が見えているのは、俺や蒼錬将呉さま、駒木師乃葉さまだけです。他の人にはまったくイメージ……じゃなかった、想像もできないものなんです。そんな世界を提示されても、みんな不安になるだけだと思いますよ」

「皆は『霊獣昇華』で魔獣を駆逐(くちく)するのに賛成を──」

「それって……蒼錬将呉さまの理想とする世界を作ることへの賛成なんですか?」

「……なに?」


 俺の言葉に、蒼錬将呉が目を見開く。

 俺は続ける。 


「魔獣を駆逐することと、煌都を降伏させることには賛成するのはわかります。霊獣を戦いに使うこともありますし、その戦いで霊獣が命を落とすこともありますから。だけど……蒼錬将呉さまの言う世界について、みんな本当にわかってるんですか?」

「……それは」

「駒木師乃葉さまが『霊獣昇華』を使ったとき、俺と杏樹さまは仲間の霊獣や精霊が怯える声を聞きました。あなたがたがこれからも霊獣を使い捨てにするのなら、錬州の近衛たちは、配下の霊獣が怯える声を聞き続けることになります。それで不安を感じないと思いますか? 仲がいい霊獣の悲鳴を聞きながら、見えない理想に従い続けると、本気で思っているんですか?」

「…………説得は、する。だから──」

「そうであれば、なにも申し上げることはありません。俺は錬州のやり方に、口出しするつもりはありませんから」


 そう言ってから、俺は一礼した。


「そして、あなたがたの仲間にもなるつもりもありません。俺は霊獣も精霊も好きです。大切な人から霊獣や精霊を取り上げる気はないですし、彼女が悲しむところはみたくない。それだけです」

「……そうか」

「そういえば……ここは俺が転生者かどうかを判定する場でしたね」


 俺は蒼錬将呉をまっすぐに見据えて、告げた。


「判定はできましたか? 俺が皇弟殿下と話をすることには、ご協力いただけるんでしょうか?」


 しばらく間があった。


 やがて蒼錬将呉は、静かにうなずいた。

 俺は書状を取り出し、蒼錬将呉に渡した。

 杏樹が書いたものだ。今後の作戦について記されている。


「ここに『鎮魂(ちんこん)の祭り』についての情報と、どのように皇弟殿下を引っ張り出すかについて書いてあります。ご一読ください」

「わかった。ただし、錬州が協力するのは『鎮魂の祭り』が終わるまでだ」

「構いません。それで『邪霊刀(じゃれいとう)』はどうしますか?」


 俺はたずねる。


「あの太刀を、紫州に預けていただけますか?」

「……いいだろう」


 蒼錬将呉は答えた。


「悔しいが、錬州にあれを浄化できる者はいない。紫堂杏樹さまにお預けするのが、一番よいだろう」

「ありがとうございます。杏樹さまにお伝えいたします」

「だが、すべてが片付いたあと、君はどうするのだ?」


 ふと、蒼錬将呉がたずねた。


「転生者ならば、君も師乃葉と同じような力を持っているのだろう? 『邪霊刀』と『霊獣の骨』を浄化し、皇弟殿下を止めた後は……どうするのだ? 君はその力を手に、なにをするつもりなのだ?」

「文官になって、老後は恩給をもらいながら、小粋な小料理屋をやるつもりです」

「文官? 小料理屋?」

「よかったら、食べに来てください」


 俺はふたりに向かって、深々と頭を下げた。


「前世の世界の料理がこの世界でも実現できないか、色々研究してるんです。もしかしたら駒木師乃葉さんにとって、なつかしいものが食べられるかもしれません。できれば試食したあとで、感想を聞かせてくれたらうれしいです。前世の知識がある人の意見って、すごく参考になると思いますから」


 そんなことを告げてから、俺は部屋を後にしたのだった。









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 表紙は狐耳と尻尾状態の杏樹と、錬州の末姫の真名香が目印です。

 もちろん、2巻も書き下ろしを追加しております。

 表紙は「活動報告」で公開していますので、ぜひ、見てみてください。


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