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第65話「零と桔梗と杏樹、紫州の霊域に向かう(後編)」

「こちらが、霊域の中心です」


 杏樹が案内してくれたのは、木々に囲まれた広場だった。

 静かな場所だった。

 聞こえるのは、風が起こす葉擦(はず)れの音と、水が流れる音だけ。


 その広場の中心に、大きな岩があった。


 高さは、俺の身長より少し上──7尺 (2.1メートル)くらい。

 幅は数メートル。

 真っ黒で、少し湿った大岩だった。


「これが……霊域のご神体(しんたい)ですか」

「そうです。かつてこの岩に、土地神『九曜神那龍神くようかんなりゅうじん』が降り立ったと言われております。岩に亀裂(きれつ)がありますよね? それが、龍神の爪痕(つめあと)です」

「言われてみれば……大きな亀裂がありますね」


 背伸びすると、わかる。

 岩の上には大きなくぼみがあり、それを中心に5本の大きな亀裂(きれつ)が走っている。

 五本爪の龍が着地した跡だと言われても納得できる。


 くぼみの中央からは、水があふれ出ている。

 霊力に満ちた、きれいな水だ。


「この岩は強い霊力をふくんでいます。岩にまつわる不思議なお話もあるんですよ」

桔梗(ききょう)も聞いたことがあります」


 杏樹の言葉に、桔梗がうなずく。

 昔話か。興味があるな。


「どんなお話なんですか?」

「『州都(しゅうと)には土地神を(まつ)る社がある』と言いましたよね。その社を作ったときのお話です」


 杏樹は目を閉じて、記憶を探るように、


「州都の社を作るときに、当時の巫女姫が土地神にお願いをしたそうです。社のご神体にするために、力の一部をわけてください、と。すると──」

「ごろん、と音がして、この岩の一部が欠け落ちたそうです」


 杏樹の言葉を、桔梗が引き継いだ。

 杏樹は優しい笑みを浮かべながら、


「桔梗の言うとおりです。当時の巫女姫はその岩をいただいて、州都の社のご神体にしたそうです。ご神体は今でも社の中にあります。欠けたのは……ちょうど、この部分ですね」


 杏樹は岩の下の方を指し示した。

 丸い岩の一部に、拳大(こぶしだい)の、欠けた部分があった。


「社にあるご神体と、形もぴったり一致するようです。不思議なお話ですよね……」


 杏樹の言う通り、不思議な話だった。


 目の前にあるのは、黒い大岩だ。

 ただの岩のはずなのに、強い霊力を感じる。龍がこの岩の上に降りたという話も……この場所にいると、信じられるような気がする。


 ……本当に土地神がいるなら、杏樹に手を貸して欲しいんだけど。

 杏樹はお父さんの跡を継いだばかりなのに、錬州(れんしゅう)煌都(こうと)が問題を起こしていて、大変なんだから。


『クルルル』


 そんなことを考えていると、霊鳥『緋羽根(ひはね)』が杏樹の肩に降りてきた。

 話が終わるのを待っていたらしい。


『緋羽根』は一声鳴いて、頭上を見上げる。

 つられて顔を上げると……枝の上から、霊鳥『桜鳥(おうちょう)』たちが、俺たちを見下ろしていた。


『クルルル』

「『桜鳥(おうちょう)霊域(れいいき)(かえ)す儀式をしてね』ですか。わかりました」


 杏樹はうなずいた。


「それでは、州の境界が変わったことを土地神に知らせる儀式と、桜鳥を霊域に還す儀式を行いましょう。零さま。桔梗。手伝っていただけますか」

承知(しょうち)しました。杏樹さま」

「桔梗にお任せください」


 俺と桔梗は荷物の中から、大きな枝を取りだした。

 長さ1メートル弱の、まっすぐな枝だ。


 これは少し前に、錬州から割譲(かつじょう)された土地に打ち込んだ枝だ。

 この枝を使って儀式を行うことで、新たに紫州に組み込まれた山は、この霊域と完全に繋がるそうだ。


「「地を穿(うが)逆鉾(さかほこ)に見立てた枝を、巫女姫の御前(おんまえ)に」」


 俺と桔梗はふたりがかりで、枝を(ささ)げ持つ。

 杏樹は龍神(りゅうじん)爪痕(つめあと)が残る岩の前で、()いはじめる。


「──紫州を治めし巫女姫が願いたてまつる。()()()()の霊脈を結び、ひとつの地となさんことを」


 しゃらん、と、神楽鈴(かぐらすず)が鳴った。


「ここに()るのは()()に打ち立てられし逆鉾(さかほこ)。新たに紫州の一部となりし()の地との縁を、ここへ」


 杏樹は土地神に訴えかけるように、空へと手を伸ばす。

 それから──


逆鉾(さかほこ)となりし枝を地に(かえ)しましょう。『緋羽根(ひはね)』」

『クルルーッ』


 霊鳥『緋羽根』が鳴いた。

 緋色(ひはね)の炎が生まれ、俺と桔梗が手にしている枝へと燃え移る。

 炎は枝の中央。俺と桔梗から遠いところに着火する。

 それを確認して、俺たちは枝を地面に置いた。


 しゃらん、と、神楽鈴が音を鳴らす。


 杏樹が祝詞(のりと)を唱えているうちに、枝は灰になっていく。

『緋羽根』が羽ばたき、風を起こす。

 吹き上げられた灰が、霊域の地面へと広がり、染みこんでいく。


 新たに紫州に組み込まれた場所に打ち込まれた、木の枝。

 その枝を灰にして、霊域の地面と一体化することで、繋がりを作る。

 それが、この儀式の目的だった。


「神秘的な光景ですね……」

「はい。桔梗はお嬢さまが儀式をしているところを見るのが大好きです」


 俺の隣では、桔梗が目を輝かせている。


 杏樹の神楽鈴の音に合わせて、『緋羽根(ひはね)』と『桜鳥(おうちょう)』が羽ばたく。

 やがて、すべての灰が落ちて、地とまざりあう。

 霊域の大岩から水があふれ──灰を地に染みこませていく。


「『桜鳥』たち。あなたたちの帰還(きかん)を歓迎します」


 杏樹は顔を上げて、『桜鳥』たちに呼びかける。


「霊域のよき水を飲みなさい」

『ロロロ』『ルルル』


 桜色の翼を持つ鳥──『桜鳥(おうちょう)』たちが舞い降りる。


 彼らは大岩の側に着地して、流れ落ちる水に、口をつける。

 霊域の水に──ほんの少しだけ、翼を浸す。


 そうして彼らは杏樹のまわりに集まっていく。


 杏樹はまた、神楽鈴(かぐらすず)を鳴らす。

『桜鳥』は音に身体を浸しているかのように、そのまぶたを閉じる。


「──紫州の土地神『九曜神那龍神くようかんなりゅうじん』に、霊鳥の帰還をご報告いたします」


 しゃらん、と、鈴を鳴らして、杏樹は一礼した。

『緋羽根』『桜鳥』も、頭を垂れる。

 俺も桔梗も。後ろで儀式を見ていた『四尾霊狐(しびれいこ)』も。


 しばらくしてから、杏樹は顔を上げて、


「これで、儀式は完了です。おつかれさまでした」


 そう言って、笑った。

 いつの間にか、周囲に精霊たちが集まっている。

『桜鳥』たちの側に近づいて、なんだか、話をしているようにも見える。


 ここは霊域で、重要な場所なんだけど、緊張した様子はどこにもない。

 故郷に帰って親戚や友人と話をしているような……そんな光景だった。


「……零さま、ご神体に触れてみてはいかがですか?」


 ふと、杏樹が俺の耳にささやいた。


「『虚炉流(うつろりゅう)』は(りゅう)と縁があるのですよね? 錬州(れんしゅう)の言い伝えに、龍が天人を運んできたという話があるのも気になります。零さまがご神体に触れれば、反応があるのではないですか?」

「恐れ多いのでやめときます」

「そうですか?」

(ばち)が当たるといけませんから」

「紫州の土地神は、それほど狭量(きょうりょう)ではないと思いますが……」


 杏樹は少し考えてから、


「それでは、土地神に零さまを紹介するのはいかがでしょうか。今回、紫州が領地を増やしたことに、零さまは関わっておられます。その経緯を紹介する意味でも……」

「いえ、そこまでしなくても」

「わたくしが土地神に(れい)さまを自慢したいのです」


 杏樹は言った、きっぱりと。

 真っ赤な顔で。


「……あ、はい。そういうことなら」

「それでは、こちらにいらしてください」


 杏樹は俺の手を引いて、ご神体の前に。

 すると、『四尾霊狐』もついてきた。


『きゅきゅ』

「あら。『四尾霊狐』さまもごあいさつしたいのですか?」

『きゅぅ』

「わかりました。では、一緒に」


 そうして俺と杏樹と『四尾霊狐』は、土地神のご神体の前に立つ。

 霊域のご神体を目の前で見ると……本当に大きい。

 龍神の爪痕(つめあと)のひとつひとつが人の身長ぐらいある。


 龍神本体は、どれくらいのサイズだったんだろう。

 それが人間と暮らしていたというのは……ちょっと想像できない。


 俺は神も霊獣も、精霊もいない……いや、いないのを確認したわけじゃないから、正確には『神も霊獣も精霊も、姿を見せない』世界にいた。

 だから……神と人間が同居している世界というのが想像できないんだ。


「土地神『九曜神那龍神』さまにご紹介いたします。こちらはわたくし、紫堂杏樹の護衛の方で、月潟零さまです。わたくしの側近で、霊獣『四尾霊狐』さまとの、共同契約者でもあります」


 杏樹は俺の手を取り、ご神体に向かって告げた。

 彼女の言葉が終わるのを待って、俺は一礼した。


「月潟零と申します。微力ながら、杏樹さまの護衛を勤めさせていただいております」


 相手は神さまだ。

 本当に聞いてるかどうかはわからないけど、嘘はごまかしは通じないだろう。

 だから、思っていることを、そのまま話すことにしよう。


「俺は生涯(しょうがい)紫州(ししゅう)で暮らすことを願っています。今は杏樹さまの護衛として、将来は、恩給生活をする一市民として生活するのが、俺の希望です」


 俺はご神体を見ながら、告げた。


「俺は杏樹さまに忠誠を誓い、この方の治世(ちせい)の助けとなるように勤めます。正直……杏樹さまは危なっかしいところもあるのですが……」


 だって、迷いもなく『四尾霊狐』と契約しようとするし。

 俺と共同契約することだって、あっさりと決めちゃうし。

 精霊ネットワークを利用した『遠隔会議』を提案したときだって、ふたつ返事でうなずいてた。


 次町でトラブルが起きたと聞いたら、すぐに現場までやってきちゃうし。

 俺が【禍神(かしん)酒呑童子(しゅてんどうじ)】に霊獣との接続を切られたら、即座に『桜鳥(うごかす)』を動かすし。

 部下思いなのはいいけど、ちょっと危なっかしい。


「ただ、俺が少し心配性なのでバランスは……いえ、釣り合いは取れていると思います。だから、俺は全力で、杏樹さまの危なっかしいところをお助けするつもりです。俺が心配性なのは、昔は病弱で、身体に気を(つか)わなきゃいけなかったからですけどね」


 前世のことは……土地神なら、言わなくてもわかるのかもしれないな。

 俺は続ける。


「とにかく、俺は杏樹さまをお支えすると決めています。それと、紫州で見つけた仲間……桔梗(ききょう)さんや(あかね)、『四尾霊狐(しびれいこ)』さまや『緋羽根(ひはね)』さま、精霊たちのことを大切にするつもりです。俺は変な霊力持ちと言われたりしてますが……とにかく、紫州と杏樹さまのために尽くすつもりです。どうか、見守っていてください」


 最後に、ぱんぱん、と、手を叩いて、


「よろしくお願いします。『九曜神那龍神(くようかんな)』さま」


 そうして俺は、ご神体に深々と頭を下げた。

 そのまま、数十秒待つ。


 ……反応はない。うん。そういうものだよな。


 神さまが語りかけてくれるとかは、期待してなかった。

 杏樹がすすめてくれた通り、俺はただ、あいさつをしただけだ。


 でも、なんだか、すっきりした。

 紫州に来てからは事件続きで、土地神にあいさつをする暇もなかったから。

 なんというか、引っ越しが終わって、落ち着いたような気分だ。


「ありがとうございました。杏樹さま」


 俺は振り返って、杏樹を見た。


「土地神さまにあいさつしたことで、一区切りついたような気がします」

「そ、そうですか……よかったです」


 あれ?

 どうして杏樹は下の方を向いてるんだ?

 なんだか、耳たぶまで真っ赤になってるけど……あれ?


「月潟さま!」

「は、はい。桔梗さん」

「桔梗も、月潟さまのことは大切なお仲間だと……いえ、家族のように思っております。お嬢さまも同じ気持ちです。せっかくなので、ご神体の前で宣言いたします!」

「ありがとうございます。桔梗さん」

「お嬢さまも、そうおっしゃりたいんですよね?」

「………………は、はい」


 桔梗の言葉に、こくこくこく、とうなずく杏樹。

 どうも、そういうことらしい。


「……わ、わたくしも、ご神体の前で誓います。零さまにふさわしい者であることを」

「杏樹さまは、俺にとって立派な主君ですよ」

「…………はいぃ」

『きゅきゅっ!』


 そんなことを話していたら、不意に『四尾霊狐』の声がした。


『きゅきゅっ。きゅーっ!』

「ん? 『見て見て』ですか?」

「な、なにかありましたか? 『四尾霊狐』さま」

『きゅっ!』


 前脚で、ご神体を指し示す『四尾霊狐』。

 俺と杏樹がご神体の方を見ると──


「…………欠けてる?」

「…………ご神体のかけらが……落ちております!」

「え、えええええええっ!?」

『きゅっ!』


『気づいたよ。えらい』って感じで俺たちを見上げる、『四尾霊狐』。

 でも、俺も杏樹も桔梗も、それどころじゃなかった。


 地面に落ちてるのは確かにご神体のかけらだ。

 黒い岩で、大きさは子どもの(こぶし)くらい。

 そして、強い霊力をふくんでいる。


 え? でも、なんでご神体が欠けてるんだ?

 さっきまでそんなことなかったよな?

 ということは、これは新たに欠け落ちた部分ということで……。


「俺は……土地神を怒らせるようなことをしたんでしょうか?」

「それはないと思います」


 杏樹は(かぶり)を振って、


「霊域の空気はおだやかなままです。土地神の怒りは感じません。むしろ、わたくしたちを優しく包み込んでいるような感じがします」

「は、はい。桔梗も……落ち着きます」

『きゅきゅ!』

「いやいや、なんで俺の方にご神体のかけらを持ってくるんですか。『四尾霊狐』さま」


『四尾霊狐』はまるでボールを転がすみたいに、ご神体のかけらを俺のところに持ってくる。

 ぺしぺし、って、前脚(まえあし)で叩いてる。え? いいの?


「あの……まさか『四尾霊狐』さまが(かじ)って欠けさせたんじゃないですよね?」

『きゅう!』

「『そんなことしない』ですか。そうですか……」

『きゅ』


 一声鳴いて、杏樹の方を見る『四尾霊狐』。


「『零さまが使うといい』とおっしゃっています」


 杏樹はご神体のかけらを拾い上げて、俺に差し出す。

 使えと言われても……。


 俺はご神体のかけらを受け取った。

 手に持つと……強い霊力を感じる。これは霊力の結晶体だ。


「……これを太刀の材料にすることはできますか?」


 気づくと、俺はそんな言葉を口にしていた。


 太刀を打つときに、霊力混じりの血を混ぜるという話を聞いたことがある。

 そうしてできあがった太刀は、強い力をもつ霊刀(れいとう)になるそうだ。


 ご神体のかけらが霊力の結晶体なら、太刀の素材にできるかもしれない。

 いや、普通にお守りとして持っていてもいいんだけど。

 ただ……俺が使っていいものなら、太刀の素材にした方がよさそうだ。


「大丈夫ですよ。零さま」


 杏樹は言った。


「土地神が授けて、『四尾霊狐』さまが零さまに渡したものなら、きっとなにかの意味があるのでしょう。零さまが自由に使ってくださって、構わないと思います」

「あとで州都の鍛冶屋(かじや)を訪ねてみましょう。きっといい太刀を作ってくれると思います! 茜さまに相談すれば、須月商会御用達すずきしょうかいごようたちの鍛冶屋を紹介してくれるはずですよ」

「……そうですね」

『キュキュィ』

「はい。ご神体のかけらを見つけてくれて、ありがとうございます。『四尾霊狐』さま」


 俺はしゃがんで、『四尾霊狐』の頭をなでた。

 どうして『四尾霊狐』が俺のところにご神体のかけらを持って来たのかはわからない。

 でもまぁ……くれるなら、もらっておこう。

 杏樹と、紫州を守るのには、役に立ちそうだ。


「それでは、お屋敷に戻りましょう」

「はい。杏樹さま」

「戻ったらおやつを作りましょう。月潟さま、手伝っていただけますか?」


 そんな話をしながら、俺たちは儀式の後片付けを始めたのだった。





 ──数分後──



『ありがとう』


 霊獣『四尾霊狐』は、霊域の大岩を見上げていた。


『れいに、おくりものをくれて、ありがとう』


 静かだった。

 零たちは、片付けをしているのだろう。


 霊鳥たちは久しぶりの霊域で休んでいる。

 精霊たちは、零たちの手伝いをしている。


 だから、ご神体と向き合っているのは、『四尾霊狐』だけだ。


『かみさまは、いつか、また地上に来る?』


 答えはない。


『もしかして、もう、地上にいる?』


 それでも『四尾霊狐』は問いを繰り返す。



『かみさまが地上にいるなら、人のすがたをしてる?』

『会いたいな』

『「四尾霊狐」のお母さんが、この霊域を作ったから』



 霊獣『四尾霊狐』は、ないしょ話をするように、続ける。

 赤い目でご神体を見上げながら、霊獣の言葉で、問いかける。



『もしかしたら、かみさまは、「四尾霊狐」が、もっと強くなる方法を知ってるかもしれない。もしかしたら、人の姿になる方法を教えてくれるかもしれない。もしかしたら──』



 小声で問い続ける、『四尾霊狐』。

 やっぱり、答えは返ってこない。


 ただ──



 ころん。



 ご神体の根元で、また、岩が崩れた。

 落ちたのは、ほんの小さな、岩のかけら。

 (れい)与えられた(・・・・・)もの(・・)よりもずっと小さい。人間の、小指の爪の先ほどのものだ。



『…………ありがとう。かみさま』



『四尾霊狐』は、小さな岩のかけらを、口にくわえた。

 そうしてご神体に、深々と頭を下げて、


『ちじょうにかみさまがきたら、おしえてね』



「『四尾霊狐』さまー」

「そろそろまいりましょう」

「帰ったら、おやつにしますよー」


『きゅきゅっ!』


 たたたっ、と走り出す『四尾霊狐』。

 そして──


「え? 『四尾霊狐』さまが口にくわえてるのって……」

「あらら、これもご神体のかけらですね」

「さ、さすがは霊獣さまです。これは霊獣さま専用のかけらでしょうか」

『きゅきゅ』


 ご神体のかけらをくわえたまま、零に抱きあげられる『四尾霊狐』。

 毛並みを手でなでられて、気持ち良さそうに目を閉じる。



 こうして、領地を広げる儀式と、『桜鳥』を紫州に戻る儀式は終わり──



 零たちは土地神から、小さな報酬を受け取ったのだった。










 年内最後の更新です。

 今年も「護衛忍者」や「創造錬金術師」をお読みいただきまして、ありがとうございました!

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