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A2:洗脳密令  作者: HasumiChouji
第一章:毒戦寒流
2/12

(1)

「貴方が……『萌香(もか)先生』ですか……。まさか……こんな若いお嬢さんだとは……」

 「自分の財布から出した金を払って」と云う条件の元では、一生縁が無さそうな高級ホテルのスイートルーム。

 窓の外には丸の内の夜景が広がっている。

「ゴツい男を連想させる『名前』にしていた方が良かったかしら?」

 私は……「女教師もの」のアダルトビデオにでも出て来そうな……黒のブラジャーがほんの少しだけ見えるように胸元を開けた白いブラウスに、丈の短い黒のタイトスカート。伊達眼鏡とハイヒールの靴だけは高級品だ。

 相手は、これまた高級(たか)そうである事以外、よく判らない背広を着た初老の男。

 男が手を伸ばし……その指が私の顔に触れる。

「本日は、あくまでもビジネスのお話ではなかったかしら……?」

 一瞬だけだが……男の顔に怪訝な表情が浮かぶ。

「たしかに……。では、サンプルを見せていただけますか?」

「はい……これを一〇〇㎏、明日中に御用意できますわ」

 そう言って、私は……聞いた事も無いブランドだが、どうやら超高級品らしい……そして大して使った形跡が無いバッグから「白い粉」を出す。

「なるほど……では……」

 そう言って、男が自分の鞄から取り出したのは……鏡。

「品質を確認したいのでね……」

 男は、「サンプル」の包装を破り鏡の上に白い粉を落とす。

「どうぞ……」

「貴方がやるんですよ」

 そう言って、男は財布から、このホテルの会員証らしいカードを取り出した。

「私……『商品』には手を出さない主義……」

 次の瞬間、男の手が私の首を掴み……。

「フザけるな……。貴様……何者だ? 何故、俺の力が通じ……ぐえええッ‼」

 男の腕には……私が履いていた靴の踵が突き刺さっていた。

「買い手の筈のあんたじゃなくて、何で売り手の私が、味見しなきゃいけないのよ?」

 そう言って私は男の背後に回り込み……左手の人差し指と中指を男の鼻に引っ掛け……。

「はい、豚さん。大好物の『お薬』ですよ〜。出荷される前に、好きなだけ味わってね〜」

 私は、男の鼻の穴に白い粉を注ぎ込み……。

「ゲホッ‼ ゲホッ‼ ゲホッ‼」

 続いて私は男の首に両腕を回し……そして、ゆっくりと男を絞め落す。

「ごめん……失敗。マル対は、自分の能力が私に効かなかった時点で……何か変だと思ったみたい……」

『ふざけるな……』

 無線機の向こう側からは……共同捜査をしている麻薬取締官の怒りの声。

 その時……絞め落した筈の男の手に、あるモノが握られていた。

 ……今時、ポケベル? まさか……。

 見ると……どうやら、ついさっき、何かを発信したらしい……。

「あと……マル対は気絶させたけど……仲間を呼んだみたい……。助けに来て……」

『判った……。あ……マズい……』

 どうやら……私は……いわゆる「異能力者」らしく、そのせいで、数年前に出来た「レコンキスタ」(ちなみに何の略語かは聞いた事は無く、そもそも何かの略語かどうかも良く知らない)こと「対異能力犯罪広域警察機構」の「特務要員(ゾンダー・コマンドー)」として採用された。

「何?」

『ヤツの手下が居るのは……俺達の部屋の同じ階の……こっちで戦闘が始まったんで切るぞ』

 しかし……その私のたった1つの「異能力」は……「精神操作系の異能力に対する原理不明の強い抵抗能力」だけ……。

 戦闘に関しては……「やや強い婦警」に過ぎない。

「また……査定下るかな……?」

 「萌香先生」と云う通称のみで知られる「誰か」に率いられる麻薬密輸組織と、「大手」の系列でないにも関わらず、ここ数年、急速に勢力を拡大している暴力団の麻薬取引の捜査に駆り出されたは良いが……その結果起きたのは……。

 とは言え……流石は高級ホテルだ……。

 防音はしっかりしているらしい。

 すぐ下の階で起きてる筈の銃撃の音が少しも聞こえなかった。

 やがて……窓から下を見ると……道路にはサイレンの灯りがいつくも見えた。

「どうすんですか、この状況? 約一時間後には……()()()『萌香先生』が来る予定ですよ?」

『誰のせいだと思ってんだ、ボケっ⁈』

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