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異世界勇者の人助け  作者: 鳥羽こたつ
1章
8/125

飛べますよ。人間ですもの

暖かくなってきたなーって思ったら雪ですか。

「逃げて!」


先ほどの狼男との戦いから数時間。その後も私は少女と共に、他の人たちを助ける為に戦いを繰り広げていた。

最初に戦った狼男と類似した奴や、虫のように這うモノ、動く人骨などを相手にし、そして今私たちは鳥のような翼が生えた人間と戦っている。


「くっ、また飛んで!」


一旦少女に戦いを任せ、私は逃げ遅れた老人達を比較的安全な場所へと連れていく。そして戻ってくると、少女は空を飛び回る鳥人間に対して石ころを投げていた。


「あいつ、空にいる?」

「見ればわかるでしょ!どうするっ」

「こっちも飛べばいいでしょう!」

「人が飛ぶ?バカ言ってんの!?」


バカを言ったつもりなんてない。風の魔法を使えば自らの体を浮かせることができる。空が自分だけのものだと思うなよ!


「行ってきます!」


返事を聞くより早く魔法を唱える。空を飛ぶのは久しぶりだが、体が感覚を覚えているようで自由自在に動き回ることができた。鳥人間は普通の人間が空を飛ぶなんて思ってもみなかったようで、わかりやすく驚愕の表情を浮かべている。そしてその表情のまま、鳥人間は最期を遂げることとなった。

ゆっくりと地面に降りる私を、少女はどことなく呆れた顔で迎えに来てくれる。


「…まさか本当に人が飛ぶなんて」

「飛べますよ。人間ですもの」

「普通は飛ばないでしょ。あんた、本当に勇者様なんだ」

「勇者は関係ないです。ところで、大方片付いたってことでいいんですかね」


耳を済ましたところで、先ほどまでの悲鳴は聞こえない。それは目を通してもわかることで、辺りを見渡してもモンスターの存在は見当たらなかった。


「だろうね。アタシ達も教会に戻ろうか。怪我をした人たちの手当てでもしようよ」

「喜んで。それにしても、死体が転がるようなことがなくて良かったです」


実際に戦ってみると大した襲撃ではなかったものの、どんな戦いでも犠牲者は出るものだ。その犠牲が小さなことで済むのであれば、理屈抜きで嬉しくなる。人が死んで喜ぶ人などいないのだから。


「そういえばさ、シロカは怪我してない?」

「大丈夫です」


実際はかすり傷くらいはしているが、こんなもの怪我のうちに入らないだろう。そう思って教会への歩を進めていたのだが、急に腕を強く掴まれる。何事かと思って振り向くと、少女がえらく真剣な瞳で私の首元を見つめてきた。


「な、何ですか。吸血鬼にでもなったつもりですか」

「首元、怪我してるよね」

「大丈夫ですよ。痛くないんですもの」

「動かないこと、いい?」


少女はズボンのポケットから塗り薬を取り出し、それを人差し指に付けると、そのまま私の首元まで指を運ぶ。首元を襲う冷たい感触に、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「…首、弱いの?」

「…」


何だか恥ずかしくて、小さく頷いた。すると、少女はもう一度首元へ指を近づける。


「ちょ、まっ、何をする!?」

「可愛い声だったから、もう一回聞こうかと」

「性格の悪いっ、人だ!」


ちょこまかと指を動かす少女から逃げる為、首を引っ込めながら走り出す。全くなんて人だ、意地悪な人とはこういう人をいうんだ。


「いつまでやるつもりですか!」

「声を聞くまで!」

「子どもなの!?私より大きな体してる癖に!」


教会に辿り着くまで、鬼ごっこは続いた。結局私は鬼ごっこに負けて、少女の言う可愛い声を延々と上げる羽目になったのだが、それはまた別の話だろう。

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