赤子以下でも役に立つでしょう
壁を駆け上がるっていうと、sasukeを思い出しますね。
構えも何もない、素人のような剣の持ち方で狼男へ戦いを挑む。狙いは、首だ。人型である以上そこに神経が集まっているに違いない。
首元へ斬りかかろうとする私の攻撃を、狼男はすんでのところで避ける。だが、そんなことは予想済みだ。
二撃目。避けられたその攻撃の後、私は大地の魔法で地面を隆起させ自らの目の前に土の壁を作り出す。その壁を駆け上がり、上から狼男へと飛びかかった。空中からの攻撃というものが予想外だったのか、狼男は避ける動作すら見せず、正面から私の斬撃を浴びる。
飛び散る血が地面を汚した。
「効いてる、攻撃が!」
私のすてーたすがどうであれ、今、目の前の敵を倒す手段があるということがわかった。あとはそれを実践するだけだ。
傷を負った狼男が怒りの矛先を私に向ける。奴は棍棒を構え、その怒りごと私にぶつけようと飛びかかった。
「隙を見せたぁ!」
無防備に飛びかかる狼男をギリギリまで引き付け、剣で攻撃を受け流して頭から紫電一閃。一太刀を繰り出した。
返り血を浴びながら聞こえたのは、初めて少女と出会ったときに聞いた『ポン』という音だった。気がつくと、目の前にいたはずの狼男は跡形もなく消滅している。
勝った、のだろうか。
「シロカ!」
息を整える私の元へ、いつもの少女が駆け寄ってくる。
「怪我は?」
「こっちの台詞!…って言いたいけど、凄かったね。一撃も喰らってなかったでしょ」
「赤子以下でも役に立つでしょう?」
「あんた、嫌な奴だね」
「でしょうね」
先ほどまでの緊張はどこへやら。今は少しだけ、和やかな空気が漂っていた。…余韻に浸る暇はないが。
「行きましょう。他の人たちも助けなければ」
「うん。今度はアタシも戦うよ。一人の戦いは辛いでしょ?」
「頼りにさせてくださいね」
「お、お待ち下さい!」
その場を離れようとする私たちを止めたのは、傷だらけの男だった。傷は多いものの、見たところ焦点も合ってるし足も震えていない。命に別状はないだろう。
「何です?避難所なら向こうに」
「あぁ、それは大丈夫です。わたしはお礼を言わせて欲しいのです!」
「お礼?」
「はい!その、ありがとうございます!わたし達家族が全員無事なのも、貴女方のおかげです!」
男はそう言うと、後ろにいた家族と共に頭を下げた。…参ったな。こうやって素直に感謝される経験など久しくなかったので、むず痒くなってしまう。
「戦いが終わり次第、改めてお礼をさせてください。是非、避難所に立ち寄ってくださいね」
「…わかりました。危険ですので、早くここから離れてください」
「顔真っ赤だけど、これくらいで照れてる?」
まさか自分が、感謝されることに喜びを感じる人間だなんて思わなかった。もっとドライな人間だとばかり。
「顔なんて、知りませんが。行きますよ」
「はいはい。じゃあおじさん達、お気をつけて!」
もう少しこの感情を感じていたかったが、それは後回しにするとしよう。そうやって感情に行動を左右されていては、救える命も救えなくなる。
私たちは改めて、他に襲われている人々を助けるために走り出した。