運命的な出会いって奴ですか?
あらすじに書いてある部分にたどり着くまでに何話かかりますかね…。
更新スピードは遅いと思いますが、よろしくお願いします!
──。
ここは、どこだろう。
気がつくと私は真っ暗な空間にいた。先ほどまでとても暖かかったはずなのに、今は体が震えるほど寒い。
「シルシ、一体ここは…」
腰にぶら下げていた愛剣を手に取り、昔の癖で話しかけてしまう。だが、相手は剣だ。返事など返ってくるわけがないということはわかっていた。
「…あぁ、そうだ。シルシはもう話さないんでしたね」
シルシ、というのは私が剣につけていた名前だ。剣が話すわけないのに、昔の私は事あるごとにシルシに話しかけていた。消したくなるような恥ずかしい過去だ。
ひとまず辺りを見渡してみよう。手のひらを広げ、その上に小さな火球を生み出す。少なくとも魔法を使える場所ではあるようだ。息もできるし、最低限の生活できる環境は整っているらしい。
ランプ代わりの火球のおかげで明るくなった景色を見渡すと、ゴツゴツとした岩盤が私を囲んでいた。どうやらここは洞窟の奥地のようだ。なるほど、日が入らないのならばここまで寒いのも納得だ。
一体どうして私はここにいるのか。疑問はあるが、まずはここを出るのが先決だ。そう決心し、白い息を吐きながら代用ランプを頼りに歩き出す。
しかし、歩けども歩けども光が見えない。耳に入ってくるのは自分の足音だけ。まるで死後の世界に迷い込んでしまったかのようだ。…どうだろう、あながちありえない話でもないかもしれない。
不思議と不安にはならなかった。死後の世界なら、それはそれでかまわない。寧ろそっちの方がたくさんの知り合いがいそうだ。
「…?」
ふと、立ち止まる。
洞窟の奥から音がした。剣がぶつかる音、地面を蹴る音、それに重なって獣の鳴き声が二つ。
いや、違う。聞き取れる。片方は人間か?
淡い期待を抱きそうになる。もし本当に人間なら、言葉が通じる者がいたのなら、それは私にとって願ってもないことだった。
万が一のことを考えて岩陰に隠れながら音の方へと歩み寄る。そうして歩いた先には、一人の少女が二足歩行の獣人と戦闘を繰り広げていた。少女と言っても私より年上だろう。遠くから見ても、恐らく私より背が高い。
戦闘は少女の方が優勢のようだ。鍔迫り合いの状態になっても押し負けることがない。やがて少女の斬撃が獣人を大きく吹き飛ばし…。
「えっ」
消滅した。
獣人が『ポン』という可愛らしい音を立てて、消滅した。遺体が残るわけでもなく、弾ける泡のように跡形もなく。
どういうことなんだろう。まさか、遺体を破棄する魔法だとでも言うのだろうか。私は世界を救うために色々な場所を廻ったつもりだが、そんな魔法の存在は知らないぞ。
「…誰?」
少女が隠れていたはずの私の存在に気がついた。よく考えたら当然だ。ランプ代わりの火球を消していない。…何故、私はこんなんで隠れているつもりになっていたのだろう。おっちょこちょいな自分が嫌になる。うだうだ隠れていても意味がないため、大人しく少女の前へ歩き出した。
「あれ、女の子?」
目の前にいる少女が私のことをジッと見ている。実際に間近で見ると綺麗な人だった。暗い洞窟の中でも目立つ真空色の髪は雲一つない青空のようだ。
「え、と」
何かを言おうとして言葉に詰まる。聞きたいことが多すぎた。ここはどこなのかとか、あなたは誰ですかとか、さっきの消滅は何ですかとか。
そうして混乱した私の脳みそは、結局全く違う言葉をアウトプットする。
「人、ですよね?」
「そうだけど」
「良かったー」
何を確かめているんだ私は。
「あの、その。怪しいものじゃないんです」
「うん」
「えっと、信用できるものでもないんですけど」
「…うん?」
…確かにそうだが、わざわざ言う必要もないだろう。
この時点で私の混乱度合いはピークに達しており、「あの」だの「えー」だの、間を繋ぐ言葉しか話せなかった。そんな私の様子を見て、真空色の少女はこう言った。
「あの、とりあえず外に出ない?そうすれば少しは落ち着くんじゃないかな」
「…はい」
一応魔王を倒した者だと言うのに、何とも情けない。
目の前の少女に案内されるがまま、私はこの寒い洞窟から出るのであった。