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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
54/54

54.男たちのその後

あれから何年かたった。

ケータイ部長が反乱を起こして立ち上げた会社はうまくいっているのだろうか。

一緒にマンガを読んで時間を潰し、そのままABCに残った事務員から聞いた話だが、売り上げの良い1号店の隣にケータイ薬局ができて患者を取り合い、処方箋を出している医師もどちらの会社と話をしたらいいのか分からず、現場はメチャクチャになっているらしい。


一度、薬剤師会主催の講習会を大きなホールで聞きに行ったことがある。調剤薬局に勤務している者にとっては、絶対聞かなければならない大切な内容の講習会だったので、参加者は熱心にメモをとっていた。ふと横を見るとホール脇の出入り口に、くらげ課長の姿が見えた。聞いているのかいないのか、よく分からない気の抜けた顔で、メモもとらずに壁に寄りかかって立っていた。くらげ課長にとっては、今もそしてこれからも、こうして時間を潰しながらフラフラと世の中を渡っていしのだろう。


一度用があって、ジュンちゃんが再就職した店を訪ねたことがあった。男の人が一人で働いているだけだった。

「あの、ジュンちゃんという人がここで働いているはずなのですが」

「ああ、彼女ね。何か月か前、ご主人が脳の病気で手術して、それからご主人が退院された後、一緒に実家に帰ったよ」

知らなかった。そんなことが起こっていたのか。 

もしかするとジュンちゃんのダンナの日出夫が夢野薬局で働いていた時、何もしないで一日中ソファーに座ってほほえみ社長と話をしていたのは、その頃から身体の具合がどこか悪かったのかもしれない。


それからもっと後になって、薬問屋の営業の人に

「ダンディー黒岩という人、岩手にいると思うのですが知っていますか」

と聞いたことがある。

「ああ、黒岩さんですか。あの人は今は岩手でものすごく偉くなっています。もう単なる営業の僕など、気楽に声をかけられない存在です」

と言われた。

さすがダンディーだけある。一度はダメになっても、転勤先で復活したのか。きっと再び格好よくなっているのだろう。


夢野薬局のビルは駅前の線路沿いに建っている。

その路線に乗って通り過ぎた時、同じその建物には畳屋の看板が出ていた。

それからさらに何年か経って、また同じ路線に乗って電車の窓から見た時、今度はパソコンスクールの看板に変わっていた。

まさかあれからあの社長が畳職人になったり、パソコンを覚えたりするはずがない。借金に困り、いよいよ自宅でもある三階建てのビルを売ったのか。

またはあのペテン師の技術に磨きがかかり、あの天性のほほえみで次々と新しい業界の人をダマし続け、新しい事業を取り換えながら、あの場所に住み続けているのだろうか。


結果として、遅れた私の給料は全て払ってもらった。今は別の会社で働くことができている。

何も損はしていないはずだ。ただ、あれ以来ジュンちゃんとは音信不通になっている。


これでこの話は終わりです。下手な文ですが立ち寄っていただいた方、ありがとうございました。

9月3日から新しいシリーズを立ち上げたいと思っているので、よろしければお時間のある時に、覗いてみてください。

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