53.それから・後編
桃屋の『ごはんですよ』にそっくりの男。何のためにやってきたのか。
そう思っていた時、本社から業務連絡のFAXが流れてきた。
退職……中くらい部長
薬局長M
さらに追記として、今後はこの人たちと仕事に関しての話をしないように、という注意が書かれていた。
こういうことが起こったらしい。
Mさんが薬局長をしていた店は、この会社では一、二を争う売りくらい上げが良い。
そのMさんが会社を辞め、その店のすぐ近くに自分で店を出した。患者さんの多くも、そのMさんの新しい店に移ってしまったらしい。そしてそれに対して資金を出し、共同経営者となったのが中くらい部長である。
また反乱軍か。
今までMさんとはそこそこ仲良くしていたので、そのFAXを見て私は一度、新店にお祝いを持って訪ねていった。別に仕事の話をする訳ではないので、これは問題ない。
Mさんの新しい店はぴかぴかで、あちこちにお祝いの花が飾られていた。
「あの会社だと、やはりできることに限界がある。僕は他にやりたいことがあるから、自分で薬局をやることにした」
そう語るMさんの目は、子供のようにキラキラしていた。
男は夢が無いと生きられないのだろうか。
いや、そうではない。ここにいた。
なぜか私はこの男から、その生き方の中に夢のカケラも感じられない。
『桃屋のごはんですよ』
あれからこの男は、反乱した中くらい部長の後釜に収まった。
あちこちの店に顔を出しては、職員をアゴで使っていくようになっていった。そして私はそれ以来、散々この男に苦しめられるようになっていく。
しかしこのことはこの話とは関係ないので、ここでは触れないことにする。




