47.ケータイ部長もセコかった
一時、行方不明になったのかと思うくらいに連絡が取れなくなったケータイ部長が、新会社設立を公表してから、ちょこちょこ私が働いている9号店に顔を出すようになった。
仕事…ではなく、遊びに。
部長職なのだから、何も平社員のように掃除をしろとか、粉薬を計れとかは言わない。しかし9号店に来てテレビを見たり、ケータイであからさまな世間話をしていたり、明らかにわざと遊んでいる。
「今日も朝、出社しなかったんだ。本社の人間は、もう私のことを何だと思っているのでしょうね」
それは楽しく遊んでいるというより、仕事大好きなのに、わざとサボッて見せているようだった。
新会社を作ると決めたのに、なぜまだABCを辞めないのだろう。不思議に思っているのが通じたのか
「あとは私の願いは、この会社から免職にしてもらうことです。免職ならば、辞めてすぐに失業保険がもらえるから」
ケータイ部長がきっぱりと言った。
そのためにわざと定時に出社しなかったり、出社した後もわざとらしくサボッていたのか。
ケータイ部長はもう新しい会社を設立し、そこの社長になることが決まっている。いわばABCの退職と同時に次の仕事があるのに、失業保険の何か月分かを当てにして、そのためにわざわざこんなところで時間をつぶしているのか。そんな小手先の小金を当てにせず、さっさと辞めればいいのに。
セコい。
ほほえみ社長は常に何億のお金を動かすことを夢見ていて、目先の1円2円を大切にしなかった。しかしケータイ部長、くらげ課長の二人は目先の1円2円のことばかり考えていて、あまりに器が小さい。
「この人の新会社に行かなくて、やはり正解だった」
ちょうど良い大きさの器の人間を見つけるのは難しい。




