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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
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46.シロップ容器事件

今から思えば、私も間が抜けた対応をしたものだった。だが、どちらの会社に行く気もないからどちらに味方する気も無い。仕方がない。


ABC9号店に移ったある日、久しぶりにくらげ課長がやってきた。

まあ、ここはABCが閉店させた後にくらげ課長もかかわっている反乱軍の会社のものになるのだから、当然のことである。私は店の譲渡に備え、毎日少しずつ店の中の片付けをしていた。


「このシロップ容器、閉店までの間にこんなに使わないですよね。封を切っていない段ボールに入っている分は、1号店に移動させましようか」

隣にいたくらげ課長に何となく話しかけた。

シロップ容器というのは、子供のシロップの薬が出た時に、それを入れる薬容器のことである。ここ9号店は主に内科の処方箋を受けているので、そんなに沢山使わない。片や1号店は小児科中心なので、山のように容器が使われている。ABC閉店まであと一か月を切っているので、段ボール一箱、100本、200本はいらない。手元に20本も置いてあれば充分である。

その時、それを聞いたくらげ課長は何も言わなかった。が、心の中で密かにひらめいていた。


翌日。

「すみません。課長さんから言われたので、持ってきました」

毎日薬を運んでくれる問屋さんが、段ボールを次々と、10箱くらい運んできた。全て中身はシロップ容器である。

 ?

私はこちらにある容器が使いきれないから1号店に渡したらどうかと、くらげ課長に言ったはず。なぜ逆に1号店から容器が届いたのか。


つまりこういう事なのだろう。

反乱軍のくらげ課長はまだABCの社員。しかも課長である。その地位を利用して、1号店の、そしてABCの財産であるシロップ容器を今のうちに9号店に移動させて、店の売却の時に新会社のものとして、ちゃっかり手に入れようとしたのである。


私はどちらに味方する気もないから、黙ってそれを見ていた。そして高く積まれた段ボールを見て、うんざりした。

「片付ける方の身になってもらいたい。これだけの段ボールをどこに置けというのか。これだけあれば10年分はありそうだ」


休憩室の横に何とか場所を作り、段ボールを積み上げながら思った。

「あのくらげ課長、せこい! 反乱を起こすなら大した金額じゃないからシロップ容器くらい自分で買えばいいのに」

くらげ課長が業務上横領をしていることより、このみみっちい生き方に対して、怒りを感じた。


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