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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
45/54

45.ケータイ部長の反乱と名刺事件

ABC13号店を閉店させた後、私はABC9号店に移動になった。ここも近い将来閉店予定となっているので、そのうちにまた移動することになるのだろう。


さて、その9号店に移動した少し後のことだった。

「皆さん、本日は私から大切な話があるので、絶対に出席してください」

最近ほとんど連絡不能となっていたケータイ部長が現れ、突然調剤部門の従業員を小ぎれいな料理屋に集め、くらげ課長と共にそこで食事会を開いた。


多くの従業員はあまり乗り気ではないが、それでもとりあえず出席していた。そこで一通り食事が終わると、待っていたようにケータイ部長が一人ずつに名刺を配り、そして立ち上がって話し始めた。

「皆さん、私はこのたびABCを辞めて新しいチェーン店を起こすことにしました。これがその名刺です。この会社にいては、調剤部門はどんどん縮小されてしまいます。皆さんもABCを辞めて、ぜひこちらに来て働いてください」

見ると、そこには五件の調剤薬局が名刺の裏に書かれていた。しかし、そのうち二件は

   ABC9号店がケータイ1号店に

   ABC1号店がケータイ2号店に

名前が変わっただけだった。

さらに話を聞くと、残りの3店はこれから立ち上げる予定とのこと。

不思議だ。

実体より先に名刺ができる会社というのがあるのか。


それにしても閉店予定のABC9号店をケータイ部長が買うということは理解できる。しかし業績が良くて稼ぎ頭のABC1号店を手放すはずがない。どうするつもりなのだろう。


とりあえず出席した従業員は大人なので、その場では可とも不可とも言わず、うなずいて聞いていた。

そしてケータイ部長とくらげ課長に、その日の食事のお礼を言って別れた。


二人の姿が見えなくなると、皆は一斉にポケットから先ほどの名刺を取り出し、その場でビリビリと破った。

「あいつらの言うことは信用できない。ウソしか言わない人だから。以前は95パーセントがウソで、本当の部分が5パーセント残っていたが、今は100パーセントがウソだから」

なるほど、そう言えばABCの社長と面接した時も、全て作り話。最初から作られたシナリオを読むだけだった。


この二人、ここまで人望が無いとは思わなかった。

かと言ってABCチェーンも4号店、9号店、13号店を閉店させると、あと残っているのは蒼ざめた二人のいる1号店。他は通勤に二時間以上かかるところばかりだった。


この日私はABCを辞め、ケータイ部長が反乱して作った新しい会社に行くのもやめようと決意した。


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