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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
43/54

43.看板はずして

ABCチェーンの調剤部門の縮小が決まってから、なぜかケータイ部長とくらげ課長と連絡のとれない日が多くなった。


もっともこの二人、連絡が取れないにしても、それぞれの個性があって面白い。

ケータイ部長は常に忙しい。仕事の話をしている時もほぼ五分おきくらいにケータイをかけまくっている。時々

「おおお、頭が痛い。ケータイの掛け過ぎで電磁波で頭痛がする」

と叫ぶ時もある。それでもケータイを離さないのだから、わが身を犠牲にしてでもよほど仕事が好きなのだろう。


片やくらげ課長の行動には謎が多い。

「ちょっと他の店に行ってきます」

と言って朝店を出て、隣の駅にある他の店に着くのは夕方になってからである。

その間の行動は誰も知らない。店の仕事が忙しい時でも

「くらげ課長はアテにするな。どうせ来ないから、いると思うな」

というのが、他の従業員の間での暗黙の了解となっている。


それでも、普段の業務においては上司というものはあまり必要ではない。

むしろ、いない方が気楽で良い。それでも閉店となると、上司が必要な場合がいろいろと出てくる。


店の前に貼った

『閉店のお知らせ』

という紙を見て、近所のイササカさんから電話がかかってきた。

この人はもともと善意のあるご近所さんである。最初にほほえみ社長が薬局を開店した時

「ご近所だから応援しましょう」

と自宅の塀に、無料で看板を付けることを許可してくれた。

それがABCに売却した時、ABCから

「ウチはご近所という訳ではないので、毎月きちんと賃料を払いましょう」

とケータイ部長が交渉して、引き続きABC薬局に塗り替えて看板をつけさせてもらっていた。


そのイササカさんからの電話である。

「ABCさんが閉店するというのを聞きました。それなら私の家の塀に付けている看板をはずしてもらいたいのですが、ケータイ部長に電話しても連絡が取れないのです。どうしたら良いでしょう」

そう言えば私からもなかなかケータイが繋がらず、連絡がとれない。

「ABCの本社はここなので、ここに聞いてみてください」

私はABC本社の電話番号を教えた。

しかし私は今まで本社に電話をして、トラブルが解決したことがない。


少なくとも閉店作業が終わって最後に私が店のシャッターを閉めた時点では、看板はそのまま付いていた。

善意で自宅の塀に看板を付けてくれたイササカさん、あれから看板をはずしてもらえたのか。結局善意はアダになってしまった。イササカさんに対しては今でも心が痛む。


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