42.青ざめた二人・消えた二人
ABCの優良店舗として1号店がある。
ここは朝八時から夕方八時までが営業時間。本来はシフトを組んで交代で休むのだが、シフトを組めるだけの人手が足りず、ここで働いている人は一日十二時間フルで働き、さらに残業になることも多かった。
その中で中心になって働いていたのは、二十代の男性薬剤師二人だった。月曜から土曜までほぼ毎日、十二時間勤務とさらに残業をこなしていた。
一人は新しく購入した高級車の支払いのため。
もう一人はこの部所を任された責任感のため。
どんな理由であれ、会社にとっては貴重な人材となっていた。
一度、人手が足りなくてそこに手伝いに行ったことがあった。
その時、噂に聞いていたこの二人と会った。二人の顔を見た途端
「これはまずい! 」
真っ先に感じた。
二十代の若者なのに、この二人の青白い顔色は尋常ではない。明らかに長い間の疲労が蓄積されていて、人としての生気がほとんど残っていなかった。今の店が閉店になったら、自分はどこか別の店に移動しなければならない。常識的に自宅から通える範囲の店はこの1号店しかない。しかしこの二人の青ざめた顔を見た時、自分はここの店では到底やっていかれないと悟った。
かと言って今すぐどうするか、まだそこまで具体的に考えがまとまらない時期のこと。
「とりあえず、今はどんなことがあっても会社は辞めないでください。今の時点では絶対にです」
13号店、つまり今働いている店の閉鎖の話を聞いた少し後、ケータイ部長は私に対してしつこいくらいに念を押し、そして去っていった。
辞めるとか辞めないとか、この時点ではまだそこまで考えていなかった。とりあえずこの13号店閉店のために、やらなければならないことが山ほどあったからだ。
ほんの数か月前、同じ場所で夢野薬局を閉店し、ABC薬局移行のための手続きをした。そのすぐ後だから、だいたい手順は分かっている。
今ある薬の在庫を全て数え、資産の計算をする。
役所への手続き。
薬歴をどこへ保管するか。
今まで来てくれた患者さんへの対応。
細かい作業だけでなく、いちいち上司の許可を得てからやらなければならないことが案外多い。
夢野薬局の時は借金を抱えた社長が年中逃げ回っていて、社長を探し出すという作業が大変だった。
今度のABCの場合は……。
なぜか閉店が決まったあの日から、何度電話をかけてもケータイ部長にもくらげ課長にも連絡がとれない。仕方ないので本社の事務所に電話をかけてみる。しかし大抵の場合
「こちらではよく分かりません」
という返事。つまり今まで全て調剤業務の仕事は、あの二人に丸投げで任せていたのだった。
不便だ!
どうして前回も今回も、肝心な時になると責任者というものが消えてしまうのだろう。
やっと上からの指示に従ってだけいればいいという、気楽な平社員という身分になれたと思ったら、またもやその上の人がどこにいるのか分からない。
人の上に立つ人間の方が気楽なものだ。




