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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
36/54

36.奇妙な面接

入社してしばらくたってから、ABC社長との面接があった。

普通は入社する前に行われるものだが、『自分が売られていた! 』事件によってあわてて薬局の売却が進んだのと、ABC社長が長期の海外研修に行っていたため、入社して三週間後に面接が行われた。


まず、社長と会う前にケータイ部長が私のところにやってきた。

「いいですか、敬子さん。ABC社長には夢野薬局を買うにあたって、今までちょっと離れた眼科の処方箋だけを細々と受けていた。それが今度、隣の内科が処方箋を出すことになった。そうなると今度は仕事が忙しくなる可能性が出てくる。夢野社長はこれからリゾート開発に力を入れたい。そのため、手間のかかる薬局経営は私たちに任せることにした。このように話してください」

すでに筋書きというものができていて、それをABC社長に説明するということになっているらしい。


私はABC社長の前に座る。

「桜井敬子です。よろしくお願いします」

社長の隣にはケータイ部長が座っている。

挨拶が終わると、いきなりケータイ部長先ほどの話を弾丸のように話し始めた。時々私に向かって

「そうですね、敬子さん」

と言われるので

「はい」

と答える。自分の仕事の能力のアピールとか経験とか、誰も聞かない。全く楽な面接である。


ケータイ部長は一方的に話す。

ABC社長はどこまで聞いているのか、興味なさそうにうなずく。私はだんだん座って返事だけするのに飽きてきて

「もしかして、私はここにいなくてもよいのではないか」

と思うようになってきた。


つまりABCという会社は、こういう体質だったのだ。

そのため、この話はまだまだ終わらない。


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