35.お茶を飲みたい
さて、ここは新しくABC薬局13号店としてスタートした。
「お昼にお茶を飲みたいので、電気ポットを買ってください」
私はくらげ課長に要求した。今まで使っていたものは、ほほえみ社長が自分のものとして持っていった。私は昼に弁当を食べた後、お茶を煎れて飲みたい。
「もちろん良いですよ。ただ……」
今度は電気ポットも買えないような貧乏会社という訳ではないだろう。年商何億という鳴り物入りで紹介されたのだから。
「この会社では、三千円以上のものを買うのには社長の許可が必要です。許可は簡単に降りると思うのですが、今、ABC社長はアメリカに研修に行っています。再来週まで帰ってきません。それまでは我慢してください」
という理由で、私はしばらくはお茶が飲めない貧乏気分のまま、しばらく働くことになった。
まあ貧乏には慣れていたし、こんなものだろうと諦めて過ごした。
どうやらこの会社の社長はよほど勉強するのが好きらしく、一年のうち三、四回はアメリカやフランスに『研修』に行っているらしい。
経営より研修の好きな社長
→留守は部長に任せている
→実務は部長だけが知っている。
という事実にまでは、私の考えは及ばなかった。
今、飲んでいる生ぬるいペットボトルのお茶と同様に、自分の考え方も相変わらず生ぬるい状態だった。
さて、そのABC社長が海外研修から戻り、無事に電気ポットを手に入れた後、事後承諾ではあるが私は新入社員として社長と面接することになった。
今から思えば、それは実に奇妙な面接だった。




