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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
14/54

14.同級生というもの

夢野薬局は三方が開業医に囲まれ、薬局を開くには絶好の場所だった。

しかし、薬局がオープンしても患者さんはあまり来なかった。


暇。

患者さんが来ない。

このままではやっていかれない……。


理由ははっきりしている。隣の内科の医院がほとんどの薬を自分の医院の中で出して、処方箋を発行しないからである。わずかに出している処方箋は小児科のシロップ剤とか、少数の患者さんしか使わない珍しい薬とか。

要するに手間がかかって面倒な薬は処方箋を出し、数を数えて出せばよいだけという、簡単で利益のある薬は自分のところで薬を渡している。


開局して二か月くらいたった時、ほほえみ社長はついに思い腰を上げ、私たちのところへやってきた。

「このままではやっていかれない。なんとか全部の患者さんの処方箋を出してもらえるように頼んでくる」

そうそう、そうなれば今が貧乏でも、これから利益を出して私たちもやっていかれる。

「行ってらっしゃ~い」

元気に社長を送り出した。

「あ、その前に岐阜の不動産の家賃の計算をしなくちゃ」

そう言うと社長はそのまま事務所に戻り、そして家賃の計算というものは余程大変な作業なのか、夕方までついに事務所から出てこなかった。


その翌日も、それから先も。

社長が内科の医院に処方箋を出してもらうように頼みに行くことは、最後まで起こらなかった。


開局前、社長が言っていたことがあった。

「あの医者とは小学校の同級生でね。幼馴染だから、お互いによく知っているんですよ。よく知った仲だから」

当時はそれを聞いて、そこのドクターとの関係は心配ないと思っていた。


今から思うと、特に男にとって。同級生というものには二つの意味があるのではないだろうか。

同級生だから頼みやすい。

同級生でよく顔を知っているから、頭を下げられない。

それならば、初めから頼みに行くなど言わなければいいのに。


「頭を下げるのには、お金はかからないのにね」

その日の売り上げを数えながら、ジュンちゃんが私に言った。



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