12.生ハム事件
この頃になるとそろそろ私たちも、社長はお金に困っている、ということにうすうす気づいてきた。
ある日の朝。
出勤すると店の前がすさまじい状態になっていた。店の前の道路一面にゴミが散乱しているのだ。
カラスだ。
誰かが出したゴミ袋をカラスがあさり、生ゴミをまき散らしていったのだった。
ジュンちゃんと私は仕方なく朝から店の前を大掃除。
生ゴミというのは、オフィスで出るゴミよりも臭くて汚い。他人が出したこのゴミを片付けるのは嫌な仕事である。
「これはゴミの出し方が悪いのだから、ゴミを出した本人が片付けるべき。何で私たちが掃除しなければいけないの! 」
と怒るジュンちゃんと私。
するとその気配に気づいたのか、微笑み社長が急いで事務所から飛び出してきた。
「どうしたのですか。あら、ひどい。私もやりますから」
そう言って、一緒になってそのゴミを片付けてくれた。
やれやれ。
掃除が終わってからのジュンちゃんと私の会話。
「ほほえみ社長、ああいうところは良い人なんだよね。汚い仕事も率先してやってくれて」
「う~ん。でも、もしかするとあれは社長の自宅から出たゴミかもしれないよ。社長の自宅のゴミ置き場でもあるから」
「いや、断じて社長の家のゴミじゃない」
断言するジュンちゃん。
「なぜ? 」
「だってゴミの中に、生ハムの袋があったもの。あんな高級食材を社長が食べられる訳がない」
「なるほど」
すっかり社長の貧乏に、私たちが慣れてきていた。




