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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
11/54

11.薬剤師会事件

一つ一つの小さな薬局だけではうまくいかないことでも、皆で集まって情報交換などをして助け合いましょう。

という目的の薬剤師会。


しかし中には助け合いどころか、新規の薬局の参入を阻止しようとする悪徳薬局があるということも実情。

『新しい薬局ができると患者さんがそちらに行ってしまい、自分の店の経営が圧迫される。これを何とか阻止しないと』

と考えている。


夢野薬局を開くにあたって、地域の薬剤師会に入れてもらえるように申し込みをした。聞くところによると、この入会について薬剤師会の中でかなり議論があったらしい。

「そんな新参者は薬剤師会に入れられない! やりたかったら自分だけで勝手にやればいい」

と断固反対したのが駅前薬局の社長。患者さんから聞いた話によると、この社長は

「夢野薬局はどこですか」

と聞かれた時

「そんな薬局は知りません」

と平気で答えていたくらいの悪徳社長。それを会議の時、公園前薬局の社長が穏やかに

「まあまあ、お互い仲良くやりましょう」

となだめてくれたらしい。

そんな公園前薬局の社長さんのおかげで無事に薬剤師会加入の許可が降りた。


ああ良かった。これで法改正などの情報はきちんと把握することができる。

そして何より助かるのは、薬剤師会から薬の小分けをしてもらえること。つまり薬が十錠必要になったとする。これを普通に問屋から注文すると千錠の包装しかない場合がある。その時は十錠使って、残りの九百九十錠は使われないまま捨てなければならなくなる。その無駄を防ぐため、薬剤師会がまとめて買って会員の薬局に必要な数だけ小分け販売している。


という経緯で開局して数日後、さっそく薬剤師会を利用することにした。

「すみません。○○薬を二十錠小分けしてください」

と薬剤師会に電話をすると、相手は

「はい、分かりました。あ……夢野薬局さん…」

しばらく沈黙の後

「あのぉ……。夢野薬局さんにはお売りできないのですが」

なんだって! ちゃんと入会の許可は降りたはず。この上どんな卑怯な手段を使って駅前薬局の社長は私たちの邪魔をするのか!

ジュンちゃんと私はすでに戦闘態勢に。

「なぜですか。それはおかしいんじゃないですか」

と電話口に詰め寄ると、相手はやっと言いにくそうに答えた。

「あのぉ。夢野薬局さんは、まだ薬剤師会の入会金を払っていないのです」

えええ!

つい数日前、ほほえみ社長も交えて三人で薬剤師会に入会できたことを喜びあっていたのに。


さっそく社長に報告。

「社長、薬剤師会の入会金の支払いがまだということです。入会できないといろいろと業務に支障があるので、早く支払ってください」

息せききって言うと、社長はいつもの満面の笑顔で

「ああ、そうでした。最近いろいろ忙しくて、つい忘れていました。今週は忙しいので来週になったらすぐに振り込みますから」

子供のような笑顔である。


その後再三の社長へのお願いにもかかわらず、薬剤師会の入会金は最後まで支払われることはなかった。そのため私たちは、十錠だけ必要な薬でも千錠を問屋から買うという、さらなる悪循環に落ち込んでいった。


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