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呪いのアフトクラトル  作者: 御島 修
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第四話 本邸での一幕


深い山奥の鬱蒼としげる竹林を抜けると、二メートルほどの塀が見えてきた。

真ん中には大きな木製の門があり、その門には海と地面に光が差し込むような形をした金色の家紋が彫られている。


「この重圧マジでヤバいな。ねぇ母さん今からでも遅くないよ。帰ろう!」


助手席に乗っている飛沫は笑顔で母に言い放った。


「あんた本当にバカね。これだけの国の重鎮の本邸の前の道に監視カメラがないわけないでしょ。最近の監視カメラはねぇ、車の中の人の顔までハッキリわかるの。今帰ったりしたら帰る家ごと葬られるわよ。」


「何それ怖い。」


飛沫は車の中から辺りを見回した。

山の奥とは思えないほど道が綺麗に整備されており、車体の揺れが全く無い。

それが返って飛沫たちに緊張感を与えていた。


「母さん俺この圧たぶん何回来ても慣れないわ。」


「この重圧にも、何回も来てるうちに身体が勝手に慣れてくれるものよ。」


飛沫の母波花は、澄まし顔で言い放った。


「うん、アクセル踏み込みそうなくらい下半身がガタガタ震えてなかったらカッコよかったよ。」


そんなやりとりをしている内に、門の前に着いた。

すると、門が自動で左右に開き内部があらわになった。



―――そこには、自分の目を疑いそうになるほど広い日本庭園と、異様な威圧感を放つ屋敷と言っていいほどの大きさの平屋の日本家屋が飛沫たちを待ち構えるかのようにそびえ立っていた。―――


「「「おかえりなさいませ。」」」


門から屋敷の玄関までの石畳の通路に沿うように黒いスーツのガラの悪いSPがならんでおり、飛沫はその圧倒的なプレッシャーに息を呑んだ。


「やぁやぁ、よくいらっしゃいました。」


そして、その通路を通ってこの家の執事が歩いてくる。

飛沫達は車から降りて応える。


「久しぶりね、金銅。」


「お久しぶりでございます。波花様、飛沫様。旦那様がお部屋でお待ちです。」


執事の金銅初老の男性で、終始無表情だった。


「う、うぅ………。こ、ここに来てお腹の調子が……。」


飛沫は久しぶりに受ける実家のプレッシャーでお腹の調子が悪くなっていた。


「や、やめてよぉ。お義父さまの前で汚物を撒き散らしたりしたら……」


「や、やめて母さん、それフラグだから。」


飛沫達は、最悪の事態を想像しまたかえってお腹の調子を崩していた。






淡々と足を進める屋敷の使用人の後ろを飛沫と波花は歩いていた。


「いや~、やっぱり何度来ても広すぎて道覚えられないわね。」


「本当にいつもすみません。」


飛沫達が実家に来るといつも部屋に通されるのだが、屋敷が想像以上に広く二人ともまったく道を覚えられないため、使用人に案内してもらうのだ。


「いえ、大丈夫です。」


可憐でありながらも、心のこもっていない機械的な返答が返ってくる。

この女性の使用人も見たところ二十代前半のようだが彼女もまた無表情であった。


「着きました、こちらでございます。」


そういって、通されたのはやはりまた異様な雰囲気を放つ畳の部屋だった。

使用人が部屋の襖をトントン、とノックし、


「旦那様、波花様と飛沫様がいらっしゃいました。」


と、伝えると中から返ってきたのは「通せ。」という、低く重みのある声だった。


使用人が襖を開け飛沫達は部屋の中へ入る。


「久しいな、二人とも。」


中には厳格そうな顔立ちの白髪の老人がいた。老人と言っても、ヨボヨボというわけでは無い体つきは屈強であり、長年鍛えていたことが伺える。

彼こそ飛沫の祖父にして現皇家当主である、皇匡延その人である。


「お久しぶりです。お義父さま。」


「お久しぶりです。お爺様。」


「座りなさい。」


挨拶を交わすと匡延の座っている向かい側の座布団に座るように指示される。

飛沫達は、指示通りに座布団に正座する。


「「……」」


三人の間に一時の沈黙が流れる。

その沈黙を居心地の悪さに波花が、


「ほ、本日はお日柄も良く……」


「今日は曇りじゃ。」


波花の発言は一瞬でなきものにされた。


「「……」」


そしてまた沈黙、先程のやり取りでまた気まずくなっいた。

また、波花に関しては元々匡延が得意ではない。そのため波花はできるだけ早くこの空間から抜けたいとおもっている。


「「……」」


どれだけ沈黙が続いだろう。流石に耐えかねた波花が、


「あ、あの、今日はどのようなご要件で……」


「お主ははずせ。」


「え?……」


匡延からの予想外の言葉に波花は驚いていた。


「今日は、飛沫のほうに用がある。故にお主は邪魔だ。」


「……はい。」


そういって波花は立ち上がり部屋から出た。


「お、お爺様。」


今まで緊張で喋られなかった飛沫が声を放つ。


「何じゃ?」


「自分に用って……」


正直なところ、飛沫には何も心当たりがない。そのため自分に用があると匡延が言った時に少しワクワクした気持ちになっていた。


「今日お主を呼んだ理由はこれを渡すためじゃ。」


匡延は、自らの横に置いてあったペンダントを手に取った。


「このペンダントは、大切なものじゃ。肌身離さず持っておきなさい。きっと役に立つ時が来る。」


「あ、ありがとうございます。」


匡延から渡されたペンダントを飛沫が手に取った瞬間に身体にビリビリと何かが伝わった気がした。


「そのペンダントは絶対に開けてはいけない。わかったか?」


「え、は、はい。」


「でも、どうしてこれを自分に?大切なものなのでしょう。」


飛沫は純粋に気になった。どうして自分なのか、他にも匡延の孫はたくさんいる。優秀な人だって何人も、


「わからん。そのペンダントがお主を選んだ気がしたんじゃよ。」


「そう、ですか。」


飛沫は、匡延との会話が終わった後ペンダントを眺めていた。


帰りの車の中波花は飛沫に何の話だったか尋ねたが、適当にはぐらかされた。

飛沫なんとなくあまり人に言わない方がいいと思ったのだ。






家にかえってきたらもう一時を回っており波花はそそくさと寝てしまったため、飛沫はなんとなく近所の公園で夜空の星を眺めていた。


「何だったんだろう……」


そうは思いながらも、祖父からの初めてのプレゼントのようなものなので嬉しさもあった。


「でも、何かたまにはこういうのも良いかもな。」


パターン化する日常の中でこういうイベントは必要なのかもしれない。

そんな考えに浸りながら、帰り道を歩いていた。



ドンッ!!


「いたっ。」


いきなり、肩に衝撃が走る。咄嗟にぶつかったであろう人のほうを向くが誰もいなかった。


「ん?今確かに肩がぶつかったんだけどな……」


飛沫の目には、小柄な飛沫と同じくらいの背の男の姿は映っていなかった。






読んでいただきありがとうございます。久しぶりの投稿ですみません。

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