第三話 本邸への呼び出し
朝、照りつける日差しと夏特有の生ぬるい風を肌に受け、暑そうにしながらもいつものように通学路を歩く五人。
「ヤバい、ヤバい。どうしようもう俺終わった。」
神社での、飛沫と老人の邂逅からはや一週間。
ついにその日はやってきた。
「一夜漬けでいけると思った俺が馬鹿だった。」
気温が三十度を越えているにもかかわらず、柊木隆斗は顔を病人の様に青くそめていた。
「あんた本当に一夜漬けでテスト受ける気だたったの?」
そう、今日は一学期最後の砦期末テストなのだ。
「いやー、ははは、先に寝ておこうとした俺が馬鹿だったよ。」
一夜漬けのために先に寝ておき深夜から始めようとしたがそのまま朝まで寝てしまう。
まさしく馬鹿の所業である。
「あんたホントに高校行けないわよ。」
真面目な光莉は、高校まで幼馴染みんな一緒に行きたいと思っている。
そのため、この一週間たびたび隆斗を急かしていた。
「ま、まぁ、二年の一学期末なんて誰も勉強してねぇってぇ。なぁ飛沫。」
「みんな勉強してるんじゃない?少なくとも優香はすごく頑張ってるよね。」
川市優花はアホの子ではあるが、性格が極端でやるなら徹底的にやらないなら絶対にやらないため、一度スイッチが入ればとことんやるのだ。
今回は、光莉に急かされスイッチを入れたかたちだ。
優花も最後までねばっていたが、どうやら『夏限定!超巨大高級チョコレートパフェ』の誘惑には勝てなかったようだ。
「光莉、全教科40点超えたら……わかってるよねぇ?」
優花がギラギラとした目付きでよだれを垂らしながら光莉に聞いてくる。
「わかってるわよ。ほらさっさと解きなさいよ。」
優花のこれまでの平均点はなんと驚愕の16点、全教科40点というのは夢のまた夢だ。
そのため光莉も安心しきっている。
しかし、光莉はまだ知らない。思いつきで釣った『夏限定!超巨大高級チョコレートパフェ』が4280円だということを。
「そーゆう飛沫は勉強してんのかよ。」
「僕?してないよ。あ、でも佳奈子と一緒に勉強会はしたけどね。」
一瞬、隆斗が顔をしかめたような気がしたが飛沫は気にしない。
飛沫は、いろんなことに平均を上回る才能を持っている。勉強もまた然りだ。
そのため、飛沫は高得点を狙わないかぎりはあまり勉強はしないのだ。
「ま、そーだよな。佳奈子はバカ頭良いし、ん?てことはヤバいの俺だけじゃね?」
早坂佳奈子は、毎回テストで学年一位をとるほど頭が良く、性格も極めて優しいため学年でも人気の美少女だ。
「いや、優花が勉強してる時点で気づけよ。」
「ていうか、隆斗くんそんなことしてる暇があるんなら英単語の一つでも覚えたほうがいいんじゃない?」
「お、おう。」
「佳奈子って意外と辛辣だよな。」
〇
カチャカチャ カチャカチャ
とあるビルの地下の一室で二十人ほどのスーツを着た男女が大型のPCに情報を入力していく。
ここは、国家でも最高レベルの機密を扱う場所である。
国の中の選ばれたエリートのみが入ることの許される機関、その一人に皇飛沫の母、皇波花はいる。
一児の母とは思えないほどの美貌に、誰にでも下手に出ることができ人に好かれやすく義理堅い性格が買われこの機関に入ることを許された。
「はぁー、もう!なんなのよ!この量!」
しかしこの機関は、人数が少ないため一人に割り当てられる仕事の量がとてつもなく多く四六時中働くことを求められる。
そのため波花は、ほとんど家に帰ることができなかった。
つい先日、飛沫の誕生日を祝おうと休みを取ったものの日頃の疲れで誕生日を祝うことがてきなかった。
波花は、そのことを後悔していた。
「あ、あの~皇先輩。」
「なに?」
「お電話です。」
「え?、私に?」
「はい。」
この機関では、国の重鎮などから問い合わせがくることがあってもオペレーターが対応するため、個人への問い合わせはほぼない。
「誰からかしら?」
「それが、その、」
「誰なの?」
「その~、皇匡延様です。」
「なっ!」
「なんで、あの人が。」
皇家、代々昔から続く名家である。
昔から天皇につかえ、多くの功績を残してきた皇家は今でも国に対しても大きな権力をもっている。
皇家の歴史は深く、一説では古代人の生き残りなどとも囁かれている。
そしてこの皇匡延は皇家の現当主であり、飛沫の祖父にあたる人物である。
しかし、飛沫の父は匡延の側室の子のため飛沫は
皇家の正統血統ではない。
「もしもし、お電話代わりました。」
波花は、受話器をとった途端に声色が変わった。
一瞬の切り替え、これこそが波花をここまで上り詰めさせた一つの要因だろう。
「えっ!明日、ですか?」
「り、了解致しました。」
〇
テストを終えた飛沫たち五人は、帰りの道を歩いていた。
「ふんふふんふふ~ん。」
優香はテストの出来栄えを表すようにスキップをしながら鼻歌を歌っていた。
「優花、機嫌いいわね。」
それを見た光莉はだんだんと不安になっていく。
「優花ちゃん、すごい良かったんだって!勉強してたところがたくさん出たみたいだね。」
自分が勉強を教えただけあって佳奈子も嬉しそうだ。
「隆斗、おまえは……」
「…………orz」
すべてをしぼりとられ魂が抜けたような表情をした隆斗を見ると、飛沫は何があったかだいたい理解できた。
恐らく、全教科二問ずつ程度しかわからなかったのだろう。
「飛沫くんは、今日のテストどうだった。」
「うーん、どうっていっても普通だったよ?」
「あはは、その感想もいつも通りだね。」
そうこうしながら、五人は下校しているとすぐに分かれ道に差し掛かった。
「じゃあな。」
「さようなら。」
「ま…た…な。」
「ばいば~い。」
「ま、またね。」
飛沫は四人と別れ、家への道を進んだ。
〇
「ただいま。」
飛沫はいつものように玄関を開き返事のない挨拶をする。
「おかえり。」
……ん?
「母さん?」
幻覚か?と飛沫は思った。それもそうだろう、母は大切な日にしか帰ってこないうえについ一週間前に帰ってきているのだから。
「なにボヤーとしてるの。早く準備しなさい。」
「準備?なんの?」
「明日から皇本邸まで行くのよ!ほら、準備しなさい早く。」
「…………え?」
飛沫は皇本邸へは二度しか行ったことがない。
そのうえ、皇本邸へ行くということは祖父に会いに行くということなのだ。
祖父皇匡延の孫は大勢いるため、祖父に自分の名前を覚えてもらっているかすら怪しい。
となると、自分が呼ばれたわけではないことに飛沫は気づく。
そうなると……
「じぃちゃん……死んだの?」
「は?何言ってんのあんた。」
「だって親戚みんなで集まるんだろ?そうなると……」
「はぁ?何言ってんの?あんたが呼ばれてんのよ。」
「え?」
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