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呪いのアフトクラトル  作者: 御島 修
3/5

第二話 謎の老人


朝、鳴り響くアラームの音で飛沫は目を覚ましベッドから起き上がった。

アラームを止め、体を伸ばしながら時間を確認する。時計は、六時を指していた。

ゆっくりとした足取りで洗面所へ向かい、顔を洗った。母はもう既に仕事に行っておりおそらく次の休みまで帰ってこないだろう。いや、むしろ本当に大事な日以外帰ってこないかもしれない。

顔を洗ったあと飛沫は動きやすい格好に着替え、日課であるジョギングをするために玄関から外へ出た。

早朝の涼し気な空気を大きく吸い飛沫は走り出した。


「今日は、山のほうにいってみるか。」


朝のジョギングのコースはその日の気分次第である。

今日は、気晴らしに山のほうに行くことになった。

飛沫の住んでいる家は都会と田舎の狭間のようなとこにある。

そのため、山や森はそれなりに近い場所にある。

飛沫は、靴の紐をもう一度きつく縛ったあと走り出した。

家の近くにある川に沿った道を上流へ向かうようにはしった。


「飛沫くん、今日も早いねー。」


「おはようございます!」


途中、すれ違う方々ともすっかり知り合いになり挨拶を交わしながら山のほうにむかっていった。






それなりの距離を走った飛沫はすでに、山のふもとまで来ていた。

辺りは自然が豊かでとても都会から二十分走ったところにあるとは思えないような景色が広がっていた。

というのも、五十年程前の『大侵攻』により、多くの国々が『海底人』に対抗するための兵器や人材に予算を費やしたため、人口が集中する都会の開発ばかりが進み、自然が豊富な所謂 田舎と呼ばれるような地域の開発は全くと言っていいほど進んでいなかった。


「はぁー。ふぅー。」


飛沫は一度立ち止まり深呼吸をしたあとに頂上へと向かう坂道を走り出した。

山と言っても、走って登るのが丁度いい程度の小さな山なので時間はかからない。

徐々に急になってゆく坂を駆け上がってゆく。

山の上の方にある小さな滝までつくと、目の前には石で作られた長い階段がありその階段を飛沫は速度を落としながら登った。


「はぁーーー、疲れたーー。」


長い階段を上りきり山の頂上についた。

そこには、山の神が祀られた小さな神社があり飛沫も初詣などでよくここに来る。


「ん? 誰だ?」


神社の奥にある木々がひらけた広場のような場所に人影が見えた。

飛沫はその人影に近ずいて行った。

人影の正体はどうやら老人のようだった。

こちらには背を向けており顔は見えないが、腰をまげ杖をついており、今どき珍しいシルクハットに紳士服をというダンディーな格好をしていた。


「あの、おはようございます?」


「貴様、何者じゃ?」


とりあえず挨拶をしようと話しかけた途端に雰囲気が変わった。

辺りが水を打ったように静まり返り、風で揺れる木の音さえも止まっていた。

まさに突き刺すような眼光、冷や汗をかくほどの威圧感。飛沫は一瞬生きた心地がしなかった。

気道が締め付けられ息苦しく、まわりの空気さえもが痛々しい。


「うッ、」


「おっと、すまぬ。少年じゃったか、ついカッとなってしまった。」


「あっ、はぁはぁはぁ。」


その後、数分で息切れが治った。


「えっと、なにをされてたんですか?」


「なにってほどでもないが、最近『海人教』が暴れ回っておるのはお主も知っておるじゃろう?」


「それは、まぁはい。」


『海人教』それは、近年急激に増えている『海底人』を信仰する宗教団体のことである。

また『海人教』の思想は過激であり、意に反するものは殺すという考え方のため多くの人々が巻き込まれ今や社会問題となっており、連日ニュースで報道されているのだ。


「あやつらは、恐らく『呪い』を狙ってくるじゃろうと思ってな。」


「呪い?どうしてですか?」


『呪い』は、大侵攻で地上に放たれてからというもの、土地を腐らせ人々をおおいに苦しませていたが、人類はこの『呪い』を体内に取り込み海底人に対抗した。

呪いを体内に取り込むと身体スペックが上がり『呪装』と呼ばれる呪いを具現化した武器が使えるようになり、『呪装』に宿っている『呪能』も使えるようになる。

しかし、これだけの恩恵を受けられるのはごく一部の人間のみであり、多くの人間は呪いを取り込もうとすると、心体両方が拒絶反応をおこし廃人とかしてしまう。


「お主も知っておるように呪いは取り込むことで力にすることが出来る。そして、海人教は海底人とつながっておるとわしはにらんでおる。」


飛沫は驚いた。海人教と海底人がつながっているかもしれないということよりも老人が放った言葉に驚いたのだ。

海底人が知能を持っているかすらさだかではないのにそこまで推察しているのだ。


「えっ!?」


「海底人は海人教に力と恐怖で人類を内側から滅ぼそうとしているかもしれぬとおもってな。」


「た、確かにそれもあるかもしれませんね。」


確かに同族を多く殺されている人間が海底人を信仰しようなんて思うはずがない。

ましてや、そんな人間が急激に増えるなんてありえない。

その点老人の推察は、理にかなっていた。


「いや、あくまでわしの推察にすぎんよ。」


「で、でもどうしてこの神社に?」


飛沫は疑問に思った。ここまで推察している老人が何故この場所を守ろうとするのか。


「この神社はな、呪われておるんじゃよ。」


「呪われて……いる?」


そんなことは無いはずだと飛沫は思った。

なぜなら、呪われた地域は人類の力となるため国が厳重に管理している。

その上、呪われた地域は九州で先日見つかったもので最後だったはずだ。


「ここはな、大侵攻以前から呪われていたんじゃ。」


「なっ!?」


「ここは、ヒセンという、昔の英雄が祀られた神社なんじゃよ。英雄ヒセンは、村の土地を腐らせた謎の力をその身をもってこの場所に封じ込めたんじゃよ。」


「その謎の力が、、」


「そう、呪いじゃよ。そしてここの呪いはいま地上にあるどこの呪いよりも濃度が高いんじゃ。」


呪いの濃度。それは高ければ高いほど呪いを体に取り込むリスクが高く得られる恩恵も大きい。


「ということは、ここが最もねらわれやすい。」


「そうじゃな。」


「だからあなたはこの場所を……」


飛沫もこの老人の行動にやっと納得がいった。

しかし、


「で、でも、国に任せた方が。」


「国は力を求めすぎる。国がこの場所のことを知ってしまえば多くの犠牲者を出すことになる。」


話を聞き飛沫は黙り込んでしまった。

少しの沈黙があり飛沫が口を開いた。


「どうして、この話を僕に?」


これ程重大な話をなぜ一学生でしかない自分にはなしたのかそれが最後の疑問だった。


「そうじゃな。わしの知り合いの昔の姿とお主がかさなってな。」


「そうですか。」






飛沫は、謎の老人と別れ、色々なことを考えながら家に帰ってきた。

時計の針は、八時十分を指しており大急ぎで制服に着替え家を出て学校へと向かった。

通学路で幼馴染四人の後ろ姿が見えた。

追いつくように小走りで通学路を歩んだ。


「~~~だよね。」


「~~~じゃね?」


「おはよー!みんな。」


「チッ」


「おはよう。飛沫」


「おっす。飛沫」


「お、おはよう。飛沫くん」


「おはよー。飛沫」


「あれ?誰か舌打「てかさーまじ試験勉強めんどくさいよな。」


「気のせい……かな?」


幼馴染五人で談笑しながら学校へと向かった。

今日もまた、当たり前の日常が過ぎてゆく。

崩れ去る日が近いことも知らずに。






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