第一話 皇帝の日常
『│海底人』
体全体が鱗に覆われ、下半身にはヒレのようなものもあるが、基本的な体のつくりは人間に酷似している。
「人魚」 「魚人」 「セイレーン」
古来よりこの生物の存在が描かれている伝説は、多く存在しており、この生物を指す言葉は他にもある。
しかし、『海底人』と呼ばれるようになったのには理由がある。
『海底人』の特徴、それは人間に対する強い敵対心、人類の平均を大きく上回る身体スペックそして、一部の『海底人』が使う謎の能力の三つに分けられる。
この特徴は、いずれも人類の脅威となる。
それを調べあげたとき人類は恐怖した。
海底人というのは、人類が畏怖の対象としたために付けられた名だった。
ことはすぐに起きた。『海底人』が大きな集団となって、大陸へと攻め入ってきたのだ。
これまで『海底人』が単独で人を襲うことがあっても、集団でおそうことはほぼなかった。
故に人類は油断していた。
力や能力に恐怖するなかで、種族間のコミュニティがつくれないならば人類の数の暴力にはかなわないと高を括っていたのだ。
そこからは早かった。海底人の大集団が、南アメリカ大陸に攻めこみ人類と戦争になった。
しかし人類は海底人の身体スペックや謎の能力に圧倒され、敗戦した。
それと時同じくして海底人の巣窟、海底神殿から謎の力『呪い』が、世界各地へと放たれた。
この『呪い』という力を受けた地では、人々が次々と廃人となり水は枯れ土は腐り果ててしまった。
この件に人類は為す術もなく、五億人以上の被害を出した。
この出来事は後に『大侵攻』と呼ばれるようになる。
〇
西暦2073年 日本
目が痛くなるような強い夏の日差しの中、綺麗に舗装された道を歩く五人の少年少女がいた。
「あぢぃーよぉー。なんで、季節なんてあるんだよぉ~。」
「そりゃ、地球が公転面に対して地軸を傾けて太陽の周りを公転しているからでしょ。」
「い、いや。そんなマジな回答してくんのかよ。」
くだらない独り言に本気の回答をされた少し背の高いチャラついた少年は、柊木隆斗。
「っていうか、隆斗もうすぐ定期テストでしょ。対策してんの?」
「おいおい光莉さんや、俺を騙すならもちっとマシな嘘をつかないとぉ~。」
隆斗と話しているセミロングの髪の少女は、高瀬光莉。
「はぁ?何言ってんの。優花なんて、さっきからずっと勉強してるじゃない。」
「え?」
「これは、こうしてこうしてっと。」
「お、おいまじかよ。あのアホの子の優花
が!?」
アホの子といわれてしまったイマドキな雰囲気が漂う少女は、川市優花。
「そういや、佳奈子は?」
「はぁー、飛沫んとこよ。」
隆斗と光莉は後ろを振り向いた。
「て、定期テストも近いし私の家で勉強会しよっ!」
「そうだね。僕も今回頑張りたいし。」
少しオドオドしつつも頬を赤らめながら勉強会を提案する黒髪ロングの美少女は、早坂佳奈子。
「飛沫~この漢字わかんな~い。」
「んー、どれどれ…って川じゃねーか!」
アホの子に、ツッコミをいれた。この少年こそ、この物語の主人公の 皇 飛沫である。
飛沫は、この五人の幼馴染のリーダー的存在である。
小柄で華奢ではあるが顔立ちは整っているほうだ。
多くのことに平均を上回る才能を持っているがどれも、一流とまではいかない。
よく言えば「多才」 悪くいえば「器用貧乏」そんな少年だった。
彼はいつものように幼馴染達とくだらない会話をし、家に帰って寝てまた学校へ行きみんなでくだらない会話をする。
そんな、毎日が楽しかった。
「そういや、飛沫今日母親かえってくるんだろ?」
「あ、そうだったそうだった。じゃあさき帰るわ」
「おう、またな。」
「ばいば~い。」
「さようなら。」
「ま、また今度。」
「ああ、またな。」
四人と別れ飛沫は家の方向へ歩き出した。
飛沫にとって幼馴染との日常は唯一無二のものとなっていた。
〇
飛沫は少し早足で家路を歩いていた。飛沫の母親は、国のそれなりの仕事に就いているため家に帰ってくることは滅多にない。
そのため母親が帰ってくるということは、十四歳の少年にとってはビッグイベントだったのだ。
ちなみに皇家は母子家庭で父親は飛沫が生まれてすぐになくなったらしい。
それに父親にはあまりいい噂がなかった。
「だだいま~。」
「はぁ~疲れた~。あ、おかえり。飛沫。」
「う、うん。ただいま。」
飛沫の母親、皇 波花である。髪を後ろでまとめ、子を産んでいるとは思えないような美貌を打ち消すほどにやつれていた。
「お母さん疲れてるからもう寝るわ。明日も早いし。」
「え、でも今日は僕のたんj」
「ご飯はテーブルにあるから温めて食べなさい。」
「じゃあ、おやすみ。」
波花はそそくさと寝室へといってしまった。
「ッッ」
そう、今日七月五日は飛沫の誕生日なのだ。
泣きそうになりながら飛沫は用意してあったご飯を温めた。
その日の夕食は、レンジで温めたにも関わらず冷たくかんじた。
そして、この味を日常の一部として捉えている自分に少し怒りを抱いた。
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