私は居なくても?
こんにちは。始めての短編を書きました。
お楽しみいただけると幸いです。
田舎の小さな国の小さな美しい城の一室。
お姉さまは結婚式の時の真っ白なレースやフリルがたっぷりで裾が長いドレスを試着している。春の日差しのような金髪と新緑のような瞳に凄く似合っていて、とっても綺麗。流石は私のお姉さま。
お姉さまの美貌は田舎の辺境国から、誰でもその国の名前を知っている大国にまでと説いていると聞いた。
そんなお姉さまが田舎の辺境国から大陸の中でも有数な大国に嫁がれるのも納得する。お姉さまは複雑に編み込まれた美しいレースをふんだんに使った薄桃色のドレスを着ている。
お姉さまは普段から華美なドレスを軽々と着こなしているので、凄い。
新雪のように白い白銀の髪と忌み嫌われる血のような赤眼と言う不思議な色を持っていても平凡な容姿しか持たない私は絶対着こなせない。
なので、私は王女でありながら、国の名産である複雑で美しいレース編みが施されたドレスは1つも持っていない。
「マリア。」
「はい、お父さま。」
「お前もリリアと共に嫁げ!」
「えええーーー!?!?」
私は叫んで失神した。私は王女なので、先生に習い、体に染み付いた動きで優雅に倒れた。
私、マリアはロネギウス大陸、アスナル王国第2王女です。
お姉さま、つまり第1王女リリアは、大陸1の領土を誇る大国カルドリア王国の君主であるロイド国王陛下に1週間後、嫁ぐことになっている。
お姉さまは世界を練り歩く吟遊詩人によって、大陸1の美姫と歌われている。
そんな美しいお姉さまを姉に持てた私はとても幸運だと思うけど、お姉さまが亡くなった時のスペアとしては私は相応しくないほど、平凡。
ロネギウス大陸では、国王は必ず同じ血筋、同じ遺伝子を持った女性を2人以上貰わなければならない。私はお姉さまと同じ遺伝子を持った女性としてとして、カルドリア王国に嫁ぐ事になった。
ただし、お姉さま付きの侍女として。
第2王妃以降は第1王妃付き侍女として、城に入場する。王妃なので王と結婚していることになっているが、国王には存在すら認識されることはない為、第1王妃の侍女として仕える。
なので、第2王妃以降は一生を乙女のままで正妃の侍女として生きることが多い。
つまり、私の一生はもうすでに決まっており、お姉さまの侍女として生きていくことになる。寂しい。
私は元々王妃ではなく、公爵家に嫁ぎ、公爵夫人としてある程度自由にのんびりと生きれる筈だったのに。なんで。
ユアンさま。会いたい。私の大切なユアンさま。
私は侍女として、使用人用の馬車に乗り込んだ。お姉さまとはもちろん別の馬車。お姉さまは後方の豪奢な馬車で騎士たちに守られながら、自由気ままな馬車旅を送っているだろう。
強制されたのではなくて、自主的に使用人用の馬車に乗った。使用人の馬車と言っても平民達が乗る乗合馬車よりも質はかなり良い。服もそれに習うように使用人が着ている白と黒のドレスを着た。
ー1週間後。ー
真っ白な大きな城の中の国王陛下と会う王の間に真っ白な純白のウエディングドレスに身を包み、髪を複雑に編み込んだお姉さまと、そのお姉さまの2歩後ろに下がっているクリーム色の侍女服を着て、髪を邪魔にならないよう適当に結った私は、ロイド国王陛下に頭を下げていた。
「あぁ、美しい。マリア姫。」
「へ?」
「えっと、ロイド陛下?」
「ロイド様!?」
王の間にいた人のほとんどが目を丸くして、素っ頓狂な声をあげ、驚いていた。
私とお姉さまの顔と名前を知っているカルドリア王国の宰相閣下も。
いや驚かない方がおかしい。
だって、マリアは私の名前。正妃陛下の座はお姉さまのもの。
なのに、なぜ?第2王妃でしかないただの侍女になる予定の私がなぜ?お姉さまの代理でしかない私をなぜ?というかお姉さまの代理にもなれない私をなぜ?お姉さまと私を比べたら、宝石と砂でしかない私をなぜ?どうして!?
「あぁ美しい。君こそが私の妻にふさわしい。さぁこちらへ。」
えっと?この人あっ、いけない。ロイド国王陛下は私にご執心らしいけど、私の顔は知らないらしい。
だって、私の名前を言い甘く口説きながら、お姉さまをエスコートしているから。
そんな一番の被害者であるお姉さまは驚きで体を固くし、固まっている。宰相閣下も固まったままである。
「あの、ロイド国王陛下。」
「なんだ侍女の分際で声を挟むとは甚だしぞ。」
「申し訳ありません。陛下の仰っておられますマリアとはわたくしの事でございます。その方はわたくしの姉であり、貴方様の妻リリアにございます。」
ロイド国王陛下は目を点にして、驚いた。宰相閣下はほっとしていた。いや宰相閣下だけではない。お姉さまの騎士もロイド国王陛下の騎士もほっとしていた。
私は別に美しくはない。新雪のような白銀の髪と赤い瞳という希少なものを持っているのだが、造形があまり良くなかった。鼻は潰れているし、瞳も糸目。バランスもなんだかとっても悪い。
それに比べお姉さまは、春の日差しのような金髪と新緑のような碧眼を持っている。この色は普通は下位貴族にしかないと言われる色なのだが、私たちのお父さまが持っているので、国の者には驚かれはしなかった。
それらをただの飾りにしてしまうほど、お姉さまの顔の造形は美しかった。
「マリア姫が貴女だと?それに私の妻が第1王女リリア姫だと?ふっ、笑わせるな。私が欲しているのは、希少な色の瞳と髪を持った女だ。」
あぁ、この人もそうなのねと思ったわ。
だって、私を妻にしたいと求婚してきた人のほとんどというか元婚約者以外はそうだったもの。この人も。大国の国王なのに残念すぎる。
「マリアを愚弄するのは許しません。」
「お姉さまっ!」
「ほぅ。」
お姉さまの美しい鈴のような声が私を庇った。お姉さまの声は天上の歌声とも言われている。お姉さまみたいに完璧で素晴らしい人はいない。
私はお姉さまが大好きなシスコンである。お姉さまも私を愛してくれていて、私の結婚相手を真剣に探してくれていた。ユアンさまはそんなお姉さまの熱意を軽々と超えれた唯一の男性。お姉さまもなんだかんだ文句は言っているけど、ユアンさまのことをきちんと認めているし、気に入っているのだと思う。
お姉さまは美しいと言われ続け、美辞麗句に対して飽きているが、容姿を理由に欲する人が多いのもまた事実。私は希少な瞳と髪を持った女を欲しいからと言う理由で求婚され続けて来た。
なので、私達は傷の舐め合いのようにお互いを大切に愛してしまった。
勿論、姉妹としての愛情。それを私は気味が悪いと思わないし、お姉さまもそういった素振りは一切しない。
ちなみに、私がお姉さまに綺麗や美しいと美辞麗句を言ってもただ嬉しいだけと前に聞いたので、一杯お姉さまに言ってるの。
私は恍惚とした笑みを浮かべた。お姉さまが私を庇って下さった。あの美しく麗しいお姉さまが。あぁ美しい。かっこいい!
「その笑み。気に入った。マリアよ、私に見せろ!」
「ロイド国王陛下に見せる程の笑みではありません。高貴過ぎではない方だけが見ることの出来る笑みございます。」
私ははっと正気に戻り、浮かべていた恍惚とした笑み治めて、王女としての作った綺麗な笑みを浮かべた。
ロイド国王陛下に言ったことは全て嘘。
恍惚とした笑みは他人に向けた事は一切ない。ただ、私が無意識に浮かべているので、ユアンさまはお姉さまに対して、浮かべた恍惚とした笑みは何度も見ている。大好きなユアンさまの事で恍惚とした笑みを浮かべた事は何度もあるけど、ユアンさまに対して浮かべたものを見せたことはないと思いたい。
「マリア姫!」
「ユアンさまっ!」
「なぜこちらに?」
私の元婚約者であり、私とお姉さまの幼馴染みであるユアンさまがいきなり現れて驚いた。ユアンさまは唯一、私の髪と瞳だけ欲しがらず、お姉さまにも見向きをしなかった方。
ユアンさまは見目麗しく、アスナル王国の淑女たちから絶大な人気を誇っている。落ち着きのある金髪と海よりも暗い色の瞳を持っている。
「ほう、なぜここへ来られた?」
「改めまして、私はユアン・フィル・アインツベルンです。私はカルドリア王国の王位継承順位3位です。」
「なんと。お前は我が愚弟アストムの息子か。はっはは、なんと。しかし、お前はただの王子。私を愚弄したことは、万死に値する。」
ユアンさま。
お義父さまは大国であるカルドリア王国が息苦しくて、外交と称して逃げだした先であったアスナル王国アインツベルン公爵家長女マーガレットお義母さまに出会って、付き合って兄であったロイド国王陛下に反対されたから、大国の王子の座を捨て、婿入りしたのにカルドリア王国側から見つかってユアンさまは、カルドリア王国の皇子という座を手に入れてしまった。
その地位を捨てたくて、抗っていたのに。ロイド国王陛下の前でその身分を言ったら、元に戻れなくなってしまうのに。
ロイド国王陛下、お義父さまを愚弟って言った?もしかしてもしかしなくても私のお父様より年上!?嫌ーーー!絶対嫌!
「ユアン、ロイド国王陛下ってお父より年上なの?」
「なんだ知らなかったのか?リリア姫。マリア姫は?」
「勿論、知りませんわ。」
お姉さま、私の謎を明確にしてくれてありがとう。流石、お姉さま。あまり嫌そうな顔してないですね。流石私の大好きなユアンさま。
私の予測通りなのね。こんなに年上の人の妻は嫌だなぁ。大国の国王の妃だとしても絶対に嫌。助けてー。
多分この時。私とお姉さまは絶望した顔をしていたのだろう。ロイド国王陛下は怒った。
「ふざけるな!」
「私にマリア姫とリリア姫をくれたら、王位継承権を今すぐに捨てます。ただし、姫たちをくれなかったら私は全面的に国王になる為、行動します。」
「ひっ!」
ユアンさまは絶妙な殺気をロイド国王陛下へと向けた。
流石、ユアンさま。お見事。
戦が大好きで最前線によく立ったせいで慣れしているのにロイド国王陛下は怖がって、怒って立っていたのに腰が抜けた様にヘナヘナと玉座に座り込んだ。ユアンさまはよく魔物討伐の際に出す殺気をロイド国王陛下に向けたので、怖がったのだと私は信じたい。
戦慣れしているのに殺気に慣れてないとかだったら、大人としてどうなの?と思うし、残念すぎると思ってしまう。
玉座の後ろに控えている宰相閣下になにか囁かれて、ロイド国王陛下は真っ青を通り越して、真っ白になった。なにを囁かれたのかな?味方から攻撃される国王も哀れでしかないと思う。
私が剣技で大陸1になったことかな?それともアスナル王国の軍をユアンさまの一存で動かせることかな?まぁ、どれでもいいや。
アスナル王国の軍は異常に発達している。アスナル王国は魔物による被害が大陸1酷く、軍が全てを対処しなければならないので、軍が強くなるしかなかったのだ。少数精鋭なアスナル王国の軍は大陸の中でも一目置かれている。
王女も自分の身を魔物から守れるようにとかなり護身術を鍛えられている。
私は剣の才能があったらしく、護身術程度では終わらなかった。ユアンさまはそんな私の剣の稽古の時も付き合ってくれたので、ユアンさまも成長していた。
「リリア姫、申し訳ありませんが、貴女を妻に出来ませんので、城までお送りいたします。」
「えぇ、貴方はわたくしがいくらアタックしても靡かないほど、マリアを愛してますものね。貴方なら安心してマリアを任せれるわ。」
もしかして、お姉さま。私が好きになった人がことごとくお姉さまを好きになる現象は、お姉さまが私を守る為に行動してくださったお陰なの?分からない。でも、お姉さまならいいよ。お姉さまのせいでこれまでモテなくても私はお姉さまを嫌いにならない。
だって、こんなに誇らしいもの!こんなに素敵なユアンさまと結婚できるし、美しくてかっこいいお姉さまがそばに居てくれるもの。
「さて帰ろう?マリア姫はどっちがいい?」
「ユアンさまと長く過ごしたアインツベルン公爵家がいいです!」
「分かりました、マリア王女殿下。」
私はドキリとした。多分真っ赤になってると思う。だって、ユアンさまがとっても嬉しそうに笑ってるから。
ユアンさまによって、年の老いた大国カルドリア王国ロイド国王陛下に嫁がなくても良くなった。
だって、ユアンさまが助けてくれたから。
全ては過程がどんなに酷くても結果が良ければ良しってね。
ー1年後ー
私とユアンさまの結婚式はそれもう国中全体で盛大に行われた。
あの後、城に帰るとお父さまに怒られると思っていた私とお姉さまだったけど、逆に謝られてしまった。
理由はお父さまもロイド国王陛下の年は知らなかったらしい。お父さまは私達をかなり溺愛してるから。
ただ甘やかすのではなく、勉強とかに関しては厳しいけど、プライベートになると、デロンデロンに甘くなる。
お父さまは今回の件を反省した。
また、お姉さまがかなり頭のキレる人だと分かってしまったので、お父さまはお姉さまを尚さら他国に嫁がれる訳には行かなくなったので、婿になりに来て貰うこととした。
お父さまがアスナル王国次期国王に頭がキレるお姉さまを選んだからだった。
元々お兄さまたちは国王になることに対し、野心が一切なかったから、お父さまは次期国王を保留としていた。
なので、お兄さまたちはお父さまに対して一切怒らなかったし、お姉さまに対しても嫉妬や恨んだりもしなかった。お兄さまたちは何も言わず、お姉さまの良き臣下となることを自ら決め、王位継承権を返還していた。
私には王位継承権が残っている。私も捨てようと思ったのだけど、お父さまから止められた。お姉さまが突然亡くなって、王位継承権を持つ者が居なかったら、アスナル王国は揉めるから!と言われたせいである。
あと、カルドリア王国国王ロイドが退位し、親戚であった宰相が国王に即位したと聞いた。ロイド国王は最後まで哀れだった。
「ユアンさま、愛してます。」
「僕も愛してるよ。様を付けないでくれよ。」
「えぇ、ユアン。」
私はユアンの暖かな腕の中に戻れた。
でも、前とは全然違う。ロイド国王との結婚話の一件がなかったら、ユアンの腕の中にいることにこんなにもありがたさを感じてなかったし、お姉さまとも仲は良いけど、お互いの事をあまり知らなかったと思う。
そんな事を思いながら、美しく輝く未来へと私はユアンと手を繋いで進んで行く。
近い将来、私とユアンの間にできる子どもたちの愛らしさを見れると夢見ている。
ー4年後ー
「ふえぇ。」
「とっても可愛い!!」
「そうだな。」
「流石私の可愛い妹の子どもね!」
「リリア、体に触るからもう帰ろうか。近いからいつでも来れるだろう?」
ユアンはお義母さまのあとを継ぎ、アインツベルン公爵家当主に3年前に就任した。お義母さまは常日頃から早く引退したいと言っていたので、早めに引退するのは分かっていたから、心の準備がきちんとできていた。
私は次期公爵家家当主夫人から公爵家夫人となった事で元々、よく言われていた早く子どもをと特に言われるようになった。けど、それを言われた時には既に妊娠していた。
2年前に可愛い女の子が生まれた。産まれたのが女の子で、アインツベルン公爵家の人達はちょっとガッカリしていたけど、誰よりもユアンが喜んでいたので気にしなかった。
お義父さまとお義母さまもただ喜んでいたので、安心していた。まぁ、産んで結構直ぐにまた、妊娠したので、今は4人の子どもの母親になった。出産2回目は3人の男女の子どもを産んだので、男児がとか言っていた人達は全員黙らせることが出来た。
お姉さまは2年前に南の隣国アルトマーレ王国第3王子と結婚した。お姉さまが外交に言った時に会って、恋をして、結婚したので、めちゃくちゃラブラブで今は妊娠8ヶ月。もうすぐ赤ちゃんが産まれる。お父さまとの約束でお姉さまの子どもが3人以上産まれたら、王位継承権を私は捨てることとなっている。お姉さまはまだ王位を継げるほど国王の勉強をしていないので、当分先の話。
「お姉さま、無理しないでね。」
「ふふふ、分かってるわ。リュカ兄様が仕事を全てやってくれてるから無理はしてないわ。」「そうなの。ならよかった。でも、無理しないでね!」
「えぇ。」
第1王子のリュカお兄さまはアスナル王国ウィーンザシア侯爵家次女リアリカお義姉さまを妻として、お姉さまの補助をしている。1年したら、リュカお兄さまは大公の座を貰い、お姉さまの執務補佐をしながらのんびりとリアリカお義姉さまと過ごすらしい。今、リアリカお義姉さまは妊娠4ヶ月目。
第2王子リュゼお兄さまは北の隣国アレンリューゼ王国の王女太子リーンリア殿下の婿入りした。3年後にリーンリア殿下は女王になることが決定している。
ちゃらんぽらんで自由を愛していたリュゼお兄さまはガッツリ、リーンリアお義姉さまに尻に敷かれている。
それでも、会う度にリュゼお兄さまは幸せそうに笑っているからなんとも言えない。
「ユアン、今幸せ?」
「勿論。大切なマリアとその子ども達に囲まれてるんだ。マリアは?」
「私もよ。ユアンとこの子達がいるからとっても幸せ。」
END
読んでくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたでしょうか?
楽しんでくださったら嬉しいです。
もし誤字脱字ありましたら教えてくださると助かります。
またお会いしましょう。