引っ越しの朝
引っ越し当日の朝、私は長く暮らした決して広いとは言えない室内を見渡し、それまでの思い出にふける。
暮らし始めた当初は、こんな部屋にしか住めない自分を恨んだものだが、実際に暮らしてみると、これが意外と居心地良く、あまり荷物を持たない私には丁度良い事がわかる。きっと分相応なのだろう。
壁の染みや傷、窓からの景色、今となっては全てがいとおしい。名残惜しいが、今日でこの部屋ともお別れなのだ。
次に暮らす引っ越し先は今よりも広い部屋で、人生初のルームシェアである。同居人の方々とはうまくやっていけるだろうか…。
新しい暮らしへの期待と不安を胸に、今までお世話になった部屋に別れを告げる。
「今までどうもありがとう、さよなら…」
「おい、二十七番!! 何やってるんだ!! 早くしろ!!」
迎えにやって来た刑務官に連れられ、受刑者である男は、一人部屋の独居房から複数人部屋の雑居房へと移動していった。