スローライフを楽しみましょう
世界を破滅へと導く絶対悪、人はそれを魔王と呼んだ。
闇の化身、悪意の根源、不幸の象徴……
数々の畏怖の中で名前を呼ぶことすら禁じられたその存在にファンラシア王国は滅亡間際まで追い込まれ窮地に追いやられた人類は全ての希望を集め、勇者を待つ。
果たして、勇者は現れ、彼の活躍により油断していた魔王軍から首都の安全を奪還。更に勇者率いる軍勢は快進撃を見せ---
とうとう、人間領の半分を取り返したらしい。
「ほぉ、勇者様たちは凄いですねぇ……」
そんな吉報を見て感嘆の息を漏らすのはある海岸沿いに住んでいる青年だった。彼は立派な船を所有しており、今日もその船で軽く漁をして魔力の注入を終えてから家でのんびりしている。
(……まぁ、僕は日本人なので争いなんて嫌いですし、ここには幼馴染で超美人でダイナマイトバディなエリコがいるのでずっとここでスローライフさせてもらいますけどね……近くに勇者様が来て問題事がないか巡回してくれるらしいですが僕の家には関係ありませんし……)
半引き籠り体質の彼はそう言ってペットたちの面倒を看て行く。ゲロゲロ7というネーミングセンスの欠片もないフロッグの面倒を看ているとエリコが来訪してきた。
もし、彼が別の誰かだとすれば幼馴染といちゃつくか趣味に時間を費やすというもげろと言いたくなるような生活を続けているが、世話焼きの幼馴染は今日は何の用だろうか?
「全く、あんたは今日も暇そうにしてるわね……」
「そうかな? これでも忙しいんだけど……」
「少しは勇者様を見習って……」
あぁ、そういう説教ですか……あんまり気に入りませんね……いくら勇者様のファンとはいえ、僕の目の前でそんなに別の男を褒めないでほしいです。
「……聞いてる? あなただって、やればできるでしょう? お父さんを驚かせて私を……な、何でもないわ」
可愛いなぁ……少しだけ頑張りたくなりますが……争いはいやなんですよねぇ……それに、ここから離れると色々と大変ですし……ほら、例えばペットたちが大変なことに……
「いい? その、この村で同年代と言えばあなたしかいないんだから、もっとしゃんとしないと私、別の町に連れて行かれるんだからね? 知らない場所なんて嫌なんだから!」
「頑張るよ……」
「頑張りなさいよ!」
彼女はそう言って出て行った。ふむ。彼女がこの町から出て行くことはあまり考えられませんが……勇者様みたいに頑張れと言っているんだから僕もある程度は頑張りますか。
家にあるレイピアとジャベリンの手入れでもしないといけませんね。
鼻歌交じりにそう思って部屋に帰ると息せき切って僕の友人が駆けて来ました。どうやら慌てている模様です。因みに、彼も日本からの転生者ですよ。彼は旅人だったのですが、同郷の人を見つけたとこの村に住もうとして排他的な村人たちから逃れるようにして近くの町に寝泊まりをしているのです。
「はぁっ、はぁっ……せ、先輩! こっ、この町に……ま、魔王軍が、この町に!」
「少し落ち着いて話をしてくれませんか?」
落ち着くのはともかく、先輩呼びは止めてほしいんですけどね。同い年で転生してますし。そんな現実逃避気味のことを考えながら後輩君を落ち着かせていると彼は説明をしてくれました。
何でも、勇者様を倒すために魔王軍暗部の将軍たちがやって来て勇者様と互角の勝負をし、そして決着が着かなかったので兵站を整えるために近くの町に侵攻しようとしてこの町に来るらしいです。
困りましたね。
「勇者様は?」
「実は……勇者様は魔王軍の猛攻を受けて重傷なんです……それを隠してでもこの町に来ていただけるとのことですが、おそらく……」
……伝説の勇者様ですのに極悪非道と噂の魔王ではなく幹部にやられたのですか……どうしましょう。僕はこの地でスローライフを送らなければならないのですが……
「に、逃げましょう! 先輩のあの船があれば逃げられます!」
「ん~……ですが、ペットたちが乗りきらないと思うんですよねぇ……」
「命の方が大事です!」
それは尤もですが……僕が丹精込めて愛情を注いだペットたちをそう簡単に……
「人間諸君! 今からこの町は魔王軍の占領下に置く!」
「おや?」
「ひぃっ! もう来たぁ!?」
ふむ、想定より大分早いですね……どうしましょう? あまり刺激して酷い目に遭いたくないのですが……どうしたものでしょうか?
「せ、先ぱぁい……」
「僕の家に来なさい。逃げるにしても不意を打たなければいけませんから、ペットたちに何とかしてもらいましょう」
「先輩のペットって、幻獣か何かいるんですか!?」
「……フロッグのゲロゲロ7君とか……ホーク兄さんですかね。ペンギンも船に乗ってますよ? 後、海猫ちゃんも船に乗ってますし、ちゃんとレイピアとジャベリンもあります」
「その子たちにどうさせるつもりですか!? レイピアやジャベリンだって、先輩がどう頑張ったって魔族相手では2,3人相手に出来るかどうか……」
「む、それにこちらにはエリコまでいます! まぁ、彼女には戦いなんてさせませんが……」
「惚気るのは後でにしてください!」
敵が迫って来ています。その後ろから砂塵が巻き起こり強そうな魔力が迫って来ました!
「これは不味いですね。急いで僕の家に!」
「と、とにかく避難です!」
後輩君と僕が家に入り、望遠鏡で空を見ると上空に多くの魔族が。隣にいる後輩君は僕の部屋を見て驚いているようです。
「そう言えば、僕の家に来たのは初めてでしたか?」
「ぺ、ペットたちのストレスになるといけないからって……」
「まぁ、そうですねぇ……取り敢えず、ホーク兄さん! 君に決めた!」
大空を舞い、滑空するホーク兄さん。通称、MIM-23ホーク。全長5メートル超、重さ600キロ少しの射程40キロで射高が18キロのそれは目標違わずお空に汚い花火を打ち上げてくれました。
「さすが、僕のペットのホーク兄さんですね。では次に行きましょう。ジャベリンのお点前をお見せします」
全長1m少しの重さ約12キロ、射程距離は2キロ以内。米軍で使われている対戦車ミサイルを村の街道に沿わせて四方に放ち良い魔族たちを量産していきます。
「……争いは嫌いなんじゃ……」
「本当に、暴力反対ですよ……こんなに温厚な僕らにわざわざ攻めて来るって何て野蛮なんですかねぇ……恐ろしいですよ、本当に……」
少し地上の敵に気を取られている間に上空にゴミ共が群れ始めていました。流石に近いので被害を考えてホーク兄さんではなく英国に設置されている地対空ミサイル、レイピアで魔族を血と肉片の雨に変えながら僕らは恐ろしい魔族たちから船へと逃げ込みます。
「撤退しようとしてますけど……船に入る意味あるんですか?」
「えぇ、兄さんたちばかりズルいとペンギン君たちが怒るので……」
船からお空に向けて海猫、イギリスが所有する艦対空ミサイルを砲撃しつつ、地上に向けてノルウェーが保有する艦対艦ミサイル、ペンギンを射出します。
後輩君が半笑いをしていますが、どうしたんでしょうね?
「あの、過剰防衛では……」
「スローライフを脅かす屑どもにはこれ位……いや、足りませんね。ゲロゲロ7を放ちましょう」
「……何なんですか?」
「事実上の弾道ミサイルです」
まぁ、大体間違えていません。僕がこの世界に来てしばらくしてから衛星として打ち上げた隼たちとは大分内容が違いますけどね。
フロッグ-7。要するにロシアが保有している短距離弾道ミサイル……まぁこれ以上を説明すると後輩君が精神に異常をきたしかねないので黙っておきます。
「……流石にこれを使うのは躊躇われますが……極悪非道の魔王を相手にするのであれば、仕方ないです。これは、必要悪なんですよ……」
「……過剰防衛だと思うんですけど……」
「抑止力です。エリコが怒ったらこんな物じゃないので……」
エリコは怒るとエリコ-1から始まります。その時点でゲロゲロ7くんの3倍近い重量の6.7トン、射程距離480キロの短距離弾道ミサイルを放つのですが……
激昂すると、もう手が付けられません。エリコ-2は……中距離弾道ミサイルを手当たり次第ぶちまけるのです。恐ろしい。重量29トン、射程距離1500キロ……逃げられません。
「まぁ、知らない方が良い事実と言うのもあるんですよ。エリコの御両親も本っ当に苦労されてるんですから……魔王より怒らせてはいけない相手なんですよ? 文字通り全てが終焉に導かれるので……」
エリコは僕が争いが嫌いと言ってこの地に留まらないと皆のためにとか言って戦いに出掛けて大変なことをしますからねぇ……
これからも、スローライフで行きましょう……皆の為に。