得居奏太郎はこの学校に不適合・・・なのかもしれない。
桜の花は散りアスファルトに積もり道を作る。
大概のあほどもはわあキレイなどとほざいているがよく見ろ。なんとも言えない色に変色している。
桜の花が何とも言えない色になって道を作っている―――。
普通なこういった表現は花の入学式には不適合なのだが俺の心はピンクでも灰色でもなく踏みつぶされた桜のような色に変色していた。
誰にも言えない嫌なものを心に宿したまま俺は喜びとやる気に満ちた表情のこれから一緒に学ぶのかもしれない俺と同じ新入生が歩く学園までの道を誰とも話さず一定の距離を置きながら歩いている。
ふと後ろから聞いたことがあるというか聞き覚えのある―――ではなくそれはウキウキにはしゃぎまくっている箕城の声が聞こえてくる。
「そ~ちゃんっ!!!」
おれは振り向かず隣に来るのを待ってから口を開いた。
「おはよ。」
「―――!?」
彼女はとんでもなく驚いた顔をしていた。誰だこいつと言わんばかりに。
隣にいるのは箕城実であり他の誰でもない。
だとしたら―――
「どこの何に驚く要素があった。」
「奏ちゃんからのおはようが三年ぶりでびびった。」
「そこで驚くことじゃないだろ?俺だって挨拶ぐらいしたいときにするさ。」
「まさか奏ちゃん入学式に浮かれてるね!?楽しい学園ライフを満喫しよう!」
人の気も知らずにこいつは。まあ言っていないのだから仕方のないことだ。
三年ぶりに俺から、二年ぶりに交わした挨拶はあのころとは何ら変わらなかった。
時が経つのと人間が成長する速度との差は異様にも大きくその二年と俺が十六年生きた時間との間には計り知れなくらいに大きな穴が開いているのだと実感した。
時間は怖く人間というのは小さく弱いものなのだ。
そうこうしているうちに俺達は校門までたどり着き、通ってすぐに設置されていたクラスを確認する張り紙を見た。
特別科は二組あり俺の名前は一組にあった。
「あっれおかしいな。私の名前がない・・・」
普通科は八組ある。
一通り見終えて自分の名前がないのを不自然と思った箕城は俺のところに来た。
「どうすればいかな?」
「先生に聞いたらどうだ。と言いたいとこだけど見当たんねえな。」
周りには教師は一人もおらず名札を新入生に渡す役割をもった先輩方しかいない。
「もう一度探してみるか。」
そう言って俺は自分とは関係のない普通科の張り紙をじっと見つめた。
探すは箕城実という文字。がない。
箕城はまだ三組で立ち止まっていた。見つかる気配はない。
普通科に名前がないのなら残るは特別科の張り紙だけだ。
あるはずがないと思いながらも見てみる。
「あるわけないよな。」
箕城の名前は計十枚普通科にも特別科にも名前はなかった。
「お前ほんとに合格したんだろうな?」
「当り前だよ!合格通知ならほらここに!」
「なんでそんなもん持ってんだよ。」
ここにいる人間に聞いてもどうせ何も出てこないだろうから俺は昨日見た学園の見取り図を頼りに箕城とともに職員室を目指した。
校舎は三つに分かれている。
校門から見て手前一棟目は職員室のある特別教室棟。
その向こうにあるのが二棟目、普通科の生徒が普段使う普通科棟。
そしてその向こう体育館を挟んでの三棟目、特別科生徒の根城。通称変人の巣窟。特別科棟。
以上パンフレット参照。
特別棟玄関入ってすぐにある職員室だがそこにたどり着く前に俺達は後ろからの声に呼び止められた。
「後輩君それにみのりん。探したよ!あの量の中から見つけ出すのは至難の業だよ。出てきてくれてよかった!」
声の主は篠野木先輩だった。その隣には伊野湖先輩と西部式先輩もたっている。
なんだろ先輩方の後方からくる目線がとても痛い。
「篠野木先輩!おはようございます!」
「おはようみのりん!今日は君に話があるんだ~。」
「話とは何ですか?」
「おっとそれは君が聞くことじゃないよ後輩君。」
先輩の目はマジだった。後で話を聞くとして俺はさっさとずらかることにしよう。
少し歩いて振り返ると四人が特別教室棟に入っていくのが見えた。
<><><><><><><><><><><>
特別科棟はなぜこんなにも遠いのか。不思議には思ったが新設だったのでなるほどなと思った。
立てる場所がそこしかなかったのだろう。
しかしなぜ普通科と同じ棟にしなかったのかはわからない。
靴箱はなく校舎には土足のまま上がることになっている。持っている上履きは体育館用だ。
階段を上がった先に二組の教室がある。
一階で一組の教室を見てきたがかなり騒がしかった。多分二組も同じような雰囲気だろう。
騒がしい教室の後ろドアを開け俺は中に入る大体そろっているようだ。
俺は自分の席まで向かう。しかしそこには俺ではない人物が座っていた。
宮島凛。高1特別科二組。女。
いやまあ彼女が座っているわけではない。彼女は俺の前の席だ。
俺の席に座って宮島と話をしている人物。
米良公義。高1特別科二組。男。
彼は宮島の前のはずだ。しかしなぜか俺の席に。
俺が間違っていたのかと思い黒板の席順を見に行く。やはり間違っていない。
五列五行二十五の机を並べられて構成されたこの席順。
俺の席は真ん中の後ろから二番目。
ということは答えは一つ。
俺は自分の席に戻り陣取っている者に伝える。
「米良君席間違ってないか?あの座席表下が前だと思うんだが。」
「え?」
米良は慌てて確認しに前に行きそして風のように戻ってきたこういった。
「ごめん!思いっきり間違えた!」
別にいいよとだけ返して俺は明け渡された机にリュックを置き椅子に腰を下ろした。
「君名前は?」
いかにも俺はリア充だと言わんばかりのセリフを放った彼だったがそんな気配は全くしなかった。まるで何かを演じているように。それは本心ではないと目の奥で語っていた。
「得居奏太郎。君とはいい友達になれそうだよ。」
「なんだいそれは。さっきの僕に対する嫌がらせか報復かい?」
なんだかがっかりしたように見せるが目は輝いていた。目は口ほどにものを言い嘘をつかない。
「そうでもない。本心だよ。」
「私は置いてけぼりなのかな?」
俺と米良のやり取りを聞いていた彼女はさぞご不満そうにこちらを見てつぶやいた。
「いや~そんなつもりはないんだよ凛。」
米良は彼女を名前で呼んだ嫉妬具合からして彼と彼女は同じ中学のようだ。
「よし君だけ友達作ってずるいよ。私だってほしいのに・・・」
次は泣きべそを掻き始めた。これはめんどくさいタイプの女子だ。お嬢様か?嬢様なのか!?
「しょうがないなあ姫様は。奏太郎君凛も一緒にどうかな。」
お姫様だった!も一緒にどうですかってお前はバーガーショップの店員か!?
友達になったところで何の利益もなさそうだし逆に被害被りそうだけどそんなことを考えながら生活していたらくそみたいにつまらない学園生活になってしまう。
それに男女比から見て当初の目標なんて破り捨てられたような元からなかったことにされたようなものなので、ここは了承することにしよう。
「いや、奏太郎でいい。凛さんもよろしく。」
「よかった~。あなたが初めての人ですよ。」
「語弊のある言い方はくれぐれも慎んでください。」
少し顔が引きつってしまった。先が思いやられる。
そのとき背筋が凍えたような気がした慌てて後ろを見るが誰も居ない。
「どうしたんだい奏太郎?」
「?」
二人は不思議そうな顔で聞く。
「いや何でもない。」
ただ閉めたはずのドアが半開きになっていただけだった。空気の読めないクラスメイトがやったのであろうそれを俺はきっちり閉めた。
始業のベルと同時に全員が席に着きなり終わりに担任となる教師が入ってくる。
別に担任には興味はないので俺は鞄を整理し始めた。武之宇はやめてと願いながら。
教卓の前に立った担任は挨拶と自己紹介を始めた。
「入学おめでとう。担任を務める武之宇だ。漢字は・・・・
まじかよ。
それは崩れた平凡にすがった俺の足首に死神の手がかけられた瞬間だった。
深夜アニメに浸りたい毎日。