伊野湖海野は期待する。
多くの女子生徒に囲まれて焦っていた俺だがなぜか目を輝かせてこっちを見つめている箕城がいたので助けを求めることにした。
「箕城さ~ん助けてくれまいか。」
箕城は待ってましたと言う表情を浮かべスタコラサッサととんずらこきやがった。期待させやがって。
ピンチであることに変わりはない。
女子生徒の大群が口々に言葉を放つのだがみんな揃って篠野木先輩との関係を聞くものばかりだった。
こうしていると何時までたってもらちが明かない。ここで一つ俺から聞くことにしよう。
「わ、わかりました。聞きたいことは話します。その代り俺の話も聞いてください!」
物分かりがよく一気におとなしくなり今にも触れそうなくらいに近づいていた最前線の女子生徒も少しの距離を置いた。
そこで大群の中の一人、俺と対面している生徒が口を開いた。
「聞きたいこととは何ですか?」
話をするなら名乗るのが一般常識なのだろうけど別に関係を持ちたいわけでもなかったので何も言わなかった。
「篠野木志野木ってどいう人ですか。」
それを聞いた女子生徒たちはまた口を開き始めた。今度は俺に聞こえないぐらいの声で。
するとさっきの女子とは違う少しきつめどすの聞いた声が聞こえてきた。
「黙りな。今は海乃が喋ってんだ。」
途端ヒソヒソと話す声は聞こえなくなった。リーダー格の生徒の声だろうか男の俺でも恐怖を感じた。
今の声から察するにさっきしゃべったのが海乃という人なのだろう。
海乃さん口を開く。
「篠野木志野木先輩は私たちの憧れです。」
とだけ言って俺を見たまま動かなくなった。
「そ、それだけ?」
女子生徒のほとんどが頷く。頷かなかった生徒も何らかの形で篠野木先輩を熱く慕っているのだろう。あって間もないがそうだと言えるくらいにはすごい人なのだ。
「私たちからの質問。」
とだけ言ってまた動かなくなった。どうやら海乃さんは口数が少ないわりに積極的なようだ。
「俺と篠野木先輩はまだあって三時間もたってないような関係です。別に特別どうとかそういうんじゃないですよ。」
女子生徒たちはまたもや口を開きだした。
「ありえない。」
「いったい何者。」
「まさか脅したとか。」
などなど。そう言ったことが聞こえてくる。
さっきのどすの聞いた声も聞こえてこないということはその声の主も同じことを思っているのだろう。
そのとき箕城が戻ってきた。小池野先生を連れて。
箕城が待ってましたと言う顔をしたのはまさにそのとおりでありもとから俺を助ける気だったのだろう。
この量とさっきの混乱ではとても自分では対処できないと感じ助っ人に小池野先生を呼びに行っていたということだ。
まあ今の状況からして小池野先生は必要ないし箕城の助けもいらないわけだがさてあいつはどうするのだろうか。
間違いなくあの表情は切れている。すぐさま逃げたいものだがこの大群からは逃げられそうにない。
そうこうして箕城を気にしてほったらかしにしていた大群で火が付いたらしくまた助けを求めたあの状況に戻ってしまった。今回は箕城(怒)と小池野先生もついている。
箕城の怒りが頂点に達したらしく隣でこっちを見ていた小池野先生を担ぎ上げ、大群に向かって投下した。
小池野ボールは見事スカート女子の足元に転げ込みキャー変態の合図で女子生徒の大群は先生をポコスカし始めた。そのときには箕城姿はなく俺は難なく脱出に成功した。必要ないなんて言ってすみません小池野先生。あなたの死は忘れません。
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あの騒動のあとさっさと部屋に戻り風呂の支度を済ませ、近くに誰絵も居ないのを確認しながら大浴場に向かった。
「なんだったんだあれはいったい。」
「得居奏太郎。」
突然後ろから声がして俺はとっさに飛び上がり対象と距離を置く。
「あ、あれ。あなたはさっきの。」
後ろに立っていたのはさっき喋っていた海乃さんだった。
「そんな反応されると傷つく。」
「あ、すみません。癖なんです。」
とりあえずさっきと同じ距離まで近づいた。
背は篠野木先輩の母親と同じくらい。短髪。普乳。
「特別科二年伊野湖海乃。溺合寮に入寮予定だ。よろしく。」
と手を出す。握手をしようということなのだろう。断る理由もないので握る。
「どうも。」
「それだけ。いい夜を。」
自己紹介するためだけに会いに来たようでそのまま帰っていった。パジャマだったので部屋にもだったのだろう。
不思議な人だった。
俺はそのまま大浴場に向かった。背筋が凍えたのは気温のせいだろう。
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話し終わった私を篠野木志野木は待っていた。
「う~みのん。後輩君どうだった?」
「面白そうな人。篠に似てる。」
「でしょう?これから楽しくなるね~!」
「だといいけど。」
得居奏太郎は危険な匂いと同時に優しい香りがした。
「一本作れそう。」
「そりゃ大収穫だね!それじゃおやすみ~。」
「いい夜を。」
私。伊野湖海野は期待する。楽しい明日を。
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大浴場はトレーニングエリアの奥にありトレーニングで掻いた汗を流すのにちょうどいい。
俺はトレーニングなんてものには興味ないのだけど。
篠野木先輩と来たときは誰も居なかったのだけど今は男であふれかえっている。廊下とエリアを仕切るガラスが白く曇っていた。
「何したらこんなになるんだよ。」
こんだけたくさんの男子生徒が集まっているのだから浴場は開いているだろう。さっさと入って汗臭い奴らが来る前に出よう。
そう思い俺は「ゆ」と書かれた暖簾をくぐり脱衣所に入った。
そこには誰も居なかったが一つだけ鍵のしまったロッカーがあった。誰かが入っているということだろう。
一人くらい気にならないので俺は服を脱ぎロッカーに鍵をかけ浴場に入った。
扉を開けた先には大きな浴槽とたくさんのシャワーが設けられていた。
「すげえなここ。立派な温泉じゃん。」
湯船にはさっきのロッカーの使用者であろう人物の後ろ姿が見えた。
湯船につかるのは体を洗ってから。それぐらいの常識は心得ているので、俺はシャワーに向かった。
~続~
中途半端ですが長くなりそうなのでここで終わりです。
次回も新キャラ出します。