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篠野木志野木は道案内には不適合だ。

[新登場人物]

篠野木 志野木 (しののぎ しのぎ)

 置いてけぼりにされた俺は一時間後その場所で絶望していた。



 一時間前。


 

 俺は歩いて学校を探していたのだが、それらしきものはどこにも見たらず道を聞くために商店街に入りしらみつぶしに聞いて回っていた。

 一件目・精肉店


 「聞いたことねえな。」


 二件目・八百屋


 「知らねえな。そんな高校聞いたことねえ。」


 三件目・魚屋

 

 「すげえ名前の高校だな。ははは。」


 四件目・文具店


 「あんたあそこに入学すんのか?やめときゃいいのに。」

 「どこにあるかわかります?」

 「んにゃ。しらねえ。けどあそこの書店の娘がその高校に通ってるらしいぜ?」


 そう言って向かいの書店を指さした。

 篠野木書店という看板が立てられている。見るからに古そうな本屋だ。

 ありがとうございますとだけ言い俺は書店に足を向けた。

 

 「中は綺麗だな。」


 ガラス越しに店内を覗くと床や壁には汚れはなくチリ一つないのではというくらいにきちんと清掃されていた。

 新刊コーナーなど本のポップなどは存在せずただただ本がずらりと並べられている。

 店長さんの思惑なのか何かはしらないが店自体が本は自分で選べと言っているように感じる。

 初対面、初来店なのだが結構好きだなと思いながら手押し式自動ドアを開け店内に入った。

 チリリーンというのがこの店の入店音らしくそれが鳴り終わると同時に店の奥から一人の女性が店の制服らしいエプロンを付けながら出てきた。


 「いらっしゃいませ。新規のお客さんだね。体つきからして高校生かな?どんな本をお探しで?」


 長い黒髪のポニーテール。身長は俺の胸あたりだから百四十強。細身な弱弱しい体つき。エプロンがよく似合う。貧乳美少女。

 そんな彼女が胸を隠して少し赤面して俺をにらみながら子犬のように。


 「へ、変態さんですか?」

 「そういうのいいです。」


 そういうのはもうちょと大きくなってからいうもんだ。

 

 「共逢学園ってとこ探してるんですけど、ここの娘さんがそこの生徒って聞いて。」

 「ああ。お姉ちゃんの事だね。とすると新入生で道に迷ったってとこかな?」

 「ご名答。で、そのお姉ちゃんとやらはどこに?」

 「わからない。」


 貧乳美少女は笑顔でそう答えた。


 「それはどいったあれですかね。」

 「私はどこか遠くに旅立ちますって置手紙がここに。」


 とカウンターを指さしニコニコしている。


 「なんであんたはそんな冷静なんだ...。」

 「いつもの事ですからふふふ。」


 大丈夫なのかこの家族。


 「警察に連絡しなくていいんですか?」

 「どうしてですか?」

 「何かあったらどうするんですか。」

 「自分の部屋にいるのに何かありますかね?」

 「居場所わかってるじゃないですか...」

 

 無駄な会話をしてしまった。というよりこんな人の姉に道を聞けるのか心配になってきた。

 

 「志野木~。お客さーん。」

 

 二階で物音がする。その志野木という女性の部屋は二回にあるらしい。別に何か興味があるわけじゃない。

 と階段を下りるギシギシという音とけだるそうな澄んだ声が聞こえてきた。


 「誰~。私の睡眠を邪魔した奴は。」


 睡眠を妨害されてキレているような物言いだがまだ眠たそうで今にも寝そうな声だった。

 それにしても綺麗な声をしている。今まであった中で一、二を争うほどだ。


 「共逢学園の迷子だってさ~。」


 なんだその俺の説明と思ったのだが共逢学園と貧乳美少女が口にした瞬間ギシギシという木のきしむ音が急に人間が転がり落ちる音に変わりその少女は凄まじい速さで俺の前に姿を現した。気づいた時には俺の手は握られて...


「君が得居奏士郎君だね!?話は武之宇先生から聞いてるよ!いやあびっくりした。ほんとに来るとは思わなかったよ。君が来るから家でくつろいでいてくれと先生に頼まれちゃっててね。さすが武之宇先生だねほんとに君を置いてけぼりにしちゃったんだ。最低だよあの先生は。でも私からしたら最高の事をしてくれた!会いたかったよ奏士郎君!君の事は前から気になっていたんだ!もういっそのこと私と結婚してくれ!もっと君をぼぼぼぼ...」

 「志野木ちゃんお客さん凄くひいちゃってるよ。」

 「はっ!私としたことが...面目ない。」


 どさくさに紛れてプロポーズされた気もしたがあいにく話の半分くらいで何言ってんだこの人状態になってしまったらしく内容が頭に入っていない。

 彼女は一つ咳払いをした。仕切り直しという意味だろう。


 「やあやあ。初めまして。共逢学園高等部特別科二年の篠野木志野木というものだ。しのりんって呼んでね!」

 

 俺の先輩にあたることになるしのりんなるものは妹に顔つきはよく似ているものの茶髪で緩い服装から内面は全く違うのだろうと連想せざるを得ない。背は俺と同じか少し低い。


 「それでは篠野木せんぱ...

 「しのりん。」

 「篠野...

 「しのりん。」

 「し、しのりん先輩。」

 「先輩ぐらいならいいや。なんだい後輩君?」

 「後輩君ってのやめ...

 「どうしたのかな後輩君?」


 どうやら篠野木志野木は自分の思うようになるまで突き通すようだ。強欲だな。

 とにかく俺は当初の目的を果たすことしよう。

 

 「溺合寮の場所を教えてください。」

 「心得た!それじゃいってくいるね。来月また戻ってくるよお母さん。」

 「お母さん!?」

 「何言ってるんだい後輩君。篠野木四季は正真正銘私の母親だよ?」


 名前はどうでもいいのだけどまさか母親だとは思わなかった。

 どっからどう見ても高校生じゃないか。それに


 「お姉ちゃんって...」

 「お母さんは私を呼ぶときたまにお姉ちゃんという時があるんだよね。まあ見てくれがこんなだからよく間違われるんだけど。」

 「ふふ。私ってそんな若く見えるのかしらうふふふ。」

  

 母親と知ってますますこの家族は大丈夫なのかと思ったがもう暗くなり始めたので真相はお預けとなった。

 

 「それじゃ行ってくるよ。」

 「いってらっしゃい。」


 無邪気に手を振るその姿はどう見ても大人には見えなった。とても気になったのだがお邪魔しましたとだけ言ってしのりん先輩と寮に向かうことにした。


 「そういやしのりん先輩。」

 「どうしたんだい後輩君。」

 「来月戻るって言ってましたけど。共逢学園って全寮制なんですか?」

 「ほんとに君は学園の事何も知らないんだねえ。その通り全寮制だよ。」


 呆れた風に笑いながらしのりん先輩は言う。


 「先生から聞いたよ。後輩君女の子が少なそうだからって学校選んだんでしょ?」

 「別に男が好きとかそういうんじゃないですよ?」

 「わかってるよ。まあ人間としてずいぶん面白くはないと思うけどね。」


 あのくそ教師に個人情報守秘義務の概念はあるのかどうか知りたくなってきた。


 「でも私は君の生き方嫌いじゃないぜ。私自身もその理由で共逢選んだんだ。」

 「群れるの嫌いそうですもんね。しのりん先輩。」

 「会って間もないのにそんなこと言われるの初めてだから凄く興奮するね!」

 「やめてください。」

 「そりゃ悪かった。」


 何かどこかしのりん先輩は俺と似ているような気がして親近感がわいてきた。

 きっとしのりん先輩はボッチだ。


 「後輩君。私はボッチじゃないし君もボッチじゃない。共逢は面白い。君にまねできない変人が山ほどいるからね。溺愛寮はそんな奴らの精鋭と言ったらいいのか異端と言ったらいいのかそんな奴らの集まるところだからね。」

 「俺は平凡に学園生活を送りたいだけなんですけどね。」

 「ははっ!それは無理だろうな。君は規格外だ。能力も取り巻く人間も。楽しい学園生活になるだろうから期待してなよ。」

 「期待はしたくないですけどね。それよりしのりん先輩。」

 「どうしたんだね後輩君。」

 「さっきから同じ道通ってません?」

 「私の二つ名を教えてしんぜよう。」

 「迷子の篠野木が妥当でしょう。」

 「そのとーり!正解だよなんでわかったの?」


 二つ名はどうでもいいとしてどうすりゃいいんだ。

 まさかしのりん先輩がここまで方向音痴だとは思わなかった。いや誰だって思わねえ。

 

 「携帯電話もってますか?」

 「忘れた。寮に。」

 

 打つ手がなくなってしまった。といううわけで冒頭部分に戻る。

 どうすりゃいい。先輩の家に戻って固定電話で先生を呼び戻すか。そもそも番号を知らない。


 「私も武之宇先生のならわかるけどこっちから呼んだら絶対来ないと思うよ。」


 まあもともと期待はしていなかったものだからショックは小さい。

 

 「そもそも。先生の狙いは何でしょうね。」

 「なるほど!あいつの狙いがわかればたどり着けるという訳だね。さすがあったまいいなあ。」

 「しのりん先輩も薄々気づいてたんじゃないですか?」

 「まあそれはこの際いいじゃん?それより君の推理を聞きたいな。」

 「わかりました。だけどこれだいぶ遅くなりそうですよ?」

 「寮につけるのなら何の問題もないよ。」


 それでいいのならといい。俺はあのくそ教師の出した課題のなぞ解きを始めた。


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