俺の性格はあいつには不適合だ。
そう。今まさに俺の目の前に「普通」な男性が立っている。
スーツに二十代男性がよくしているような髪型。
何だろう普通だ。
「申し遅れたね。僕は共逢学園教師の小池野還流って言います。君を迎えに来たんだ。」
「はあ。それは助かります。」
「ちょっと待ってよ奏ちゃん。ん?なにこの普通。」
「おい、初対面で普通ってひどいだろ。」
大荷物を抱えて遅れて出てきた箕城の放った言葉は小池野と名乗る男に大ダメージを与えたらしく、小池野はしばらくの間動かなくなってしまった。
「はっ!すまない。少し意識が飛んでいた。普通ってよく言われるんだけど初対面で初めて飛んできた言葉が普通というのはなかなかショックだよ。」
よく言われるのか。この人ひったくりの標的にされそうだな。
「すみません。あまりにも普通だったのでつい。」
ここで追い打ちをかけるのかお前は。大した勇気だな。と思いつつ小池野のほうを見るとまたもや硬直していた。
「はっ!本当にすまない。だが、君ももうやめてくれ。だいぶへこむ。」
「いやぁ。すみません。でもあなた本当にふ...」
「もうやめとけ。箕城、この人これでも教師だぞ。」
意表をつかれしまったという顔をした箕城は自分が知っている一番の謝罪の仕方なのであろう跪き、両手を膝の前肩幅に開き額を地面にに打ち付け叫んだ。
「申し訳ありませんでしたああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
騒音認定されてもおかしくないほどの大声がオレンジ色の駅のホームに響いた。そう、彼女は箕城実は衆人環視の中スーツ姿の一見して普通のサラリーマンに土下座を行った。
露出度が高い服装の明日から女子高生の見た目だけ言えば新鮮な女子が、別に何の取り柄もなさそうな若々しいサラリーマン風の男性に土下座をかましているのだ。そのサラリーマンは少しどころか大きく引いている。
さて。この状況を見て人は何を思うだろうか。俺ならこう思う。
大荷物を抱えた高露出箕城にリーマンは痴漢を働きあっさりバレてしまう。
だが、リーマンは罪逃れのために自分は何もしていないと主張する。
それを聞いた純粋新鮮女子は見知らぬ人に罪を押し付けてしまったと思い込み、勢いで土下座を行った。
それを見てこんな事態になるとは思わなかったリーマンは引き気味にどうしたらいいのかわからず焦っている。
といった感じだろう。
俺のよみは当たっていたようでだんだんとギャラリーは集まりだし、皆それぞれにヒソヒソと口を開き始めた。「絶対やったよあの人」とか「でもあんな格好してるあの子もあの子よね」なんてことが聞こえてきた。通報しようか迷っている人もいた。
そんなこと聞きもしない箕城は私の高校生活がぁなんてことを言いながら地面に額を押し付けたまま泣きべそを掻いていた。
一方リーマンこと小池野は引きつり笑いをしながら周りの声を聴いていたのか仕事なくなったらどうしよう。なんてことを言い始めた。この人これから箕城に振り回されるんだろうな。
覆面捜査をしていたらしい警察が俺たちを囲むギャラリーから出てきたので俺はそこで行動を起こすことにした。
「紛らわしいことをするな。男目当てのお前に先生の評価なて別に気にすることないだろう。」
そう言いながら箕城の左腕を掴み立ち上がらせた。そういうんじゃないんだよ~。なんてことを言っているが無視した。
「先生も先生でちゃんと否定してくださいよ。」
正気を取り戻した小池野はやぁすまないと頭を掻きながら俺に謝った。
そのあと俺は警察に事情を説明した。警察は二人に注意したあと、ギャラリーをまいてどこかに消えていった。
そのあと俺は箕城の紹介を済ませ、小池野先生の車に乗りこれから俺が生活の拠点とする溺合寮に向かうことになった。
「それにしても奏ちゃんが人を助けるのって珍しいよね。」
「へぇそうなんだ。」
「そうなんですよ!小さいころはいろいろお世話してくれたんですけどね。」
「その話はもういいだろう。」
人助けを嫌い人間を嫌った中二病全開だった頃の話はしたくない。
俺は変わると決めた。真人間になるんだ。
「そういや得居君は理事長の息子さんなんだってね。」
俺が疑問に思っていたことはどうやら世間的にはそこまで重要なことではなかったようだ。
「俺もさっき知りました。もう何年も会ってないですけど。」
「さっき知ったって...も、もしかして学園の事何にも知らない?]
「なーんにも。興味ないですし。」
「うわあ理事長の言ったとおりだね。箕城さんの方は?」
「私は結構知ってるよ!見てください私のコレクション!」
そう言って取り出したのは辞典のように分厚い一冊の本と、アルバムだった。まあ予想通りのものなのだろうけどこの二人の絡みが面白そうなので少し見ることにしよう。
「そりゃすごい!それは何だい?もしかして学校の事調べつくしたのかい?」
「そりゃもう!見てください茲野瀬くんとかすっごくカッコよくないですか!?」
箕城がバックミラー越しに見せたのは共逢学園男子生徒・男子教員のリストである。
小池野は箕城が徹底的に学園を調べ尽くすぐらい箕城が無類の学園好きだと思っていたのか顔が引きつっている。引きつり顔がよく似合う男だ。これからは普通から引きつりに格上げだな。上がってんのかこれ。
「もしかして箕城さん。それは学園に関係ないものなのかい?」
「何言ってんですか!?これは私の学園バイブル、学園の男全員の詳細情報が書かれているの。必要不可欠のものなのですよ!」
顔がもっと引きつった。
「じょ、情報通なんだねえ。男全員っていうのならそこには僕も載っているのかな?」
「御冗談を~。小池っちが学園の教師って知ったのさっきだし載ってるわけないじゃ~ん。」
「そそ、そうだよねえ...」
「もうやめろ箕城。先生がまいっちまってって、せんせ!?」
気絶していた。しかし駐車していたから何の心配もなかった。
人を待っている間でよかったとつくづく思う。
「小池っちの言ってた人ってどんな人だろうね。」
「先生の友達なんだから普通のひとなんじゃないか。別に何でもいいじゃん。」
「よくないよ!女かな?男かな!?」
「男だよ箕城さん。普通でもないよ得居君。」
あんたの言う普通じゃないってどれくらいのものなんだ。
「箕城君は何も変わってないし得居君も変わらず毒吐きだなあ。少しは成長したと思っていたんだけど。」
気絶していた小池野のために開けていた窓から顔を見せたのは俺がこの世で一番苦手な人間だった。
「うげえ私この人苦手なんだけど。つか嫌いだ。助けて奏ちゃんってあれ?」
俺はあいつが、武之宇出茂由が顔を出したと同タイミングで車を飛び出していた。
後ろですごい箕城の声が聞こえるのだが通常運行で無視だ。
なんであいつがこんなところにいるんだ。
いや、まあ。大体はわかるがこれだけは的中してほしくないものだ。絶対に拒否したい現実を逃避してどこか遠くに消えたいほど嫌だ。
そんな風な恐怖に似たもののせいか俺は我を失っていたのか手ぶらで飛び出してきてしまった。
「あ、やっべ鞄忘れた。」
そのころにはもう手遅れで俺の乗っていた小池野の車はもうどこかに行ってしまったようだ。
どうせ差し金は武之宇だろう。どこまでもくずだ。
「さて、どうしようか。」
寮の場所がわからないものだから今はぶらぶら歩くことにした。
といっても歩き過ぎると迷子になってしまいそうだからゆっくりと車の進行方向に進んだ。
地元から離れるのだから少しは道を知っておけばよかったと後悔した。
「さてと。とりあえず学校でも探すか。」
寮はわからないが学校のようなでかい図体してたらわかるはずだと俺は考えた。
わからなかったら町の人に聞けばいいそんな軽い気持ちで俺は学校探しを始めた。
「三月のくせに寒いなあ。」
それが愚行だったというのは三時間後にわかることになる。
~続~
また近いうちに。