俺の性格は立ち向かうには不適合だ。
登場人物
得居 奏太郎【とくい そうたろう】
箕城 実【みのし ろみのり】
武之宇 出茂由【むのう でもよし】
三吉 深雪【みよし みゆき】
上のほうで二つ結びにしたツインテール。
特徴的なピンクの髪色。
少しどころかかなり露出度の高い服装。
隣に置いた大きめのリュックサックと二つのキャリーバック。
「どうしたの?奏ちゃん元気ないよ?あ、私が元気にさせてあげようか!?」
「いや。結構だ。」
「んだよぅ。つれないな。それよりなんでここに奏ちゃんがいるの?」
不思議そうにこっちを見ているのは箕城実。俗にいう幼馴染というやつだ。生まれてから中学校までの腐れ縁。のはずなんだが、、、
「俺は進学先が県外だからな。今から寮に向かうところだ。」
幼馴染だが将来の話をするような仲ではない。いや、厳密にはそうではなくなったと言ったほうが正い。まぁ察しの通りそれは俺の中二病のせいである。
それはさておき、俺は箕城実がなぜここにいるのか少し考えてみた。いや考えるまでもない。
「お前も共逢か。お前があんな田舎の高校に何を求める。」
ああ。これも聞くまでもないことだった。だってこいつは、この箕城実は、
「んなこと聞かなくてもわかるでしょ。男に決まってるじゃない。地元の友達がいないところにいかないとって思ったんだ~。」
こんな自堕落なセリフを胸を張り自信ありげに言葉にすることができる、とてつもなくおと、、、恋に飢えた色欲魔物なのだ。
中学時代に一週間で7人の男子生徒と付き合い、そのすべてをふったことは有名な話だ。ふった理由は
「全然違うんだよね。」
その意味も分からない一言でまとめられるのだ。いや、実際まとめるまでもいかないくらい箕城実にとっては簡単なことなのだろう。
箕城実は俺には劣るものの、成績は常に俺の真後ろを特等席とする程度の頭は持っている。もちろんの事俺は中学三年間誰にも主席を譲っていない。
ただ数学の試験で俺に引けを取らず三年間満点をたたきだしたことにいたっては素直に箕城を認めざるを得ない。一つの途中式も書かずに問題を解くのだから教師も驚きだ。一年の冬のころにカンニングを疑われたこともあった。そのときは放課後俺も呼び出され、先生がどこからか引っ張り出してきた難関私立高校の問題一つを途中式無しで答えよと言い出した。俺が呼び出された理由は成績が一番良かったからである。全くいい迷惑だ。習ってすらいないこの問題を解くのは俺たちには無理だ。と俺は言おうとしたのだがいう前に箕城は解き終えていた。解き終えたというより書き終えたといったほうが正しい。問題を見て読み終える時間も加えて二十秒たらずで答えは出ていた。先生は生気を抜かれたような顔をして答案を見ていた。それで箕城のカンニング疑惑は晴れたのだ。箕城いわく、頭に答えが浮かんでくるらしい。前世は数学者だなとかいう他愛もない話をしたことを覚えている。
俺は数少ない荷物を一席余分に取られた隣の席において腰を下ろした。
「で?お前は何科を受験したんだ?」
きょとんとした顔でこちらを見ながら箕城は言う。
「?普通科に決まってるでしょ?特別科なんて変人の巣窟受けるわけないじゃん。」
お前もなかなかの変人だぞ。なんて小言をはいて飛んできた鉄拳を左手で受け止めながら、俺は疑問に思った。
俺何科だろう。
共逢高校には普通科と特別科というものがある。科の説明は後で学校聞かされることのなるだろう。
受験用紙は書くのがめんどくさかったのでテストの採点をやるのと引き換えに担任先生に任せた。
受験票には受験番号しか書かれていなかった。おめでたく0001だった。
受験日当日は担任先生の付き添いで共逢まで行った。
「そうだ。そうだった。」
共逢に到着し、誰もいない指定された教室に入り。俺は一人で試験を受けた。
受験が終わった後その試験内容に疑問を浮かべ、俺は自分で自分自身で先生に俺は何の科を受験させられたのかを聞いたのだった。
「また独り言いってるよ?奏ちゃんのそれ結構気味悪いから。」
「ほっとけ。」
「それより!奏ちゃんは何科なのか思い出した?なんとなく予想はつくけど。」
「ああ。予想通りの特別科だよ。」
だよね。奏ちゃん変人だし。なんて小言は耳元で塞き止め、あの日あのくそ教師が言ったことを思い出していた。
「得居奏太郎。君は君だ。それ以外の何でもないことを忘れるな。
君が他のものになるのは容易いことなのかもしれない。
しかし、君が求めるのはいつも他人がもつ君にないものばかりだ。
そして君は望んだそれを手に入れる。さあ考えてみろ得居奏太郎。
考えることはお前の特技だろう。
常人離れしたその思考回路でもっともらしい結論を導き出せる特技。
それが君のものとして。
ぱっとでのA君が君以上の結論を出したら君はどう思う。
そうだろうね。君は絶望する。箕城実の時と同じように、いやそれ以上にだ。
子供のころに言われなかったかい?人にやられて嫌なことは人にはするなと。 だから僕は君にこの共逢学園特別科を受験させた。
ここはまさに変人の巣窟だよ。みんな何かしらの欲に飢えている。
そして一人ひとり自分にしかない個性を武器に日々戦っているんだ。
君が共逢を受験したいと言い出した時は運命以外何でもないと思ったね。
理由は理由だったけどね。まあそれは捨てて。
得居奏太郎。僕の言いたいことはわかったね。
それじゃ僕はこれで失礼するよ。精一杯頑張り給え。」
これが俺の中学時代の最後の担任。武之宇出茂由が受験が終わった俺を家に送るまでの間に吐いた、武之宇いわく俺に与える最初の教訓である。
「むのっちって私あんまり好きじゃなかったな。なんか変に意地悪だったよね。」
「可愛らしいあだ名つけるくらい好んでるじゃないか。」
「それとこれとは別だよ。それよりあの時やっぱり落ち込んでたんじゃん。」
まあ昔の話だ。と子供のくせに妙に大人びいたセリフで会話を終わらそうとした。昨日よく眠ったのだが電車に揺られたせいなのか眠気が襲ってきているのだ。
「まあいいんだけどね。でも一つ気になることがあるんだよね。」
それはなんだと、俺は問う。
「奏ちゃんほどの人間が疑問に思う試験ってどんなものだったのかなって。」
「内容が作文だった。」
「でも特別科でしょ?それだけなら別に疑問に思わないんじゃない?」
そうじゃない。
「俺が特別科を受験したと知ったのは試験が終わった後だ。」
「でも、そんな試験ならその時点で大体どの科を受験したのかわかるんじゃない?」
その通りだ。いくら共逢学園について知らない俺でも普通の科ではないという察しはついていた。
「んじゃなんで?」
「言っただろう。そうじゃないって。」
「だから、それは受けたのを知った時間のことでしょ?」
だからそれが間違いだといっているんだ。
「俺が疑問に思ったことをお前はまだ知らないだろう?」
「はあ!?」
突然立ち上がり大声を出すものだから箕城を除く乗客と俺は一瞬飛び跳ねた。
恥ずかしかったのか顔を真っ赤に染めた彼女は各方向に頭を下げたあとゆっくり座席に腰を下ろして小声で、続けて。と言った。面白い光景を見ることができたので余韻に浸ろうと思ったのだが、真っ赤な顔をして今にも頭のてっぺんから湯気が出そうな彼女を見ると余韻なんてどうでもよくなり俺は話を続けた。
「お前は人の話を最後まで聞くことを覚えろ。試験内容は作文だ。それは違いない、だけど俺が疑問に思ったのはそれじゃない。」
箕城は自分が何を間違ったのかわかったようで、またやってしまった。といった顔をしていた。
「俺が疑問に思ったのは試験の内容ではなく、作文のお題のほうだ。」
いったいなんだったの?と箕城は俺に問う。俺は小さく頷き答えた。
「十年前君が五歳のころ、君のところを離れた母親に向ける今の気持ちを書け。文字の制限はない。」
箕城は目を大きく見開き俺に聞く。
「それって。。。」
「ああ。個人情報がダダ漏れだ。訴えないとな。」
「違う。そうじゃなくて!」
それもそうだけどと箕城は言い、わかっていると俺は言う。
この試験からわかることはいくつかある。
ただ簡潔にいうならば。
「俺の母親は何らかの形で共逢学園に影響をもたらす存在になった」
そして。
「試験問題を個人仕様にできる存在」
箕城が持ってきていた学園パンフレット、スタッフのページの一番うえを見る。
【共逢学園理事長・三吉深雪】
そこには十年前俺には何も言わず家を出て行った母親の顔と名前があった。
「よかったじゃん!十年ぶりに深雪さ、、、。奏ちゃん?どうしたの?」
俺はなぜか喜べない。
会いたくないといえば嘘になる。
今の俺をみてあの人は何を思うだろう。
今のあの人を見て俺は何を思うだろう。
それを考えると結論が出ないままずっと彷徨い続けそうだ。
これだけは考えないようにしよう。
今までそうしてきたように。
隣から本当にそれでいいの?と声が聞こえるがさっきと同じように俺は耳元で塞き止め聞かなかったふりをした。
俺はこの問題に立ち向かうすべを知らない。
俺が何科を受験したのか武之宇に聞いたのはこれが本当に受験なのかを確かめるためであり、別に自分の科が気になったわけじゃなかった。
「共逢駅~共逢駅~」
アナウンスが車内に響き俺は立ち上がり、それについで箕城も立ち上がる。
扉が開くと同時に俺は歩き出す。
どん。
足元を見ていたせいか人がいるのに気づかなかった。
すいませんと俺は言って前に立っている人物の顔をみた。
当然知らない人だ。
なんというか、失礼だが一言であらわすならまさに「普通」な男性が立っていた。
「君が得居奏太郎君だね。」
すみません。あなたは誰ですか。
また近いうちに。