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得居奏太郎は聞いてない。

 武之宇の自己紹介が終わる。

 武之宇にしては軽々しく生徒の緊張を解くような話をしていた。

 

 「では、珍しい転科です。さあ入って」


 転科?普通科の生徒が何かやらかしたようだ。

 入学式そうそうに変人の巣窟と呼ばれる特別科に飛ばされるなんて。

 俺はそんなことは思っていないが。ひどいこと言うやつがいるもんだ。

 教室の前ドアが開き一人のかわいそうな生徒が―――


 「まじですか・・・」


 とてつもなく嫌な顔した箕城が早足で教室に入り武之宇の隣に立ってムスッと早口で自己紹介を終わらせる。


 「箕城実十六歳彼氏募集中質問は自分の席で答えます先生私の席どこですか」


 気はわかるが読点ぐらいつけろ。読みにくい。というかこんなところで募集かけるか普通。お前は痴女か。

 箕城はこれでもかというほど武之宇を睨みつける。武之宇は引きつり笑いを見せる。ああわざとらしい。


 「ひっどいなあ箕城君は・・・。君には得居君の隣を用意してますよ」

 

 いや、俺の隣には横峯君が・・・っていねえし。

 いつの間にか横峯君は後ろの窓側席に移動していた。まさか横峯君の特技って潜入か?片目の蛇か!?


 「どうもありがとうございますっ!!」


 箕城は武之宇のつま先を思い切り踏みつけ言う。武之宇の顔が歪む。

 そのまま箕城はゆっくりと席に向かう。武之宇はニコニコと箕城を見ている。なるほどさっきの話はこのためか。話のおかげでこの教室の生徒からの支持を得られたはず。支持を得た武之宇に攻撃的なるということはクラスメイトからよくない目で見られるということだ。箕城ボッチ危機。

 昔の俺ならこのまま箕城をボッチにさせていたが今は違う。とりあえず話しかけておこう。


 「まさか篠野木先輩の話ってこれの事だったのか?」

 「そう。詳しくは後で説明する」

 

 うっわすんごい機嫌悪いじゃん箕城さん。少しそっとしておいてやろう。火に油は注ぎたくない。


 そのあとは入学式終わったら教室に戻れなど入学式終わりの俺には関係のない話が続いた。

 


 <><><><><><><><><><><>


 

 ホームルームは終わり生徒は式場に向かった。

 とんでもなく広い第一大ホールに入場し、滞りなく入学式は進んだ。

 校長の挨拶、新入生代表の挨拶が終わり、次は生徒会長の新入生に対する激励の言葉だ。

 篠野木先輩が舞台袖から姿を現す。会場はざわめき歓声が聞こえる。

 おいおいコンサートじゃあるまいし・・・。

 鳴りやまない歓声は篠野木先輩の顔にひびを入れる。


 「静かにできねえのか」


 沈黙を要求するその静かな怒りは放送担当の手により爆音で場内に響く。

 歓声の嵐は静まり返り緊張がはしる―――

 静まり返った場内で篠野木先輩は息を吐きそして吸い告げる。


 「迷惑だ。規律を守れんような奴はここには必要ない。せいぜい自己満足なスクールライフを送り給え。以上だ」


 篠野木先輩はそのままマイクの電源を切り袖に消えていった。

 言葉遣いは先輩らしくなかったのだが言っていることは本心なのだろう。言葉に力がこもっていたし、なにせあの人は面白くないことを嫌う。これで寄り付く生徒は限りなく減り自由な時間の確保に成功したということか。

 少したってから司会の声がスピーカーから流れる。篠野木先輩の声だ。


 「続いて、新入生特別科二組得居奏太郎君の紹介です・・・ぶふっ」


 今笑った。確かに笑った。いや待てそんなことどうでもいいけど聞いてない。そんなこと聞いてない。

 次に武之宇の声がスピーカーから流れる。


 「一年特別科二組得居奏太郎君はすぐに舞台へ」

 「あはははは!!」


 マイクのすぐ近くにいるのであろう篠野木先輩の笑い声は見事にマイクに拾われていた。

 若干の苛立ちと反抗心はあるものの、これだけの生徒がいる中で上がらないなんてことをしたら中学時代以上の恥さらしになってしまう。

 気は乗らないが座席横の階段を下り舞台に向かう。

 うわあすげえ視線。緊張どころの騒ぎじゃない。心臓は収縮してないんじゃないかと思わせるぐらいに激しく動いていた。生きているとはこういうことなのか。

 舞台に上がった俺は真ん中に立ち直立した。あれ?これから何するんだ。

 一人取り残された俺は司会の言葉を待つ。

 しかし司会は一向に言葉を発さない。

 いやマジで何してんだ・・・。

 

 「あ、あの~。これはいったい・・・」


 俺の言葉と同時にしまっていた幕が開き銀幕に映像が映し出される。

 そこには俺に関する情報がギリギリのラインで公開されていた。

 大丈夫なのかこれ・・・。

 そしてフェイドアウト。からの字幕登場。

 何々?理事長から得居奏太郎に話があるようです?自由に対談してください?

 この公衆の面前で親子で話せと?感動の再会を見せろと?なんだよこれ。つまりはこれ。

 

 「篠野木先輩のお遊びか・・・」

 

 気づくと俺の隣には赤いスーツに赤いパンプス履いた紛れもない理事長もとい俺の母親が立っていた。


 「久しぶりだなあ奏太郎」


 俺は社会的死を予感した。

 

これで休載です。

閲覧ありがとうございました。

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