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凍てついた青銀の星が、窓の向こうに見えていた。
「いよいよですね」
隣のアンジェリカが呟いた。
地球から離れること二十七億キロメートル超。人類の力がほとんど及ばない遠方に、宇宙船の一団があった。
一塊になった宇宙船に動きはない。周りの星々に紛れるように、じっと息を潜めている。長い航路の傷を癒すように、ただじっとその場に佇んでいた。
デルクもまた、目の前に大写しになった天王星の威容に目を奪われている。鋼のような表情に、僅かな感傷が浮かんでいた。
「始まらなければならない。我々の時代が。我々自身が作らなければならない。託されたのだからな」
「これから先、私たちはどうなるのでしょうか」
「分からん。これまでとは全く違う未来になる。これまでの人類が守ってきた価値観から開放されることが、本当に良い結果をもたらすのか、誰も知らないのだ。我々はただいたずらに、人類を二分する手助けをしているのかもしれん」
「戦争、ですか」
「これまでも戦争だった。我々と人類との間で。越えられぬ溝であると思っていた。ただ逃げ続ける今年かできぬのだとな。それを彼らが破った。……それは、争いを望んでのことではあるまい」
息を潜める彼らを襲う存在はない。排斥する社会そのものが存在しない地点に、彼らはいた。
「彼らは方舟のような存在であったな」
「方舟……旧約聖書、ですか」
「方舟となって我々を運んでくれた。神々が我々を洗い流す前に」
そう語るデルクの目の前で、画面の表示が切り替わり、赤い【SOUNDONLY】の文字と共に声が降り注いだ。
『初期起動シークエンスを開始します。オーナー、デルク・キンバリー氏に、当機の固有名の設定を依頼します』
デルクはしばし瞑目し、やがていつものような、鋼の気配を宿しながら言った。
「アルカ。君の名はアルカだ。我々を導いてほしい」
『了解しました。当機を【アルカ】と呼称――』
全ての壁や床が一斉に透過素材となり、宇宙の――圧倒的なまでの存在感が、押し潰すように、包み込むように、降り注いだ。
『これより、未来の演算を開始します』
人類という枠から外れた異端者たちの可能性が、芽吹こうとしていた。
完結です。お読み頂きありがとうございました。