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DAYTRANSER  作者: 流川真一
第四章 GO FORTH
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『逝っちまったか』


 ジョゼフは、ぽつり、と雫がこぼれるように呟いた。

 戦闘は続いている。ジョゼフは機体を縦横無尽に操りながら、迫り来るドローンの数々を撃墜していく。

 ドローンが牽制だということは分かっていた。配置を完了させるまでの時間稼ぎだ。レーダーに表示される敵の反応は、もはや津波のようだ。赤い光点の波の向こうに、自分たちの青色の光点が、灯台の光のように頼りなく灯っていた。


『意外。もっと悲しむかと思ってた』


 セリスが通信を飛ばしてくる。ジョゼフは苦笑した。


『心外だな。俺、結構ドライだぜ?』

『私の印象は真逆。ナイーブで、ちょっとしたことで結構へこむ』

『お前に言われちゃな。見た目と内面が違うのは、お前のほうだろ』

『私が?』

『動きが乱れてるぜ。動揺が期待に出てるんだよ。何せ俺らとこいつらは一心同体だからな。見りゃ分かるのさ』

『嫌な兵器ね』


 セリスは溜息交じりに答えた。

 セリスも、ジョゼフもまた、少なからず衝撃を受けていた。十年来の仲間の死――それが唐突に、理不尽に襲い掛かってきて、心を乱さない人間などいない。

 だが、二人は、エトナとエトラから命令を受けていた。それは、エトナとエトラが残した願いであり、遺言でもあった。

 ――みんなを守ってあげて。お願い。

 ジョゼフの頭の中に、双子の最期の言葉が蘇る。電子情報ではなく、肉声での伝達だった。つい数分前に聞いた言葉は、まだ血が滲むように暖かい。


『……あんなふうに頼まれたんじゃ、無下にもできねえ。突破するぞ』

『そうね。せっかく、ここまできたのだし。囲まれたからって諦めるのは、違う』

『珍しく気が合うな。最初からこれくらい呼吸があってりゃな』

『たぶん、また酔ってるだけね』

『そりゃ素敵な酔い方だ』


 二人は軽口を叩きながら、周辺のドローンを撃墜していく。

 二人の周辺だけ、真空のように、敵影が消えていた。レーダーで見れば、二人の機影を中心に数キロの範囲が、完全に空になっていた。

 だがそれでも、敵の総数は全く減っていないかのように思える。今自分たちが撃墜したドローンなど、全体の数パーセントでしかないだろう。地球側は完全に、この場でオーバーマンの漏出を食い止める構えだった。

 しかし、解せないこともあった。


『ミーティア。さっきの砲撃……船を抜いた砲撃の正体、掴めたか?』

『すみません。当機の能力では判別できません。せめてエトナさんとエトラさんがいてくれれば、もう少し詳細なデータを割り出せるのですが』

『位置は動いていないのか?』

『砲撃をした存在に関しては、動いていないと思われます。ただ――』

『どうした?』

『その存在が、あまりにも小さいのです。大出力の兵器、例えば以前のモノリスのような機構ならば、もっと大きい動的反応があるはずなのです。今回はそれがない。ちょうど、私たちの機体と同じくらいの大きさです。確証はありませんが』

『俺たちと同じ……?』

『迷彩がかけられているため、正確な大きさは不明ですが――』


 と、ミーティアが言いかけたところで、まるで息を呑むように言葉をつぐんだ。機械であるはずの彼女が、驚愕に打たれているかのようだった。


『迷彩解除――来ます!』


 砲声のような警告に、ジョゼフとセリスが武器を構えなおす。

 その目前で、空間が揺らいだ。

 光学迷彩と電波迷彩が解除され、敵の姿があらわになる。


『な――』


 それを見て、ジョゼフは絶句した。

 デイトランサーと同じような……などという曖昧な表現ではない。そのものだ。デイトランサーそのものの機体が、今目の前に大挙して押し寄せてきていた。機体の数はジョゼフの前にいるものだけでざっと二十。周辺に配置された機体を数えれば、百に届くだろう。

 水で編まれた剣を連想させる、流麗なシルエット。腕があり、脚がある、人型の兵器。唯一、カラーリングだけが違う。漂白されたような毒々しい純白だった。

 舞い散る光子は、重力場の座標を特定させるためのものだ。機構そのものが、複製されていた。


『……は。そういうことかよ。そりゃ船の防壁も抜けるわけだ。何たって同じ技術なんだからな』

『ジョゼフ』

『分かってる。敵がはっきりして何よりだ。それにな――』


 ジョゼフはブレードを構える。


『姿だけ真似ても、中身が同じってわけじゃねえ。機体の性能も、操縦者もだ。有象無象の複製品が、本当に俺らとやりあえるのかどうか、試してやるさ』

『……あんたって、馬鹿だよね』

『なにい』

『でも気持ちのいい馬鹿。最後に乗ってあげる。その世迷言に』

『へっ……』


 ジョゼフが鼻で笑うと、ミーティアも続いた。


『私も微力ながらお手伝いします』

『頼りにしてるぜ。……っと、はは』

『どうかされましたか?』

『いや、なんかさ、同じだなって思って』

『はい?』

『死んだら終わりだろ? なのに、ミーティアも戦うって言うんだからさ』

『皆さんの仲間ですから当然です』

『そうだな。俺らもお前も、エトナとエトラも、たぶん人間も、本質的にはなにも変わりゃしないんだな』


 ジョゼフの言葉に、ミーティアは答えなかった。ただ、微笑む気配だけが通信に乗って伝わってきた。

 ジョゼフの目の前で、複製されたデイトランサーが攻撃の態勢を取る。武装は標準的なライフルが二挺。ジョゼフの口元がつり上がる。


『行きますか』

『ええ』

『はい』


 三人は自ら、決死圏へと飛び込んだ。

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