01
・この作品はアナログハック・オープンリソース(http://www63.atwiki.jp/analoghack/)を使用しています。
・アナログハック・オープンリソース内の設定の独自解釈・改変・独自設定を含みます。
一人の少年が宇宙を見つめていた。
宇宙船【インビジブル】はそれほど広い船ではないが、メンバーの憩いの場となるテラスだけはそれなりの広さがあった。直方体のスペースで、正面の壁は全て透過素材でできていた。壁際には四季によって変化するホログラフが投影されていて、地球の季節で八月の今は、涼しげなオーシャンブルーの水のオブジェクトが投影されていた。
少年――ヨクト・ハーヴェイは地球の景色を思い出そうとした。だが電脳から引っ張り出した景色の全てが、この無限の暗闇の前では色褪せる。
前後左右、まったくの虚空。何もないのが当たり前の世界。大地に足をつけて暮らしていたころは絶対に分からなかったであろう孤独が、今目の前に広がっている。
それを見るたびに、ヨクトは自分たち人類がなんと矮小な存在なのだろうかと思うのだ。
「やっぱり、ここにいた」
通路から少女――ナナリー・フレッジが滑り込んできた。
小柄な、澄んだ雰囲気の少女だった。濡れたような光沢を持つ金髪が、肩の辺りで無重力に揺れている。地球の空を映したようなスカイブルーの瞳が、真っ直ぐにヨクトを見上げていた。
「呼んでくれれば良かったのに」
「急ぎじゃなかったから」
ナナリーは朗らかに言ってヨクトの隣に飛んでくる。天井の感圧摩擦素材に手をつけ、慣性をコントロール。ピタリとヨクトの隣で静止した。
ナナリーのスカイブルーの双眸が、無限に続く暗闇を映す。ナナリーはそのまましばらく黙ってから、心の声を零すように小さく呟いた。
「なんにもない」
ヨクトは口元に笑みを滲ませた。
「俺たちの居場所を作るために、これから頑張るんだろ」
「……うん」
ナナリーの呟きを最後に、ヨクトは宇宙から視線を切った。
ヨクトは視界に投影したパネルを操作して、壁の透過状態を元に戻す。周囲を彩っていたホログラフも一斉に消えた。
部屋はあっという間に殺風景になった。天井の発光素材が、白々と辺りを照らしていた。
「もう始まるんだろ。俺も行くよ」
ヨクトは天井を指で撫でて加速し、通路に向かった。ナナリーもそれに続いた。