第3話-生徒の闇と荻原の意外な働き-
遅くなってすみません。
教室では、黒板の前に荻原が立っている。
「今日は、幾何はやらない。」
教室内は荻原以外全くの無言。
「いじめてた奴ら、今日の放課後、職員室に来いよ。」
と言い残し、彼は去っていった。それを見た女子たちは、すぐさま集まり話し合いを始めた。その中で、一人が言う。工藤万莉である。
「どうする?荻原。やる?」
「いや、その前にまずは1人にしてやろうよ。始めは、こいつ。」
と答え、スマフォで写真(*)を見せているのは、石黒心愛。それを見た女子達は、にやついた。
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帰りのホームルームが終わった後の校門前。生徒達は次々と校舎から出てきて、話しながら家路についていく。その騒がしい校門の前で、ここ砕衆高校の教員達は毎日下校の時間に合わせて、朝にくじ引きで決めた当番教員が生徒達に挨拶をすることになっている。今日は結月がその当番になってしまっていた。
とはいえ、本当は最初にくじ引きで当番になったのは結月ではなかったのだ。最初は荻原が初めてのくじ引きで、悪運が強いのか当たってしまったのだった。荻原は、自分は元植木職人であっただけあって、こういう仕事は好きなのだ、と言っていた。
しかしそこへ来て、あの山澤の自殺である。今日、3年B組の担任である荻原はその件で放課後に話し合おうと教頭先生に呼ばれていた。荻原は挨拶の当番ではあったが、もちろん生徒の自殺の方が大事なことなので、担任に代わって、副担任の結月が挨拶をしていたのだ。
結月は面倒くさがりながらも、一生懸命に声を張ってほぼ一人一人に、さようなら、と言った。生徒達は結月の期待を破らなかった。先生の挨拶を無視したのだ。最初のころは結月も、これは人間としておかしいと思い、腹を立てたこともしばしばあったが、今はもう、これが当たり前と思っていた。
もちろん、内心はそれに慣れてしまった自分に怒っている。そして、この生徒達を何とかしたいと思っている。しかし、ほかの先生は全くそうは考えていないらしく、もうあきらめ、あきれ果てていた。結月は女性であったので、いくら大人とはいえ、この学校の凶暴な生徒達にはとても体格的にかなわない。そして、この学校の生徒は、変態なことが好きだ。結月はもちろん心も大人だったので、この生徒達の幼稚さにあきれていた。
さて、この学校の生徒(特に男子)は、思春期まっただ中である。この点はほかの学校も一緒だと思う。しかしこの男子たちの幼稚なところは、その変態なことを、隠さずに恥じらいなく、たとえ相手が目上であってもしている。また、この学校の生徒たちは、セクハラが好きだ。実際は違うのかもしれないが、少なくとも結月はそう考えていた。例えば、女性教師が転入してきた時だ。着任式であいさつをしたその女性教師は、あいさつ中に男子生徒に「よろしく、貧乳教師。」と言われ、その日に教師という職業を辞めた。
男子生徒にしてみればその言葉は少しけなすだけのものだったのかもしれない。しかし、それは女性にしてみれば最悪のいじめであった。その男子生徒の言葉は、その先生を痛めたのだ。
一方結月はどうか。(一見必要ないと思われるかもしれませんが、変態な方ではなく、第2章で非常に重要な役割を果たすものなので、ご了承ください。)結月は少なくともこの学校の生徒から見れば、とても貧乳である。それは自分でもわかっていたが、彼女はこの学校で何とかやっていられているのであまり気にしないでいた。
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その45分後の職員室。ここでは、体育教師の力固部出来太造が筋トレをやったり、音楽教師の雨内春が大音量でCDを聞いたりしている。荻原は席につき、パソコンをいじりながら、某ペットボトルジュース2L入を口をつけて一気飲みしている。
向かいには結月の席があるが、荻原の席と結月の席の間は結月側にたくさんの書類が積んであり、互いに姿を見ることはできない状態になっていた。
突然結月が立ち上がって、荻原にこう言い放った。
「ねぇ、何なんですか?あれ。あんなんで生徒達が改心すると思いますか?あれじゃあ長田先生と一緒です。」
荻原は、面食らった顔でこう言った。
「え、お前も…。」
「え、何ですか?何がお前もなんですか?」
と結月が言おうとするが、途中で背後に気配を感じ、振り返った。そこには琴長の姿があった。
「長田先生ではありません。ただの長田です、もう。」
「う、あぁ、はい…。」
それだけ言って、琴長は自分の席に行こうとした。が、琴長はふと荻原の席の立ち上がったままのパソコンを見て、笑顔になった。………そこに荻原の姿はなかったが。
「あれっ、荻原先生!荻原先生は⁉あれ?」
結月はが呆れ顔でそんなことを言っているのを見た琴長は、彼女にこう教えた。
「……そこまでのお困りものでもないようです…よ。ちょっと、結月先生、彼のパソコンを見てください。」
「えっ…」
結月は言われるままに荻原のパソコンを覘いた。画面には、“3年B組 いじめに関する状況報告と対応策”の文字と、たくさんの文。結月は驚いた。まさか彼がこんなに真面目田とは思わなかったのだ。
琴長は、自分の席に着いた。そして、こうつぶやいた。
「何かいいことが起きそうだ。」
後ろの窓には遅咲きの桜のつぼみがたくさんあった。
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その頃…。理事長室。理事長の斎藤が爪を噛んでいる。
「荻原悦郎…。邪魔だな……。」
後ろの窓にはもう花の散った桜があった………。
(*)…写真に何が写っていたかは、この先の物語で明らかとなります。今は明かしたくなかったので。
次回はほぼ生徒が出てきません。「キチの家」でのストーリーが大半になるやもしれません。ほかの話を書くほどの長い時間、親から離れることができればいいんだけどなぁ…。
まあ、これからもどうぞ読んでいって下さいネ(^^♪