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杖つくりのハイリンヒ  作者: 若月 幸仁
ニュメラスの泉
9/16

アッシュの次なる一手

 ニュメラスの森・・・・。

 別名旅人を食らう森・・・・。

 旅人は、ここを遠ざけ、入るのは、杖の材料を求める腕に覚えのある職人と、魔力を高めるため、修行をする人間だけだ。

 遠めに見ると分からなかったが、森の中は本当に薄暗く、迷うのも無理は無い。

 だが、地図の通りに行けば、とりあえず何とかなるらしい。それよりも重大なのは、森に住む、魔力を持った生物が襲ってくることだ・・・・。

「敵が襲ってきたら、私から離れるなよ? 少年」

 森に入る直前、ヒルデガルドはそう言った。

 ハイリンヒは頷き、森に入ったというわけだ。

 だが、入って一時間ほどで、二人は道に迷った。

「おかしいな、地図どおりに進んだはずなのだが・・・・」

 ヒルデガルドは、首を捻る。

「どうします? 一旦引き返しましょうか? 一応、目印として、木に印をつけてきたので、戻ることは可能です」

「いたし方ないな、戻るとしよう・・・・」

 そんなわけで、二人は、木に巻きつけた布を辿って、スタート地点に戻ろうとしたのだが・・・・。

「途切れてる・・・・」

 そう、木に付けた印がなくなっているのだ。

 大体十メートル行くごとに、布を木に巻きつけていたのだが・・・・。

「どうやら、またアッシュの仕業らしいな・・・・。狡猾な奴だ・・・・」

「何でここまで邪魔をするんでしょう? アッシュには、そんなに王子の杖を自分が作ることが魅力的に映るんでしょうか?」

「君は、欲が無いからね、きっと理解は出来ないだろうが、名声を得たいと思うのは、普通の人間なら誰でも思うことだ。特に、その味を一度知ったものはね・・・・。アッシュは、一度は、オーステンと並んだ杖つくりとして、名声を博していたんだが、その後スランプで、その名声を失ってしまった。ならば、周りを蹴落として・・・・。などと思うのは、自然な流れだろう?」

「なるほど・・・・」

 言っていることは理解できたが、共感は出来なかった。職人とは、名声を博することを目的として、物を作ってはならない、とは祖父の言葉だ。

 ただ、純粋に、職人として、作品を仕上げる。それが、至上の命題なのだ。

 そんな中、

「危ない!」

 ヒルデガルドが叫んだ。

 ハイリンヒは、ばっと後ろを振り向いた。

 巨木が倒れ、こちらに迫ってくる。

 身を交わすことを忘れ、棒立ちになる。

 ヒルデガルドが、ハイリンヒを突き飛ばした。

 巨木が倒れる音がした。

 ハイリンヒは、しばらくぼうっとして、そして、我に返った・・・・。

「大丈夫ですか? ヒルデガルドさん!」

 ヒルデガルドは、片腕を、巨木の枝によって切り裂かれていた。

 ハイリンヒは、辺りを見渡す。

 巨木のすぐ近くに、アッシュがいた。こちらを見て、すぐに走り出す・・・・。

 ハイリンヒは迷った後、ヒルデガルドの手当てを優先することに決めた。

「治癒魔法はあまり得意じゃないんです。痛かったらごめんなさい」

 そう言って、ハイリンヒは、ぶつぶつと呟き、ヒルデガルドの腕の傷をなぞった。

 気丈にも、ヒルデガルドは痛そうな顔を一つもしない。

 みるみる傷は治っていき、ハイリンヒは息をついた。

「これで、大丈夫でしょう。魔力を持った巨木でなくて良かったです。もし、魔力を持ったものに傷つけられたら、僕では治しようが無かったので」

「ああ、相当な治癒魔法使いでなければ、魔力によって傷つけられた傷は治せないらしいね?」

「そうです。なんでも、傷口に溜まった魔力が、治癒に使う魔力を阻害するんだとか・・・・」

 とにもかくにも、二人は助かったわけだが、

「これからどうしようか?」

 根本的な問題は解決していない・・・・。

「うーん、そうですねえ」

 ハイリンヒは唸った。

「精霊と会話でも出来ればいいんですけど、それは特殊な技能だしな・・・・」

 ぶつぶつと自問自答して、ハイリンヒは、思考喉つぼにはまっていく・・・・。

「暗くなってきた。とりあえず、テントを張って、休もう。歩き通しだし、疲れていては、良いアイデアも浮かばないだろう?」

「・・・・、そうですね」

 ハイリンヒはそれに頷き、二人は、テントを張り始めた・・・・。


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