陰謀
1
「見事なものだな」
ヒルデガルドが、思わず呟いていた。
ハイリンヒも同感だった。
四方を木に囲まれ、葉に太陽の光が射し込み、緑色の光が二人を包む、光を帯びた球体がそこら中に行きかっている。
中心には、それ自体が魔力を持つ、水が溢れ、銀色に輝いていた。
「あの、光る球体はなんだい?」
「魔光虫です。魔力を持った虫だそうですよ?」
「ほう、じゃあ、球体ではないのか?」
「はい、そうです」
二人は、しばし、この光景に見とれながら、忘我となって、その場に佇んでいた。
「ここまで来るのに、中々に骨が折れたね?」
「そうですね、前途多難です」
時は遡る・・・・。
二人は、馬に揺られ、魔力を持った木材を探すため、荒野を南下し、ニュメラスの泉に向かっていた。
「だが、何故、泉なんだい? 木ならどこにでも生えているじゃないか・・・・」
「ヒルデガルドさん、剣術の修行ばかりして、勉強を怠っていたんじゃありませんか? 普通の木材では、杖は作れません」
「そうなのか?」
ええ、と頷きながら、ハイリンヒは、講釈を始める。
「長い時間をかけて、少しずつ魔力がたまった、いわゆる、霊木や、先天的に魔力を持っている特殊な木など、そう言った木が必要なんです」
「なるほど、だが、何故泉なのだ?」
「ニュメラスの泉には、魔力がたまった水が満ちています。そして、木は、地面の水を吸い上げるわけなので・・・・」
「自然と魔力を帯びるというわけか・・・・」
「そうです」
ハイリンヒは頷き、ヒルデガルドのお腹の辺りに掴まりながら、頷いた。
「それに、ニュメラスの泉は特に、純度の高い魔力を持っているわけなので、あそこが特に、木材を手に入れるのに丁度いいんです」
「なるほど」
しきりに感動するヒルデガルドに、ハイリンヒは少し苦笑いしていた。
馬を走らせ、南へ・・・・。
とにかく走り出す。
そんな中・・・・・。
違う馬が、二人の乗る馬と併走していた。一頭二頭ではない・・・・。何頭もが・・・・。
その馬には、柄の悪そうな男たちが乗っていた。
ヒルデガルドは、馬を走らせるのをやめ、飛び降りると、剣を抜き放った。
「なんの積もりだ? 貴様達!」
ヒルデガルドの問いに、一人の男が笑って、答える。
「身包み置いていきな。死にたくなかったらな」
そして、馬から降り、剣を抜き放った。
十人近くの男たちがそれに習う。
そして、直後、戦いは始まった。
ヒルデガルどの剣が魔力を放ち、盗賊たちが飲み込まれた。
炎・・・・。
だが、ハイリンヒは、渋い顔をする。
「効かねえなあ]
炎が止んだ。だが、男たちは健在だった。
ヒルデガルドは、言葉を失う。
リーダーと思しき一人が、不敵に唇を歪めた。
「何故だ?」
ヒルデガルドが、ジリッと後退する。
「対抗魔法具・・・・。ですね?」
「良く知ってるな? 坊ちゃん?」
男が、嘲るような口調で言う。
盗賊たちは、赤い胸当てをしていた。
「対抗魔法具、それぞれの属性の魔法を防ぐために作られた。魔力が織り込まれた。宝具・・・・。貴方達のは、炎を防ぐための宝具
ですね? でも、それは、すごく希少なもので、値段も高い、その割りに実用性はないから、あまり普及はしてないはず。それをどこで手に入れたんですか?」
「さあ、適当に盗んだものだぜ?」
男は相変わらず嘲るような口調だった。
「さて、お前の魔法は、封じた。勝ち目はねえぞ? 身包み置いていきな!」
ヒルデガルドは、俯いた。
ハイリンヒが杖を持ち、前に進み出ようとする。だが、ヒルデガルドがそれを手で制した。
「君は、そこで見ていろ、少年、魔法が使えなくても、盗賊ごとき、敵じゃないさ」
顔を上げたヒルデガルドは、確かに笑っていた。
「ふん、魔法を封じられたお前に何が出来る?」
「勘違いするなよ、盗人風情が、私が魔法を封じられた程度で負けるとでも? 私が評価されているのは、魔法能力故ではない、むしろ、魔法は苦手なのだ。私が、女の身でありながら、王族親衛隊にいられるのは、単に・・・・」
直後、魔方陣が描かれた剣が閃いていた。
男の腕が、地面に落ち、鮮血が舞った・・・・。
「強いからだよ」
男は呻き、その場に崩れ落ち、転げまわった。
「さあ、来るがいい! 切り刻んでやろう!」
戦闘ではなかった・・・・。蹂躙だ・・・・。
盗賊たちは、一人、また一人と、殺されていく。
そして、最後の一人になったところで、ヒルデガルぢは、剣を引く。
だが、もう一度剣を突きつけ、
「誰が、お前たちを雇った?」
「な、んで?」
「都合が良すぎる。炎の魔法を得意とする私をピンポイントに狙った宝具・・・・。こんな荒野で、狙い済ましたように、私達に攻撃を仕掛ける・・・・。誰だ? 誰に命令された?」
「アッシュ=ハザード=レインだ・・・・」
「やはり・・・・」
ヒルデガルドは、剣を完全に引き、男に言う。
「行け!」
「は、はい!」
男が、逃げ出した。
「やっぱり、ですね・・・・」
「君も気付いていたか」
「ええ、都合が良すぎましたから」
「危険な旅になるぞ?」
二人は頷きあい、馬に乗り込んだ・・・・。
そして、荒野を進んでいく。