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旅立ち

 ハイリンヒは、王宮の広い部屋の一室で、ヒルデガルドを待っていた。

 必要な持ち物は、殆ど全て、王宮が用意してくれた。余分すぎるくらいだ。

 食料、衣服、テントや、料理道具まで・・・・。

 これなら、一ヶ月ほどの旅は出来るだろう・・・・。

 ハイリンヒは、ベッドに腰掛け、宙を見た。

 いつか、祖父を越えると誓った。

 その目標が、達成できるのだろうか?

 そのまま、寝転がる・・・・。そして、ベッドの側に置いた杖を引き寄せる。

 家から持ってきた祖父の杖・・・・。

 これを超える杖を、王子は求めている。

 今まで、自分は、それを超える杖は作れなかった・・・・。

 材料の質というハンデもあるにはあったが、最高の素材を手に入れたとしても、それを超えられるだろうか? 

 そんな事は、散々考えてきた・・・・。

 今は、やるか、やらないかだと考えている・・・・。

 あそこでくすぶっていても、恐らく永遠に目標は達成できない。

 怖かったのだ、旅に出て、材料を手に入れて、それでも、超えられなかったら、どうしよう? そんなふうに、心のそこで考えていた。

「少年、準備は出来たかな?」

 物思いに沈むハイリンヒ、ふと、そんな声が聞こえる。   

「はい、行きましょう」

 ハイリンヒは答えた。

 戸口に、ヒルデガルドが立っている。

 杖を取り、ハイリンヒは走り出した。

 

 王宮の馬小屋、沢山の馬が並び、その中に、赤いたてがみの馬が一頭いた。その前に、ハイリンヒと、ヒルデガルドがいる・・・・。

「僕、乗馬なんて出来ないですよ?」

 ハイリンヒは、困り果てた顔で、言っていた・・・・・。

「大丈夫だ、私に掴まっていればいい、おっと、馬の後ろには立つなよ? 蹴られるから」

 ヒルデガルドがにこりと柔らかに笑いながら、言った。

 思った以上に人を安心させる表情だった・・・・。

 ハイリンヒは、頷き、馬に近付いた。

 その時、

「ハイリンヒ殿! ハイリンヒ殿!」

 そんな声が聞こえた。

 声のしたほうを見ると、油まみれの中年の男がいた。

 確か、ヴォルフガングと言っただろうか?

 親しげな表情と、仕草で、息を弾ませながら、油まみれの中年の男が、ハイリンヒの前に来て、手を擦りながら、にこやかに言う。

「ハイリンヒ殿、ご機嫌麗しゅう」

「はい、えっと、ヴォルフガングさん、よろしくお願いします」

 ハイリンヒが、頭を下げると、

「私は、実は、オーステン殿とは知り合いだったのです、そのお孫さんに会えるとは光栄です。よく見ると、目元がそっくりですな」

 気持ちのいい笑顔を、顔一杯に広げながら、ヴォルフガングは言った。

「有難うございます」

 ハイリンヒは、本当に嬉しそうに頭を下げた。

「仲間内では、強力なライバルが現れた、と、噂しあってたのですよ? 負けるつもりはありませんが、頑張ってください!」

 ハイリンヒは頷く。

「それと、あの、アッシュ=ハザードという男には気をつけてください」

 ひそひそと、ハイリンヒに近寄りながら、ヴォルフガングが言った。

「あやつには、悪い噂が絶えないのです。良い杖を作るためなら、手段を選ばない、杖を作るため、家族を捨てて、旅に出て、妻の死後も、家に戻らなかったとか・・・・。その後も、一人娘をおいて、放浪の旅をしているとか・・・・。とにかく、あやつは手段を選ばないでしょう、道中、あやつにお気をつけて、まあ、杞憂であればいいのですが・・・・」

 無表情に馬に乗り込もうとする、アッシュ=ハザード=レインを横目に見ながら、ヴォルフガングは、「ではまた」、そう言いながら、歩きだした・・・・。

「さあ、行こうか? 少年」

 ヒルデガルドが言う。

 今度こそ、二人は出発した・・・・。


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