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杖つくりのハイリンヒ  作者: 若月 幸仁
杖つくりに舞い降りた仕事
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4

 ハイリンヒはため息をつき、背もたれの無い椅子に再びどさっと腰を下ろし、頭を抱えた。

 これが、重圧だ。

 祖父を尊敬し、絶対視する自分がいる。もう一方で、それを超えたいと渇望する自分がいる。

 だが、どうにもならないと、一つ目の感情は言ってくる。

 そうだ、どうにもならない、祖父は天才だった・・・・。

 だが、自分は・・・・。

 ため息をついた・・・・。

 頭を抱えたまま、物思いに耽る。

 そして、ふと、鍛冶場の隅に立てかけられた杖を見る。

 祖父の作ったものだ・・・・。

 その場所まで歩いていき、そっと手を伸ばして、取る。

「桜の木、芯に不死鳥の嘴、魔法石は銀色・・・・。色々な魔法に特化した、最高クラスの杖・・・・。最高クラスの・・・・」

 そう言えば、祖父は言っていた。

 出会いを大切にしなさい、出会いによって、磨かれるものもある。出会い、絆、友、恋人、それこそ、最高の宝なのだから。

 ハイリンヒは、その言葉だけは、理解できなかった。

 職人とは、孤独に耐え、一人で作品を完成させるものだ。

 そこに、他の人間が、助手を除くとしても、他の人間が関わる余地などない。

 子供心に、そう思っていた。

 もしも、これが祖父の言う出会いであるならば、試してみたい気もする。

 本当に、出会いが、杖つくりの技術を高めるのか?

 そんなふうに思っていたら、腹が鳴った。

 よく考えると、先ほど買った食糧は、まだカウンターに置いたままで、一口も味わっていない。

 そんなわけで、カウンターに戻り、食料を取ると、ハイリンヒはりんごをかじった。

 料理をする気は起きなかった。

 酸味のきいた甘い果実をほおばり、宙を見る。

 思えば、他の人間と接触する機会は、あまり無い・・・・。

 最初は、近所の人間が、父母を幼くして亡くし、やがて、祖父も亡くしたのに同情し、色んな手助けをしてくれた。

 だが、ハイリンヒには、それが余計なお世話だということが、やがて分かる。

 ハイリンヒは、一人である程度のことをこなすことが出来る。

 家事も、仕事も、一人でやっていける。

 隣人が、ハイリンヒの手助けをせず、一人の大人とみなすようになったのは、それからすぐのことだった。

 ハイリンヒは、仕事道具の槌に向かって手を伸ばした。

 その瞬間、槌が手に吸い込まれるようにやってくる。

 その槌には、魔法が施されており、ハイリンヒの意思で自由に操ることが出来る。他の道具の殆どもそのようになっていて、ハイリンヒが魔法を掛けたのだ。

 ハイリンヒは、槌を手で弄んでいた。

 それが、考え事をするときの彼の癖なのだ。

 夜になり、夜が更けて、また夜になり、夜が更け、まるで隼のように、時がたった。

 その間、ハイリンヒは、殆ど上の空だった。

 そして、ヒルデガルドの来訪を報せる声がした。

 ヒルデガルドその人の声で・・・・。


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