表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杖つくりのハイリンヒ  作者: 若月 幸仁
杖つくりに舞い降りた仕事
4/16

3

 ヒルデガルドは店に戻る途中、ハイリンヒを横目に見ながら、質問してみた。

「何故、私だと分かったんだい?」

「対抗魔法の使い方が、とてもスムーズだったので。魔法剣で対抗魔法を打つとなると、自分の剣の特性を理解していないと不可能です。あまりにも、自然に対抗魔法を使っていたので、もしかしてと思ったんです」

「納得だ、私は墓穴を掘っていたわけか・・・・」

 しみじみと、ため息をつき、ヒルデガルドは腕を組んだ。

「しかし、君は、魔法戦闘員向きだね?」

「何故です?」

 ハイリンヒが喜ぶどころか、少し不快そうに言ったので、ヒルデガルドは慌てて視線を宙に彷徨わせ、やがて、思いついたように言う。

「あんな棒切れで、私とやりあえるんだ。王族親衛隊にスカウトしてもいいくらいだと思ったのだが・・・・。何か、私、気に入らないことを言ったかな?」

「別に」

 ハイリンヒは、肩をすくめて、短く言った。

「そ、そうか」

 釈然としない表情のヒルデガルドだったが、やがて、ハイリンヒの鍛冶屋が見え、話題を変えるように「ああ、いい店だね?」などと、モダンにデザインされた。趣のある店構えを見て、言った。

「ええ、祖父がデザインした店ですから」

 ここへ来て、ハイリンヒの機嫌が急に良くなった。

「その祖父とは、もしかして、稀代の天才杖つくり、オーステンのことかい?」

「はい、そうです。祖父は多芸に秀でていました。僕も沢山のことを習ったし、いつか、祖父を色んな意味で超えるのが、僕の夢です」

 誇らしげに、店を見て、胸を張る。

 そんな少年の顔を見て、ヒルデガルドは、少し安堵する。

 何故か、さっきは不機嫌になっていたようだが、祖父の話を持ち出すと、どうやら、機嫌が直るらしいことを、ヒルデガルドは悟った。

 これなら、仕事の依頼を受けてくれるかもしれない。

 そう思い、ヒルデガルドは気付かれないようにほくそえんだ。

 二人は、店へと入り、ハイリンヒは掛札をそのままに、鍵をかけると、 鍛冶場に向かった。

 二人は、ハイリンヒを前に、ヒルデガルドを後ろにして、部屋に入る。

 ハイリンヒは、鍛冶場を見渡し、椅子を見止めると、手をかざした。

 その瞬間、椅子がハイリンヒの方に向かって飛んでくる。

 椅子がぶつかる前に、ハイリンヒは、腕を下に下ろした。 

 その瞬間、椅子が地面にコトン、という音を立てて着地した。

「どうぞ、座ってください」

 そう言いながら、ハイリンヒはもう一つの椅子を引き寄せる。

 ハイリンヒの椅子には背もたれが無く、ヒルデガルドの方にはある。些細なことだが、礼儀を示してくれたハイリンヒに少し恐縮し、ヒルデガルドは居心地悪そうに座った。

「それで、王族親衛隊が直々に僕に話したいことというのは何なんですか?」

 ハイリンヒは、部屋の隅に置いてあった、大きなポットのようなものを引き寄せた。

 ただし、普通のポットよりも、丸々としていて、鮮やかな緑色に染まっている。

「コップが必要ですね・・・・」

 ポットの取っ手を掴みながら、ハイリンヒは思い出したように言う。

 そして、部屋を見渡し、コップが無いのに気付くと、

「ああ、そうか、この間落として割ってしまったんだった。少し待っていてください?」

 そう言って、ポットのような物を椅子に置き、部屋を後にした。

 部屋の奥にある、もう一つの扉、恐らく、ハイリンヒの部屋があるその場所に・・・・。

 しばらくして、ハイリンヒは戻ってきた。二つの陶器製の容器を持って。

 ざらざらとしていそうな表面、奇妙な文字描かれている。

「その器は? 一体?」

 興味深そうな顔で、ヒルデガルドが立ち上がり、顔を近づける。

 すると、ハイリンヒは誇らしげに、

「ジャパンという国から祖父が持ってきたものです。ユノーミって言うらしいですよ」

「ほお、ジャパン製のものか」

 感心した声を出すヒルデガルドにハイリンヒは気をよくしながら、更にポットのようなものの取っ手を掴み。

「こっちは、やっぱり、ジャパン製で、キュースというらしいです」

「へえ、通りで色合いが独特だと思った。素晴らしきかな、ジャパンの技術」

「さあ、一杯どうぞ」

「これは済まない」

 そんなわけで和気あいあいな雰囲気で、二人はお茶に興じる。

「沸かしてないのに、暖かいな・・・・」

「温度は、状態保存呪文の魔方陣で保たれています」

 そう言って、湯のみを指し示す。

 確かに、赤く光る魔方陣が描かれている。

 しかし、

「見たことの無い魔方陣だな・・・・」

 またも、興味深そうに、顎に手を当てながら、ヒルデガルドはポットのようなものに顔を近づける。

 東洋風の文字で書かれた魔方陣だった。

「これは、漢字と言う東洋の文字で、雰囲気を損なわないために勉強したんですが、上手く魔方陣を組めてよかったです」

 満足気に、ハイリンヒは言う。

 そんな彼を見ながら、ヒルデガルドは、緑色のお茶をすすってみた。

「む、お茶も東洋のものかい?」

「はい、そうです。緑茶ですね」

 ハイリンヒもお茶をすすってみた。

「うん、状態保存呪文も効いているみたいですね」

 二人は、しばし、お茶を楽しみ、ふと、目が合った。

「それで、話というのは?」

 大分逸れた話を元に戻すべく、ハイリンヒはヒルデガルドの目を真っ直ぐ見据え、質問する。

「実は、今のこの国の王は若くして、治世に優れ、外交にも積極的なのだが、お身体が弱いのだ。だが、最近、その原因が分かった。過剰魔力保有暴発症なのだ。聞いたことはあるかな?」

 その言葉を聞いて、最早、ハイリンヒは話の趣旨を掴んでいた。

「はい、先天的に魔力が高すぎるために、魔力が身体の中で暴れ周り、身体能力や身体の諸機能を鈍らせ、時には体組織を破壊し、死に至らしめる・・・・。確か、その症状を取り除くためには、それ相応の力を持った、出力装置が必要だとか・・・・。つまり、例えば、強力な力を持った杖、とか・・・・。つまり、僕に」

「そうだ」

 ヒルデガルドは頷く、

「杖を作って欲しい」

「無理です」

 ハイリンヒは、即答した。

「何故?」

「僕の実力では、それほどの杖は作れません、それに、材料が無い。しかも、もし材料を集めるとしても、現地に行って、自分の目で材料を吟味する必要がある。危険です」

「それだよ!」

 パチンッとヒルデガルドが指を鳴らした。

「君の腕を試した! どれだけ、危険な旅になるかも分からない! だから、技術と、ある程度の力を持った職人が必要だったんだ! そして、君は申し分ない結果を出した。杖が砕けなければ。私は負けていた」

「まぐれです」

「違うね」

 即答した所、即答し返された。

「君は、間違いなく、戦闘員としても、十分な力を持っている。まぐれで勝てるほど、私はぬるい鍛え方はされていない」

「・・・・・、しかし、僕は・・・・」

 しばし、拳を握り締め、唇を噛み締め、俯く。

「祖父の足元にも及ばない、知ってますか? 先代の国王の杖を作ったのは、僕の祖父です」

「ああ、そして、先代の王も、過剰魔力保有暴発症だった」

「僕は、祖父を超えられていない。つまり、それ以上の杖は作れないということです」

「だが・・・、私は・・・・」

「少し、時間を下さい・・・・」

 ヒルデガルドを制し、立ち上がると、ハイリンヒは、後ろを向いた。

 無言で帰れと言われているのに気付き、ヒルデガルドは頷き、

「では、約束の二日後だ。それまでに決めておいてくれ」

 そう言って、その場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ