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杖つくりのハイリンヒ  作者: 若月 幸仁
ザックロング
14/16

  ヒルデガルドと、ハイリンヒは、森を出て、次に、魔法石の採れる山、ザックロング鉱山に向かった。

 森を出るときは、不思議なことに、ハープの音色が導いてくれたので、簡単に外に出ることが出来た。

 ハイリンヒは、その魔法の仕組みを分析していたが、分からずじまいだった。

 馬に揺られ、二人は荒野を駆けていた。

「妙ですよね?」

 ハイリンヒが言った。

「妙とは?」

「何で、アッシュは、森の側に置いていた馬に何もしなかったんでしょう?」

「それは、恐らく、王族親衛隊の馬だからだ。ちょっかいを出すと、すぐに私に知らされる。更に、触れたものを捕捉することができ、もちろん、他人に操られないように、訓練を積んでいるしね」

 なるほど、とハイリンヒは頷いた。

「まあ、この馬が使いものにならなくなることはほぼ無いよ。なあ? スレイブ?」

 ヒルデガルドは、馬の首の辺りを撫でた。

 馬は応えなかったが、微かに走る速度が速くなったように感じた。

 三日ほど馬を走らせ、その間二人は、夜の間は、別々のテントを張り、寝食の食だけを共にし、時間を過ごしていた。


そして、三日後、ザックロング鉱山にて、


 ザックロング鉱山には、大規模な魔法石の採掘場がある。

 大地に走る魔力が、集約される場所・・・・。

 東方では、龍脈と呼ばれるらしいが、それはさておくとして、二人はその場所にやってきたのである。

 働く採掘者がそこら中にいて、雑談をしたり、仕事に精を出したりしている。

 鉱山の中は、トンネルのように岩に囲まれ、そこら中に、光る石が顔を出している。

 そんな中、ハイリンヒは、一人の採掘者に話しかけた。

「すいません、銀色の石は、どこら辺で採れますか?」

「おお! 少年! 若いのに関心関心! 差し詰め、君は、杖つくりの見習いか?」

 髭もじゃの、たくましい体つきの男が、ハイリンヒの背中を叩き、豪快に笑った。

「はあ、まあ、そんなようなものです」

「そうか! そうか! よし! おじさんに付いて来い!」

 ハイリンヒは、長身の働く男と比べられ、更に小さく見えた。

 ヒルデガルドは、少し微笑ましい感情になり、「ふふ」と笑った。

 ハイリンヒは、そんなヒルデガルドを、見て、ジトッとした目になった。

「私も付いていって宜しいですかな?」

 そんな中、油まみれの、中年男の声が聞こえた。

「ヴォルフガングさん」 

 声の主を見て、ハイリンヒは顔をほころばせた。

 中年の男は、人の良さそうな笑みを浮かべながら、少し息を弾ませていた。

 その後ろには、何人もの付き人がいて、疲れた顔をしていた。

 ハイリンヒがちらっとそっちを見ると、ヴォルフガングも、そちらを見て、言う。

「ああ、彼らの事は気にせずに、皆、ここで休んでいて良いぞ! ここからは一人でいく!」

 すると、全員、安堵したような表情になった。

「がっはっは! 皆さん! ザックロング鉱山の名物! 男たちの汗と血の仕事でも観賞して、待っていてください!」

 髭もじゃの男が言う。

 そんな訳で、一行は、男に付いて行くのだった。


 男は、大きな声で説明していた。

「銀色の石は! 全ての属性の魔力が集まる場所にあるんですよ! 私は、魔法の仕組みをとかを知ってるわけじゃないですから詳しい事は、分からないですけどね、ここは、全部で五箇所に分けられ、その中で、赤、青、緑、黄、茶、の色の石を手に入れる場所は決まってるんでさあ! その中域に、銀色の石がある!」

 暑苦しく、男は熱弁を振るう。

「すいません、忘れてました。貴方のお名前はなんですか?」

「何でも! 魔力と魔力が混ざり合って! 全ての魔力に適応する、石を作り出すんだとか!」

「あの・・・、貴方のお名前は・・・・」

「銀色になる理由は諸説あるんですがね! 無属性を象徴する色になるために、銀になるとか! 属性のことは良く知りませんがね! 赤が、炎だって事ぐらいは知っていますよ! 他はしりませんが! ガッハッハッハ!」

「あの、お名前は・・・・」

「ここで働いている人数ですか! 千人はくだりませんよ! 全く素晴らしいでしょう!」

 ハイリンヒは、唖然とした。

 こんなに話を聞かない人間と接したのは初めてだった。

「あの! 貴方のお名前はなんですか!」

 遂に、苛立った声が出てしまった。

「ああ、私の名前かい? ゴーグだ! よろしく! 少年! そうかそうか! 自己紹介はまだでしたか! この機会に、全員名前を言ってください!」

「あ、僕はハイリンヒです」

「ヒルデガルドだ」

「ヴォルフガングです」

 そんな訳で、三人が自己紹介を終えると、ゴーグは、機嫌良さそうに頷き、

「そうですか! そうですか! じゃあ、自己紹介も済みましたし、行きましょう!」

 それからも、ゴーグの話は続き、三人は、辟易しながら、歩いていた。のだが、それも、しばらくの間だった。

 脂汗にまみれたヴォルフガングが、息を付きながら、へばっていた。

「大丈夫ですか? ヴォルフガングさん」

 ハイリンヒは、その背中に手を置き、ヴォルフガングを気遣った。

「いや、申し、訳ない、ハイリンヒ殿、先に、行って、くだ、さい」

 息も絶え絶えの中年の男に苦笑いしながら、ハイリンヒは、

「すいません、休憩にしませんか?」

「私は構わないが」

「そうだな! 少年! 立ち止まることも必要だ!」

 そう言って、二人は、足を止め、こちらへ向かってきた。

「いえ、わた、しの、ことは、お気になさらずに・・・・」

「でも・・・・」

「いいから、行ってください、しばらく休めば、大丈夫です」

「・・・・、わかりました」

 ハイリンヒは頷き、二人に目配せをすると、歩き出した。

「まあ、彼が言うのなら、その通りにしようか」

 そう言ってヒルデガルドは歩き出そうとした。

 しかし、

「危ない!」

 彼女が叫ぶ。

 落石・・・・。

 急に巨大な石が落ちてきた。

 その瞬間、ヒルデガルドが、ゴーグと、ハイリンヒを突き飛ばす。

 二人は、石から逃れ、代わりにヒルデガルドが、その下敷きとなった。

「ヒルデガルドさん!」

 ハイリンヒは唖然としながらも、冷静さは無くさずに、岩に向かって杖を取り、魔法を使った。

 岩を砕き、ヒルデガルドを開放する。

「大丈夫ですか? ヒルデガルドさん!」

 ヒルデガルドは、目を開けない。

「あ、あ、治癒魔法を! すぐに、治癒魔法を!」

 ヒルデガルドは、血にまみれていた。

 ハイリンヒは、魔力の循環の具合で、ヒルデガルドの身体を診た。

 魔力の流れが、それを教える。

(内臓は傷付いてない・・・・、でも、骨が何本か折れてる・・・・、何より出血が酷い、すぐに止血しないと!)

 ハイリンヒは、杖を使い、ぶつぶつと呪文を唱えた。

 白い光がヒルデガルドを包み、出血を抑える。

 傷口が塞がり、ヒルデガルドの荒い息が、安らかなものへと変わった。

「大丈夫ですか? ハイリンヒ殿!」

 ドスドスと、ヴォルフガングがこちらへ歩いてきた。

「ヴォルフガングさん! 骨折癒着の魔法を使えますか!?」

「残念ながら・・・・」

「そうですか・・・・、なら、どこかまともな治療が出来る場所に戻りましょう」

「よし! 俺に任せろ! 少年! 彼女は俺が運ぶ!」

「お願いします、ゴーグさん」

 ハイリンヒは、担ぎ上げられるヒルデガルドに魔法を掛けながら、走り出した。


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