感覚
5
ハイリンヒは、微かに光る木材を地面に並べ、表情を厳しくしながら、しばらく黙っていた。
「少年?」
ヒルデガルドがハイリンヒの顔を覗き込む。
「材質、手触り、何より魔力の放出の効率、過剰魔力保有暴発症の人間が使うならやっぱり、魔力の循環の効率に重点をおくべきです。そこで」
ハイリンヒは、ヒルデガルドを見て、
「魔力の放出を調べるためには、異なる魔力を同時に流して、木の光り具合をみればいいんです。ヒルデガルドさんは炎の魔法を得意としていたんですよね?」
ヒルデガルドは頷いた。
「なら、僕も炎の魔力を注ぎ込み、炎の魔力の光は赤いので、その光がもっとも強くなるものを選びます」
そう言って、ハイリンヒは一本目の枝を手に取り、ヒルデガルドに片一方を持つように促した。
ヒルデガルドは慌てて枝をつかみ、
「それじゃ、せーのでやろうか」
「はい」
二人は、一呼吸置き、
「せーの」
魔力を注ぎ込む。
その瞬間、枝が魔力を受け、輝いた。
淡い光・・・・。
「だめですね、次のに行きましょう」
「ああ」
その後も何度か試したが、ハイリンヒは納得していないようだった。
「ううん、一本くらい良いのが見つかると思ったんですけど・・・」
あごに手を当て、ハイリンヒはぶつぶつと何かを言っている。
「もう一度探してきます」
そう言って、ハイリンヒは走り出した。
「忙しないな」
ヒルデガルドは、そんなハイリンヒの背中を見て、呟いた。
ハイリンヒは、輝く森を歩き、辺りを見渡した。
全ての樹が薄く光を放っている。
ハイリンヒは側の木を触ってみた。
手触りが申し分ないものばかりだが、魔力の放出の側面から言えば、今一つだ。
「おじいちゃんはなんて言ってたっけ?」
ハイリンヒは、目を閉じ、記憶をまさぐってみた。
「おじいちゃん、どうやったら、おじいちゃんみたいな、杖つくりになれる?」
小さな男の子は、年老いた白髪の老人の膝の上にちょこんと乗り、尋ねた。
「そうだなあ、まずは、ものの良し悪しを見分ける能力かの」
小さな男の頭を撫で、
「こんな言葉がある」
老人は、宙を見上げた。
「人の感じる力は確かだし、正直だ。良いものには良いと感じるし、悪いものには悪いと感じる。なのに人がしばしば、過ちを侵すのは、良いと感じたものを悪いと思い込もうとしたり、悪い感じたものをよいと思い込もうとしたりするからだ。そして、そう言った判断を誤らせた原因は、見栄や欲や虚栄心といった己のおろかさから来る」
そして、少年の顔を見ながら、
「よいか、ハイリンヒ、自分を磨け、そして、自分の感覚を信じるのだ。きっと、道が開くはずだよ」
ハイリンヒは、少し不思議そうな顔をしたが、「うん!」と元気良く頷いた。
老人は笑って、ハイリンヒの頭を撫でる。
「感覚・・・・そうか!」
ハイリンヒは、目を閉じた。
地下の水脈に流れる魔力を感じ、それが集約される場所に向かう。
目を閉じたまま歩き出した。
木にぶつかったり、根っこにつまずくことは無かった。
魔力が流れている点を感じれば、どこに木があるのかを知ることが出来る。
しばらく歩き続け、ハイリンヒは、目を開けた。
そこには、巨木があった。
光り輝き、そこら中に魔光虫が飛び交っている。
光は、金色で、明滅している。
「すごい・・・・」
ハイリンヒは、呆然となって見とれていた。
本当に美しい。
だが、忘我となったのは一瞬だった。
ゆっくりと歩き、上を見上げる。
「届かないな・・・・」
ハイリンヒは、少し考え、杖を取り出した。
そして、一振りする。
その瞬間、枝が一本落ちてきた。
それをキャッチし、手触りを確かめる。
「うん、これはいい、きっと魔力の循環も申し分ないな」
ハイリンヒは満足げに枝を見て、歩き出した。
魔力の流れを辿って、元来た道を戻る。
その背中は弾んでいた。