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杖つくりのハイリンヒ  作者: 若月 幸仁
ニュメラスの泉
12/16

感覚

 ハイリンヒは、微かに光る木材を地面に並べ、表情を厳しくしながら、しばらく黙っていた。

「少年?」

 ヒルデガルドがハイリンヒの顔を覗き込む。

「材質、手触り、何より魔力の放出の効率、過剰魔力保有暴発症の人間が使うならやっぱり、魔力の循環の効率に重点をおくべきです。そこで」

 ハイリンヒは、ヒルデガルドを見て、

「魔力の放出を調べるためには、異なる魔力を同時に流して、木の光り具合をみればいいんです。ヒルデガルドさんは炎の魔法を得意としていたんですよね?」

 ヒルデガルドは頷いた。

「なら、僕も炎の魔力を注ぎ込み、炎の魔力の光は赤いので、その光がもっとも強くなるものを選びます」

 そう言って、ハイリンヒは一本目の枝を手に取り、ヒルデガルドに片一方を持つように促した。

 ヒルデガルドは慌てて枝をつかみ、

「それじゃ、せーのでやろうか」

「はい」

 二人は、一呼吸置き、

「せーの」

 魔力を注ぎ込む。

 その瞬間、枝が魔力を受け、輝いた。

 淡い光・・・・。

「だめですね、次のに行きましょう」

「ああ」

 その後も何度か試したが、ハイリンヒは納得していないようだった。

「ううん、一本くらい良いのが見つかると思ったんですけど・・・」

 あごに手を当て、ハイリンヒはぶつぶつと何かを言っている。

「もう一度探してきます」

 そう言って、ハイリンヒは走り出した。

「忙しないな」

 ヒルデガルドは、そんなハイリンヒの背中を見て、呟いた。


 ハイリンヒは、輝く森を歩き、辺りを見渡した。

 全ての樹が薄く光を放っている。

 ハイリンヒは側の木を触ってみた。

 手触りが申し分ないものばかりだが、魔力の放出の側面から言えば、今一つだ。

「おじいちゃんはなんて言ってたっけ?」

 ハイリンヒは、目を閉じ、記憶をまさぐってみた。

 


「おじいちゃん、どうやったら、おじいちゃんみたいな、杖つくりになれる?」

 小さな男の子は、年老いた白髪の老人の膝の上にちょこんと乗り、尋ねた。

「そうだなあ、まずは、ものの良し悪しを見分ける能力かの」

 小さな男の頭を撫で、

「こんな言葉がある」

 老人は、宙を見上げた。

「人の感じる力は確かだし、正直だ。良いものには良いと感じるし、悪いものには悪いと感じる。なのに人がしばしば、過ちを侵すのは、良いと感じたものを悪いと思い込もうとしたり、悪い感じたものをよいと思い込もうとしたりするからだ。そして、そう言った判断を誤らせた原因は、見栄や欲や虚栄心といった己のおろかさから来る」

 そして、少年の顔を見ながら、

「よいか、ハイリンヒ、自分を磨け、そして、自分の感覚を信じるのだ。きっと、道が開くはずだよ」

 ハイリンヒは、少し不思議そうな顔をしたが、「うん!」と元気良く頷いた。

 老人は笑って、ハイリンヒの頭を撫でる。

 

「感覚・・・・そうか!」

 ハイリンヒは、目を閉じた。

 地下の水脈に流れる魔力を感じ、それが集約される場所に向かう。

 目を閉じたまま歩き出した。

 木にぶつかったり、根っこにつまずくことは無かった。

 魔力が流れている点を感じれば、どこに木があるのかを知ることが出来る。

 しばらく歩き続け、ハイリンヒは、目を開けた。

 そこには、巨木があった。

 光り輝き、そこら中に魔光虫が飛び交っている。

 光は、金色で、明滅している。

「すごい・・・・」

 ハイリンヒは、呆然となって見とれていた。

 本当に美しい。

 だが、忘我となったのは一瞬だった。

 ゆっくりと歩き、上を見上げる。

「届かないな・・・・」

 ハイリンヒは、少し考え、杖を取り出した。

 そして、一振りする。

 その瞬間、枝が一本落ちてきた。

 それをキャッチし、手触りを確かめる。

「うん、これはいい、きっと魔力の循環も申し分ないな」

 ハイリンヒは満足げに枝を見て、歩き出した。

 魔力の流れを辿って、元来た道を戻る。

 その背中は弾んでいた。


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