表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杖つくりのハイリンヒ  作者: 若月 幸仁
ニュメラスの泉
10/16

吟遊詩人クルト

 ハープの音が聞こえた。そして、歌も・・・・。

 ヒルデガルドとは別のテントに入ったハイリンヒは、その音で眼を覚ました。

 そして、テントから這い出し、辺りを見渡す。

 光が射し込み、木漏れ日がまぶしい。

 木々は風にざわめき、まるで、話をしているようだ。

 そして、大きな木の根元に、ハープで曲を奏でる男がいた。

 その近くには、小動物たちが群がり、その音色に聞き入っていた。

 ポロン、ポロンと音がする・・・・。

 そして、男は歌い始めた。

 長い金髪を揺らし、女性と見紛うよう顔に笑みを浮かべながら・・・・。

 綺麗な音色だった・・・・・。

 思わず、ハイリンヒもその曲に聞き入る。

 いつの間にやら、ヒルデガルドも、ハイリンヒの隣で、その曲に聞き入っていた。

 しばらくして、曲は終わり、男は、ハイリンヒとヒルデガルドを交互に見た。

「やあ、迷える旅人よ、私は吟遊詩人クルトだ。この森で迷った旅人に道を示す役目をしている。君たちに道を示そう」

 そう言って、クルトは動物達を見て、

「今日はこれでおしまいだ。みんなお帰り」

 そう言った。

 動物達は、一斉に逃げるようにどこかへ去っていく・・・・。

「あの、道を教えてくれるんですか?」

「そうだとも」

 クルトは頷いた。

「だが、その前に、君たちに物語を一つ、あまり時間は取らせない。道を教える代金だと思って、時間をくれないかな?」

 ハイリンヒとヒルデガルドの二人は、顔を見合わせた。

「しかし、我々には時間が・・・・」

「いや、聞きましょう、ヒルデガルドさん」

「君がそう言うのなら・・・・」

 ハイリンヒの言葉に逡巡していたヒルデガルドだったが、渋々、それに従った。

「ありがとう、では、話そうかな」

 クルトは、ハープをもう一度ポロンと鳴らし、話始めた。



 むかし、むかしのこと、稀代の悪の魔法使いがいました。

 魔法使いは物凄い魔力を持ち、誰もかなわないほどの実力をもった人物です。

 しかし、それでも、魔法使いは満足しませんでした。

 これまた、稀代の天才と謡われた杖つくりの元を訪れ、言いました。

「私に相応しい、強力な杖を作ってほしい」

 しかし、もちろん、正義感が強かった杖つくりは、首を振りました。

 すると、魔法使いはニヤッと笑って、賢者の石と、非情に強力な力を持ったドラゴン、ルシフェラスの角の一部、そして、この世界の中心に生えているという世界樹の枝を差し出しました。

 すると、杖つくりは、それに抗しがたい魅力を感じたのです。

 これがあれば、世界を震撼させるほどの力を、この魔法使いに与えることになります。

 しかし、それは杖つくりとしての、ある意味では達成点でもありました。

 そう、杖つくりの最大の目的とは、絶対無敵の杖を作ることなのですから。

 魔法使いは、杖の材料を置き、その場を去り、

「二日後に返事を待つ」

 そう言って、去りました。

 杖つくりは悩みました。

 悩みぬきました。

 そして、とうとう二日後、魔法使いに承諾の返事を出したのです。

 魔法使いの狙い通りでした。

 三日三晩、杖つくりは作業に没頭しました。

 最高の技術をもって、最高の集中力を持って、杖を完成させていきました。

 そして、完成した杖を、魔法使いに渡したのです。

 その瞬間から、更なる悲劇は起きました。

 沢山の人々が、炎に包まれ、水に押し流され、稲妻に打たれ、風に飛ばされ、地割れに飲み込まれ、死にました。

 もちろん、これは、最強の杖を手にした魔法使いの仕業です。

 杖つくりは、自分のやってしまった事を悔い、罪の意識に苛まれ、やがて、子供を残して、自害しました。

 魔法使いの暴虐に見かねた、今まで戦争状態にあった炎の国、水の国、雷の国、風の国、大地の国が一時的に手を結び、魔法使いと戦いました。

 壮絶な戦いです。

 魔法使いは、竜を呼び出し、逆巻く炎を兵士達に吐き出させ、一掃しようとしました。

 それを、水の国の王が、水の壁を作って、阻みます。

 次に、魔法使いは稲妻を呼び寄せました。

 雷雲から雷が降り注ぎ、水の王を捉えようとします。

 その時、大地の国の王が、地面を盛り上がらせ、水の王を包み、雷を阻みました。

 怒った魔法使いは、風を唸らせ、炎を呼び、地割れを起こし、洪水を引き起こしました。

 戦いはいよいよ激しくなり、兵士達を全て撤退させ、五人の王が、魔法使いと対決しました。

 炎の王が、火球を飛ばし、水の王が、水流を当て、雷の王が、電撃を浴びせ、風の王が嵐を巻き起こし、大地の王が地面を盛り上がらせ、下から魔法使いを狙います。

 壮絶な戦いの末、魔法使いは倒れ、静寂が訪れました。

 五人の王は、肩を叩きあい、喜びました。

 そして、今までいがみあっていたことを恥じ、互いに頭を下げたのです。

 そんな中、炎の王が提案します。

「こんな悲劇が繰り返されぬよう、この杖を五つに砕き、一つ一つをその国が管理することにしよう。これは、我々が平和を掴み取った証だ」

 他の王たちは賛成し、杖を砕き、それぞれ自分の国へ持ち帰りました。

 魔法使いは悠久の眠りに落ち、王たちは、それから戦争をすることなく、以後、平和な日々が続きましたとさ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ