九話
※九話が消滅して十話が重複して上がっていることがありました。
この作者の失態についてお詫び申し上げます。
華琳SIDE
軍師候補と官僚たちを新しく補強した我軍は一時的に危機に陥っていた内政処理をなんとか円滑に動かすことができるようになった。三ヶ月ほどが過ぎて戦後処理をなんとか済ませると、今後の方針について私たちには大きくして二つに分かれた。
一つは内側をさらに強くすること。国を豊かにしていくことは以後の戦争で補給や兵の質、軍の評判などに大きく関わる重要な問題だった。が、陳留という都市は中原の中心部といえる位置にあるとしても既にその発展の余地を限界まで尽くしていた。これ以上陳留でこの軍を成長させることは難しいと桂花は進言した。となると、今後のためにも我々には新しい居城が必要だった。だけど兗州には陳留以上の大都市に育つような都市はない。司隷は今やほぼ不毛の地とも言えるし、何よりも漢の首都である洛陽は言わずも判るように廃墟になっていた。これらを再建するとしても何年かかるか判らない。そんな悠長に首都を再建できるまで待つ余裕が今はなかった。
次に案として浮かぶのは更に西にある長安だった。長安は本来董卓の領だったものの、今は西涼の馬騰が管理している。事実上長安も管轄地の切り分けにおいては司隷なので我々の城だった。が、洛陽を廃墟となってる現在長安まで管理することは不可能だったので馬騰に管理をさせている所だった。が、名目上長安は皇帝陛下を擁立している私にその正当な所有権がある城だった。
また考えられるのは南にある都市許昌だった。ここは陳留とも近く、豫州に属しては居るものの袁術はここをあまり気にしていないのでいざとなったらここの城主をこちらに付けさせることは造作もなかった。
内政の方針は許昌を得つつ、時を見て洛陽を復興させ、司隷を事実上に治められるようにしようという方向に進んだ。
もう一つ軍に置いて大きな方針は次に目標とする地をどこに定めるかであった。
「河北の覇者になれたはずの袁紹が死んだ今河北混沌そのものです。今我々が河北に攻め入れば河北制覇もあっという間です。中原と河北を手にすれば天下のどの諸侯でも華琳さまの前に敵う者はありません。天下を手に入れたも同然です」
河北を攻め入るべきと熱く主張しているのは稟こと郭嘉だった。
「河北には劉備が居るわ。劉備はそう簡単な相手じゃない」
「だからこそ今が攻め入る時です。一度あの劉玄徳が河北を制覇してしまえば河北を手に入れることは十年先になってしまうでしょう」
桂花が言った通り、劉備が並の諸侯とは違う。それこそ一刀が私以外に唯一認めた天下の英雄であったから。一時は私よりも興味のある英雄と言っていたあの娘が河北三州を手に入れれば、私の覇業に大きな壁になることは間違いない。少なくとも麗羽が河北を制覇すると想定していた時よりは何倍も難しくなる。
「河北はその地こそは豊かであるかもしれないけど、今の情勢はめちゃくちゃよ。袁家の残党たちが河北のあっちこっちで盗賊と化して混乱を巻き起こしているわ。劉備もあいつらに手間取っているしね。そんな河北を今手に入れるとしても完全に制圧するにはもっと時間がかかるはずよ。むしろ華琳さまの覇業が遅れたりしたらどうするつもり?」
「くっ、なら桂花はただこの場に居座って他の諸侯たちが自分たちの勢力を広げてる様子を待っていようというのですか?」
「そうは言ってないでしょう!」
「二人とも静かになさい」
少し熱くなりすぎないように私が二人の論議の間に入った。朝議中に殿内で高声が渡るとどうも頭が痛い。しばらく頭痛を感じてないせいか、前の薬をやめた後はもっと酷くなってきた気がした。
「…風、あなたはどう思うかしら。……風?」
口論していた桂花ではなくあえて風こと程昱に尋ねたのは少し熱くなっている稟と桂花の気分を和らげるためであった。が、
「風?」
「…ぐぅ」
「起きろ!」
桂花が頭を叩くと居眠りしていた風が「おぉっ!」とわざとらしい悲鳴をあげながら目を開けた。
「ぅぅ…もっと優しく起こしてほしいのですよ。できれば甘い口つけで…」
「するか!」
「まあ、風もそっちの趣向はないので願い下げですが」
「なんで言った!」
「おはよう、風。で、あなたは今後私たちがどう動くべきだと思うかしら」
「そうですね…というのも、ある意味次に戦うべき相手は一目瞭然ではないかと」
「あなたもそう思いますよね、風?」
『いやいや、今河北はねーよ。あんな不良債権買い取ってどうするつもりだい?』
「不良?!」
……債権?
「確か桂花ちゃんは許昌に遷都すべきだと言ってましたよね。だけど許昌は名目上は袁術の領。こちらが許昌の方に目を光らせているとさすがの袁術もただ座っているはずはありません」
「確かに、許昌を欲するならいずれにせよ袁術との戦闘は避けられないわね」
「というわけですから、いっそ先に袁術を攻めてしまって綺麗さっぱりした気分で許昌を食べてしまいましょう。他の豫州の地は、まあオマケみたいなもんと思えばいいのです」
風は豫州を攻めようと言った。
確かに豫州全体を取るというのも魅力的な提案ではあった。
「豫州も不良債権なのは一緒よ。あそこも袁紹と同じで袁術が民の面倒なんてまったく気にしないし蜂蜜は欲しがるしで物価も沸騰して民からたかる税もとんでもない。得てもまず救民活動に入らなければならないわ」
「もともと許昌を大都市に育つ計画があったのですからそれにもう少し盛るぐらいの感覚ですよ」
「そう安易に予算を算定したらあっという間に国庫が空になるわよ」
「さっきからあっちもダメこっちもダメ言ってますけど、じゃあ桂花はどこを狙うべきだと思っているのですか」
「良い?要は今取ってすぐに戦力として使える地を手に入れることが大事よ。となると一つしかないでしょう?徐州よ」
徐州はその位置関係上経済の中心地だった。特に黄巾の乱でも他に比べて被害が少なかった徐州は今や天下で最も豊かな場所と言っても過言ではなかった。…いや、正確には豊かで「あるべき場所」という表現が正しいけど。
他の州と比べ割りと乱世の渦から離れていた徐州は被害そのものは少ないものの、その分が官吏たちの腐敗度も凄まじかった。それに徐州州牧である陶謙はもう年でとてもそういう不正を捕らえて罰せるほどの力が残っていない。そんな状況でも州の算出は一刀が来る前の兗州ぐらいなのだからすごいと言えた。最悪の腐敗の中でも経済状況だけ見ると周りの州より良かったってわけだ。
まあ、周りというのが民のほぼ全部が黄巾賊と化してた青州と袁家の二人なのだから比較対象が間違っている気もしなくはないけれど…。
「徐州の美味しいところは経済の部分だけではないわ。徐州には民を顧みない官吏と朝廷に呆れて在野から出ない才人も多く居るらしいわ。彼らを我軍に加えれば我軍の国力は一気に上昇するわ」
実際桂花は長い間この問題について考えていたらしい。徐州は多方面において先に手に入れる者に天下への道を進むに有利な条件を与えてくれるでしょう。
「華琳さま、徐州を手に入れるべきです。既に徐州の有力者たちと話を通しています。現在の陶謙の悪政に不満を持つ徐州の商人勢力の協力を得れば損害なく徐州を手にすることが出来ます」
「この状況では確かに他の諸侯たちが動く前に徐州を頂くのが良いかもしれませんね」
が、一つ問題があった。
……。
「一刀はどこ?」
「はい?」
「一刀よ。朝議に来ていないの?」
最近はちゃんと参加していると思えば今日は来ていない。補佐の愛理も来ていないし。
「アイツ、最近大人しいと思っていたら、華琳さま、私が取っ捕まえてきます!」
「待ちなさい、春蘭。どこに居るかも知らないのにどこへ行くつもりよ」
他に居場所を知ってそうな人は…流琉はここに居ないし、
「凪、一刀を知らないかしら」
「……」
「な、なぎちゃん?よばれてるよ(小声)」
「ん…ぅ?」
あの娘は本当に寝てるし。
「ごめん、華琳さま、凪ったら最近徹夜だから寝不足なの」
「徹夜って、何をしているの」
「最近陳留の人口がまた増えたせいで揉め事が増えてるの。だから報告書とかも増えてきて、それを全部目を通すと言って寝なさいって言っても聞かなくて…」
どこまでも真面目な娘ね。一刀が任せたから無理してるのかしら。後で一言いっておかないと…。
「そういえば、真桜も居ないわね。今どこに居るの?」
「実はね。多分隊長って真桜と一緒に居ると思うの」
「真桜と?」
それはまた珍しい組み合わせだった。
一刀の感覚だと真桜と沙和は基本的に凪についてきたオマケみたいなものだったからあまり何をしようが興味ないって様子だったけど…。
「二人でいったい何をしているのかしら」
「ひっ!あ、あの、沙和もよく判らないけど、なんか真桜が隊長に勉強教わってるみたいなの」
「勉強…?」
「何それ、アイツが真桜に軍略でも教えるというの?」
真桜は将とは言ってもどっちかと言うと工人という感じだった。真桜が発案して軍で開発している道具や兵器もいくらかあった。
「とにかく、真桜と一刀をここに呼んできなさい。場所は判るの?」
「多分警備隊本部に居ると思うから今から連れてくるの。ほら、凪ちゃんも一緒に行くの」
「…ぅ?…はっ!何だ!事件か!」
「寝ぼけたこと言ってないで早く行くの!もう!」
寝ぼけて叫びだす凪を恥ずかしながら引っ張り出す沙和だあった。
※ ※ ※
<pf>
そして沙和と凪は一刀と真桜を連れて帰ってきたのだった。
「…ぅぁあ…」
「…真桜?」
なんか、生きてる感じがしないんだけど。ちょっと口からなんか出てきそうだというか、目も死んでて口からなんか人の声ではない何かを発してる。朝に埋めた屍がその夜に這い上がってきたらこんな感じかしら。
「一刀、知りたくないと思いつつも一応聞いてみるわ。真桜に何をしたの?」
「ちょっとした注入式教育だ。韓国ではよくある教習方法らしい」
どんな国かは知らないけど習う者をこんな風にする教え方はきっと間違ってるわ。
「真桜に何を教えていたのかしら」
「ちょっと物理学…に入る前ためのちょっとした算数だ」
算数をどう教えたら人がああなるのかしら。
「李典、おい、もう目を覚ませ」
「はっ!sin(A+B)=sinAcosB+cosAsinB」
へ?何?
「はっ!ここは誰?ウチはどこ?」
「教育の成果はあるようだな」
「よくわからないけど今後はやめておきなさい」
あまりにも酷い様に彼を何故彼をこの場に呼んだかと後悔しそうになった。
実際は彼だけが頼りだったから呼んだのに。
「…元直が見えないな」
「あんたの補佐でしょう?なんで知らないのよ」
「俺が来れないから代わりに立つように言ったのだが…お前が怖くて来なかったようだな」
「あの…ここに居ましゅ」
「ん?」
その時誰も気にもしなかった殿の奥側にある柱の後ろから愛理がひょこっと顔を出した。あんな遠くに隠れていたら気づくはずもなかった。
「…まあ、怖いと言って逃げていない点を評価しよう」
「あんたってあの娘にだけは甘いよね。同じ党だからって」
「党ってなんだ」
「甘党」
「…」
遠くの柱からとてとてと走ってきた愛理はより近くにある一刀という柱に隠れて私の顔をひょこっと覗いた。
「…怒ってないから普通に立ってなさいな」
むしろ女相手にアレだけ怖がられたことがないから本当に傷つく。
…いや、そうでもないか。
「で、華琳。お前が俺を呼んだ理由だが…元直」
「あう…あの…一刀様が来ましたから私はもう言う必要ないんじゃ…」
「予行練習だ。いつまでも甘くみてやると思うな」
「ひぃ……」
頭の帽子を抑えながら震えていた愛理は懐から紙の巻物を取り出して開いた。
「え、えっと…内政においては洛陽の復興を鑑みる前にまず許昌を得て中原制覇への足がかりにすべきである。長安は遠く廃墟の洛陽のせいで連携が行かないので特殊な状況でないと利用が難しく、陳留は元々のさ…さいず?が小さいので今からの戦争を支えるには限界がある」
さいずという言葉について稟と風が疑問符を出したが、一刀から授かったらしい巻物にはほぼ私たちが話した内容が書いてあった。
愛理は続けて文を読み上げた。
「ただし、中原制覇の前にまず西涼を手に入れるべきである」
「西涼?」
「どういうことですか」
「西涼は廃墟になった都より更に西、今長安を収めている馬騰と西涼連合の領よ。そんな遠くにまで軍を動かす余裕なんてないわ」
「中原の戦いは主に歩兵中心の戦いになることが多い。騎兵は比較的に数が少ない。白兵戦ばかりの戦争で中原を得ても結局の所自分が得る分を減らせているばかり。それでは河北や江東を同時に相手するかもしれない状況に対応できない。なのでまずは西涼の騎兵を手に入れてそれから速戦即決で中原、そして荊州を手に入れる。荊州は戦略的要地でありながら中原の軍が江東を手に入れるために必要不可欠な地である。」
「河北は放っておくというのですか」
「一度徐州及び中原を制覇すれば河北は南に行く道に蓋をされることになる。幾ら河北が人口及び経済的に盛んだとは言っても中原と荊州を合わせたものには及ばない」
一刀は一言も話さず愛理が他の軍師三人と話している様子を見ていた。
最近すっかり大人しくて忘れてたわ。彼ってこういうのを楽しむ奴だった。
「後……あ、あの…一刀様」
「どうした?読むだけだぞ?お前の意見を言えというつもりはない」
「でも…うぅ……」
何か愛理が困った顔で一刀を見上げたが彼は容赦がなかった。
「ここに河北を攻めるべきだと言った者が居ないことを祈るがもしいたらちょっと前に出てほしい」
「は?」
稟が文を読んでいる愛理にしたがって彼女の前に立つと、
「う、うぅ……」
「なんですか。人を呼んでおいて」
「こ、こ…このボンコツ野郎そんなに河北が欲しければお前一人槍持って呂布相手に『我こそが真の天下無双なり!』と千回行って来い!」
「は?!」
「ちょっと忘れてる奴らが居るかもしれないから言っておく。今劉備軍の将の質は想像を越える。関雲長に張翼徳、趙子龍に加え呂奉先まで加わった。どいつも一流の猛将でそいつらを支える軍師も尚一流ばかり。それに比べてこの軍の現在戦力は…」
春蘭と霞。
劉備軍第一軍の猛将たちに並ぶ武を持ったのはこの二人ぐらいでしょう。季衣は連合軍の時に張飛と戦う機会があったそうだけどその実力な差は歴然だったと春蘭は評価した。流琉が居るとしてもおそらく及ばなかっただろう。軍師に関しては押されているとは思わない。今回新しく加わった軍師たちはどれも天下一といえるほどの優秀な人材ばかりだった。が、武将の問題になると押され気味なのは確かだった。
「だからあなたは、今我々が劉備とぶつかると負けると言うのですか?」
「そうだ」
「なっ!」
あまりにもあっさりと肯定したので、抗議していた稟だけではなく、私を含めたその場の全員が驚きを隠せなかった。
「今この軍の戦力は…正直に言ってちゃんと整っていない。今は河北が忙しいから最初のところは戦って勝てるかもしれない。だが劉備軍が本格的に戦線を張って戦いが始まると将の質で我々が不利だ」
「貴様は我軍の精兵たちがあの甘ったれた劉備軍の兵に遅れを取るというのか」
「劉備軍の兵は確かにその多くが元袁紹軍の兵だ。兵の質が劣ると思うのも無理ではない。だが今劉備軍は戦争を続けていることを忘れるな。実践を兼ねながら激しい訓練をするのとただ訓練するのとは訳が違うというのは元譲、お前もよくわかっているはずだ」
「む…」
「河北が簡単に手に入ることはその支配者が袁紹だった場合だ。功を焦るのは勝手だが軍全体を傾けさせるような無責任な言葉を口走るつもりならさっき言った通り一人でやれ」
「っ…戦ってもいないのに負けると恐れるのは臆病者のすることです」
「相手の力量を見ずに自分が強いとばかり思い込んでるのは愚か者である証拠だ。最も…今の劉備軍に居るようにしたのはこの俺であることを忘れないことだ」
その言葉を一刀が言うと更に場の空気が重くなる。
「今劉備軍を甘く見ているということはつまり俺を甘く見ているということに等しい。まだそんな頭の弱そうな考えをしている奴がこの軍に居るとは思えないが念のためにもう一度はっきりしておく
天下を得るより俺を得る方が困難だ」
…そういえば陳留で最初に広まった噂だった。誰が最初に言ったかは知らないけど……。
彼を掴んだ者が天下を掴む。
「…元直、続きだ」
「あ、はい…えっと…袁術を打つべきだと言った者が居るだろうと思うが、袁術は特にこちらから潰さなくても潰してくれる相手が居る。しかもその相手は袁術を潰しても豫州をすべて収める力がないので袁術が潰された後許昌みたいな遠い地にまで文句をつけて来れる立場ではない」
袁術を潰す相手というのはおそらく孫策のことだろう。今は袁術の下にいるけど力が溜まったらいつでもその母より受け継いだ虎の牙で袁術の首筋を噛み切る。
「そして、徐州を攻めると言った桂花…さまはちょっと前に出てきてくださるとありがたいんですが…」
「…なんで私だけ指名なのよ。その娘が必要以上に畏まってるじゃない」
と文句を言いつつ素直に前に出る桂花が可愛かった。
そしてその前に出た桂花を見て少し震えながら愛理は片手を桂花の頭の方に伸ばした。そして頭巾越しで桂花の頭を撫でるのだった。
「なっ」
「ええっと、頭の撫でながら言う。徐州は今すぐにでも欲しい所なのは正しい。これはあくまでも主観的な問題なので間違ったというわけではない。寧ろ主君想いなお前の方がより正しい判断をしているのかもしれない」
「…あ」
何故か怒ることなくそのまま愛理に頭を撫でられていた桂花の視線に一刀が入った。
「…これ、あんたがやってたら絶対殺してたわ。天下の端にまでも追いかけて殺してた」
「だから元直に任せただろ」
「そんな風に思わないで。あんたの代わりにやってると考えると代わりにこいつ殺したくなるから」
「あうぅ!?」
それを聞いてびっくりして手を離す愛理だったけど、
「ああ、大丈夫。殺さないから」
「ぅ…ほんとですか?」
「ほんとよ」
「じゃ、じゃあ……」
とそっと桂花の頭をまた撫で始める愛理だった。いや、もう撫でる必要ないでしょう?なんであなたは黙って撫でられ続けてるのかしら、桂花?何あの変な光景?とりあえず妬けるから桂花は後で閨に呼ぶことにしましょう。
「とまぁ、そういうわけだ。西涼か、徐州か。好きな方を選べ」
一通りの(一刀に代わって愛理によった)茶番が終わった後、一刀は玉座の私を見ながら言った。
選択肢を与えているように言っているけど、実際のところ、これが選択肢であったなら私が彼を呼んでいない。
「桂花、馬騰についての情報はあれ以来届いているかしら」
「病が好転されたという噂が広まっているようですが、実際の所はわかりません。ただ連合を保つための嘘である可能性もあります」
「そう。もし馬騰の病が悪化していると言うのなら、これが馬騰と戦える最後の機会になるかもしれないわ」
馬騰には持病があった。五胡との戦いで五胡が使う毒にやられただの、とある妖術師に命を狙われて呪いをかけられただのいろんな噂があったが、馬騰が原因不明の病で西涼から出られない身だった。かの華陀も彼女の病はどうにも出来ないという不治の病。
だが数年前に会った時にも彼女にそんな病はなかった。元々彼女は五胡との戦いが日常のように広げられる涼州の盟主でなかなか中原で見れる英雄ではなかった。それが突然病にかかったと言う噂が流れたのだった。それは黄巾の乱が起きる前、一刀が来る更に前…そう、あの事件が起きた直後だった。
だからこそ私はもう一度馬騰に合わなければならなかった。あの時の悪縁を整理する機会は、これが最後になるかもしれない。
「決めたわ。我々の今後の目標は……」
※ ※ ※
<pf>
桂花SIDE
「どうしてあんなまどろっこしい方法を使ったのよ」
長い軍議が終わった後、私はアイツを呼び止めて二人だけで話せるような場所に行った。
「…俺がいつは何の理由もなく変なことをやったか」
「………」
「ちょっとした実験だ。俺が直接歴史に関わることをこの世界が嫌うのなら迂回してでも関わる方法を探さないとな」
「それを判ってるぐらいなら大人しく言うことに従っていれば?」
「その時は別にお前に殺されても俺も文句が言えなくなるな。俺の存在価値が皆無になるわけだからな。寧ろが害悪だな」
自分の存在が軍に害悪になるという自覚はあるようね。
「で、試した見た所、どうなの?」
「…別に異変はないな。それとも俺が変えたのではなく、本人が元々そのつもりだったから問題がなかったのかもしれない」
「でも、どうして西涼が選ばれたの?私には理解できないわ。徐州と西涼を比べる価値すらないじゃない。徐州を取るべきだったわ」
「お前の主君が間違った選択をしたと言っているのか。俺の意見だからといって彼女の目が眩んであんな決定をしたと?」
「そうは言わないわよ!何なの?何か私が知らない何かがあるのよ!どうしてあんたは知っているのに私は知らないことがあるの?」
こいつに負けたというだけで悔しいわけじゃない。私が華琳さまを導くことは叶わなくとも、その考えを理解はできるつもりだった。なのに今回ばかりはその理由が判らない。私が華琳さまについてわかっていない何かがあったから華琳さまが西涼を選んだことが理解できないのだった。そして、こいつはその理由を知っているから華琳さまに西涼を薦めた。華琳さまもこいつが西涼と言ってくれると思って探したのだった。
「一体何なのよ!何を知っているの!」
「……俺も判らない」
「嘘よ!」
「俺も華琳が西涼に関して、馬騰に関して何か俺たちに言っていないことがあるのは判る。だけどそれが何なのかまでは判らない」
「それはどうやってわかったのよ」
「西涼は俺がとっくに話をしてみた。が、何故かあまり乗り気じゃないようだった。…その表情やめろ。俺もこの件がなかったらお前と一緒に徐州を薦めていた。寧ろもう徐州に行ってた」
「…まあ、いいわ。じゃあ、どうしてあんたは西涼と言ったの?」
「一つは馬騰が死にかけていること。連合軍では話題にならなかったが、西涼では馬騰が重病という噂が結構広まっていたらしい。文遠や、帝の情報網から確認したものだ」
「……」
「それが突然好転したという噂も信じがたい。向こうもおそらく華琳の動きを警戒しているのだろう。馬騰と華琳の間には必ず何か揉め事があったはずだ。だがそれが何なのかは判らない」
馬騰と華琳さまの間にあった事。
馬騰についての情報は中原にはあまり広まっていない。漢の忠臣であったことと、華琳さまに並ぶ女好きであったことぐらいだった。まあ、実の娘が居るのだからつまりは両方イケるってわけね。
「私だって馬騰についてはあまり知らないわ」
「…華琳にたずねても恐らく答えないだろう」
「じゃあ、知っていそうな人は…今は一人しか居ないわね」
こいつや私が居るより更に前から華琳さまに仕えた、春蘭と秋蘭。が、秋蘭は行方を知らない今、頼りは春蘭だけだった。
「でも春蘭が覚えているかしら。昨日食べた献立も覚えていない馬鹿よ」
「誰が振り返れば三秒で忘れる馬鹿だと!」
「さすがにそこまでは言ってないってうわっ!」
どっから現れた!びっくりした。
「貴様らが二人でこっそり消えていくから付けてきたのだ」
「気配を感じなかった…鈍ったのか。なんという屈辱…!」
アイツが何か一人で悔しがっていたけど私はそれよりも大事な話があった。
「春蘭、あなたは知っているの?」
「何をだ」
「華琳さまがどうして馬騰にあれほど執着しているかよ」
華琳さまが英雄との戦いを望んでいることは知っていた。今華琳さまが英雄と認める者はこの天下に劉備と馬騰、後は孫策ぐらいでしょうね。
でもその馬騰へのあの執着はそれ以外の何かがあった。しかも英雄との戦いを望む気持ちならば病状の相手に戦争を申し込むことは理が合わない。
「馬騰か…む…う~ん…あ」
「何!覚えてるの!」
奇跡だわ。春蘭が三日より前のことを覚えているなんて!
「なんか酷い失礼なことを考えていないか?」
「そんなことどうでもいいわよ!いいから今思い出したことを忘れてしまう前に早く吐きなさい!」
「……何をだ?」
「ほら!もう忘れた!この鳥頭!」
「誰が鳥だ!冗談だ!」
「はぁ!?ふざけないでよ!そんな冗談言って許されると思ってるの?いっぺん死ね!」
「…お前ら本当仲悪いよな」
「「貴様が言うな!」」
実際、ここに居る三人は本当に仲が悪かった。
「で、覚えてるならさっさと吐きなさいよ!」
「無理だ」
「なんですって!もう忘れたの?!」
「だから違うと言ってるだろ!あのことは華琳さまから誰にも話さないように命じられているのだ!だから私の首に刀が入ってきても口には出さん!たとえ相手が貴様らだとしてもだ!」
「…そんな……」
一体どれだけの事件があって私たちにまで隠されてるのよ……。
「…元譲、一つだけ忠告しよう」
「何だ?」
「何か秘密を隠す時にはだ。それが秘密であることさえも隠さなければならないのだ。でないと貴様がそれを言わなくても探す方法はいくらでも出てくるからな」
「あのことは秋蘭と私しか知らん!」
「それはみなければ判らない。…いっそ覚えてないと言えば馬鹿呼ばわりされて済むものを…」
アイツはそう言ってその場を離れた。
「おい、待て、貴様!どういうことだ!私が何か言っちゃいけないことを口走ったのか?おい、桂花!そうなのか?」
「知らないわよ」
「どうするのだ!後で華琳さまに怒られたら貴様のせいだぞ!」
「なんで私のせいなのよ。口に出したのはあんたでしょうに」
「なんだと!!」
「ああ、もううるさい。私ももう帰るわ」
アイツの言うとおりだった。
華琳さまがあそこまでした隠そうとなさっている秘密だった。どこかにかせを解くもうもう一つの緒があるはず。
忠臣としてすべきはことはどっちか。主君が隠そうとする所を見てみぬ振りをするか。それともそれを底まで探るか。
どうやらアイツと私の選択は今回は一致しているみたいだった。




